SS：パングラムへの愛飢えを

あいうえお

かきくけこ

さしすせそ

たちつてと

なにぬねの

はひふへほ

まみむめも

やゆよ

らりるれろ

わをん

──────

一.パングラム

並べ病み、割り折れ沈む地。

火、燃えける夢。

船は帆に、布袖よと左遷。

数多語句を使い切ろう。

二.春雨

冬経ち、背に春空。

意味持つ人が沢山交わり、目、手へ罠。

ホケキョの声を煽ろう。

濡れ、休む音。

三.蛍の競争

見上げて夏夜。

蛍、目に飛び舞う。

風吹き揺れ、無作。

凛、と少し温い。

その地路や、藁をも追え。

四.乾く秋の空気

実りゆく木らを、

目に焼こう。

茜さす頬と手添え、

寄れば渋い沼も、

無論、土消せる日向。

輪へ。

5.冬の終わり

冷える空気で滅入れば、

弱ったその病む根、見守り。

何か凍らぬ火を上げろ。

地と刺せん末、

冬、星へ。

──────

あいうえお

かきくけこ

さしすせそ

たちつてと

なにぬねの

はひふへほ

まみむめも

やゆよ

らりるれろ

わをん

──────

六.おわりに

名前らを読む遊戯。

根掘り抜く地に部屋。

振るわぬ未練の指す手消せまい。

言葉遊び、面白かった？

──────「パングラム（pangram）」
…...ギリシア語で「すべての文字」という意味。向こうではすべての文字、つまりアルファベット26文字を使い文章を作るのが目的である。ここでは「あいうえお」、つまり五十音をすべて、かつ一文字ずつを使い切り文章を構成している。「シンプルな文章の並びのくせに、その裏では作者の血の滲むような努力が隠されているところが非常に魅力的である」と、著者は述べている。