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舞城王太郎『煙か土か食い物』感想文

ネタバレがあります。未読の方はご注意ください。




「一族もの」だと思います。(舞城が2012年に、『ジョジョの奇妙な冒険』のオマージュ、『JORGE JOESTAR』を執筆した理由の1つは、『ジョジョの奇妙な冒険』も、「一族もの」だからだと思います)。『煙か土か食い物』では、家庭での一族の問題が、物語の基礎に存在しています。また、「連続〇〇事件」を語り手が解決していくミステリーでもあります。物語終盤には、「連続〇〇事件」の犯人が、奈津川一族の家で暴れまわるシーンがあります。これらの要素を含んでいながら、喜劇的で速さがある文体で、物語は叙述されていきます。

つまり、『煙か土か食い物』の主題は深刻ですが、それが喜劇的な文体で描写されているため、読者はこの物語を読みながら、笑ってしまう場面にたびたび出会います。ただ僕は、「事件」の犯人の「犯行メモ」(手記?)の記述には、“現実”としての迫力を感じました。『煙か土か食い物』で、舞城の「物語作者」は、村上春樹の名前を何回か出しています。これにはおそらく意図があります。1回目は、NDE(臨死体験のようなもの)を体験した女性の「話」のなかで。2回目は、こころを患っている女性がよく読んでいる本の「作家」の1人として。

1回目の「話」は、村上がよく用いる技法・「現実と非現実との交差」と似ています。2回目は、村上の作品ではこころを患っている人物が頻繁に登場していますが、おそらくこの女性(ウサギちゃん)はそこに共感しているのだと僕は思っています。以上のことを踏まえたうえで以下を書きます。舞城は「現実と非現実との交差」を、村上とは違う角度から用いています。たとえば犯人の「犯行メモ」から、この人物は内面の「声」を聴いていることがわかります。村上の作品では、このような人物は主要登場人物として作中に登場しています。

しかし、『煙か土か食い物』では、「事件」の犯人として作中に登場していました。『煙か土か食い物』は2001年に出版され、村上の『海辺のカフカ』は2002年に出版されています。『海辺のカフカ』では「森」を広大に描いていましたが、『煙か土か食い物』では「森」を細部として描き、この物語の主要登場人物にはそれは取るに足りないもの、のように描いていました。(僕は舞城さんの小説は、今のところ『煙か土か食い物』しか読んでいません。したがって以上に書いたことが、彼のほかの作品にも傾向として表れているかはわかりません)。


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