マオリのAntie(おばちゃん)のやさしさ

#やさしさにふれて

大学時代に留学していたマオリ学部は、マオリ式の「Marae(マラエ)」という集会所があり、その隣に主にマオリが利用できる食堂があった。そこで働いていたのが、みんなにAntie(アンティ)と呼ばれていた、マオリのおばちゃんだ。

Antie(アンティ)って改めて、日本語に訳すとどんな意味なんだろう、と調べてみたら

親しみを込めた「おばちゃん」

とあった。その言葉通り、マオリのみんなに愛されるおばちゃんだった。私も、マオリ学部にだいぶ慣れたころから、時々この食堂にお昼を食べに行っていたのだが、1人でふらっと訪れても

ミホ! よく来たね!! 元気?

と必ず声をかけてくれた。どれだけ、その言葉で心が落ち着き、励まされたことか。まわりのマオリの学生たち(年齢は様々。おじいちゃんくらいの年齢の人も)も同じ気持ちだったようだ。みんな嬉しそうな顔で、アンティとのsmall talk(世間話)を楽しんでいた。

そんなアンティは、私が仲良くなった大学院生のマオリ、フランシスのお母さんでもあった。フランシスは私のお姉ちゃん、アンティは私のお母ちゃん、という感じだった。2人はいつでもウェルカムな雰囲気が漂っていて、一緒にいると、いつも笑い合っていた。今思えば、私は、2人のやさしさに、かなり支えられていたのだと思う。

ある時、私が入っていたマオリのパフォーマンスのサークル「カパハカ」の集まりに、小学生くらいの子どもがやってきた。アンティのことを「ママ!」と呼んでいる。「すごいなあ、アンティ、子だくさんだなあ……」と思っているとアンティは、こともなげに

この子はAdoptedの子(=養子)だよ。でも私から生まれたかどうかなんて、関係ないんだよ。そもそも、みんな、マオリの子は私の子ども、ファミリーだからね^^

と話してくれた。横で聞いていた小学生の子どもも、フランシスも、うんうん、と嬉しそうにうなずいている。

養子縁組のことを、こんな風に話してくれる人に出会ったのは、初めてだった。そして、

こんな広い心の持ちようってあるんだ、こういうやさしさ、っていいなあ。

と心の底から感じた。

あれから20年以上たった今、私は2人の子どものお母さんになった。同時に、英語講師として子どもたちを英語を教えている。

残念ながら養子縁組をするほどのお金、時間の余裕はないけれど「みんな、私の子どもだよ」というあの時のアンティの精神を、心の宝物として持ちながら、いろんな子どもたちに関わっていきたいと思っている。


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