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『無職の大卒 ゼネコン対決編』トリヴィア/インディアンムービーウィーク2021

インディアンムービーウィーク2021パート3上映作品『無職の大卒 ゼネコン対決編(原題:Velaiilla Pattadhari 2 )』のトリヴィアを紹介します。結末に触れる内容はありません。

©V. Creations, ©Wunderbar Films

「マダム、無職って、それ自体が特別な才能です」と主人公のラグヴァランが口にする『無職の大卒 ゼネコン対決編』は、大ヒット作『無職の大卒』(2014)の続編。前作から3年の歳月の後に公開されたが、劇中の時間としては、前作の終わりから約1年後の出来事としてストーリーが語られる。前作を見ておけばより楽しめるが、本作から初めて観たとしても、作品世界の中に入っていけるだろう。

『無職の大卒』(2014)

監督は前作のヴェールラージからサウンダリヤー・ラジニカーントに、作曲はアニルドからシャーン・ロールダーンに代わった。サウンダリヤー・ラジニカーントは、ラジニカーントの次女で、ダヌシュの妻アイシュワリヤーの妹にあたる。脚本も、前作でのヴェールラージから、ダヌシュとサウンダリヤ―の合作となった。

本作のミュージックリリースイベントにて。左が監督のサウンダリヤー・ラジニカーント

本作の最大の目玉は、何といっても1990年代からボリウッドのトップスターとして活躍するカージョルの、それも敵役としての出演。アラヴィンド・スワーミと共演した『Minsara Kanavu』(1997、未)が彼女の初のタミル語映画出演だったが、タミル語の台詞を口にするのは彼女には相当なチャレンジだったようで、それ以降の20年、タミル語映画への出演は途絶えていた。一般にインド映画では、当該言語話者でない俳優が演じ、別の声優によって吹き替えがされる場合でも、カメラの前ではその俳優は脚本にある通りの台詞を口にしなければならない。耳から聞こえる音声と、画面中の人物の唇の動きとがシンクロしていないことが嫌われるためだ。本作でカージョルの台詞を吹き替えたのは、女優兼声優のディーパー・ヴェンカト。封切り後の現地レビューの多くでは、カージョルがアップになるシーンでのシップシンクロはかなり良好だと評価された。

Minsara Kanavu (1997、未)ポスター 

前作で主人公ラグヴァランの恩人として現れる建設会社社長の令嬢アニタを演じるのはスラビからリートゥ・ヴァルマになぜか変更となった。さらに、ラグヴァランの過去にも若干の手が加えられた。前作では「弟は修道院付属の学校だったが、俺は公立学校だった。そのせいで面接の英語に苦戦してる」と自らを語る箇所があり、また大学での留年をほのめかす台詞もあった。しかし本作中では、「お前は7年生から成績優秀で、10年生の時に上級生を抜き全校1位に。大学も主席で学位を得た」と父が語る台詞がある。

『無職の大卒 ゼネコン対決編』より

また、敵役が女性であるため、本作でのダヌシュは武闘がやや控えめになり、良心と機智と人情とで勝負する見せ場が多くなった。主人公ラグヴァランは何かというと警句をひねり、名言風な台詞を口にするが、そのうちの4つほどは、『ティルックラル』から引用されている。『ティルックラル』とは、6世紀ごろに成立したタミル語の箴言集で、古典タミル文学の精華とされている。非識字層も含めたタミル人の基本教養となっており、映画でも何かといえば引用される。文学としての性格は異なるが、日本でいうと『百人一首』のポピュラリティーに近い。

『無職の大卒 ゼネコン対決編』スチル

たとえば、『カーラ 黒い砦の闘い』でも、終盤のコミューンのシーンで、スラムの住人たちが『ティルックラル』の勉強会を開いている様子が一瞬現れる。

『カーラ 黒い砦の闘い』より

『ティルックラル』は、日本語の翻訳も出版されている。その翻訳書における詩句の通し番号でいうと、809、121、34、787の4つが本作中で現れる。

本作中にはまた、同時代のタミルナードゥで起きた事件も取り入れられている。ひとつは、劇中でラグヴァランが組織する抗議の座り込み。これを見た観客は、否応なしに2017年に盛り上がったジャリカットゥ運動を思い出したという。もうひとつ、2015年にチェンナイとその周辺地方を襲った事件が大きくフィーチャーされるのだが、クライマックスに関わることなのでここでは詳細には述べない。

『無職の大卒 ゼネコン対決編』より

▼「ジャリカットゥ運動」については、『サルカール 1票の革命』のトリヴィイアを参照。

劇中で現れる着メロや鼻歌、その他には、ラジニカーントへのオマージュもちらちらと見ることができる。たとえば、『ロボット』(2010)のソング「Boom Boom Robot Da」や、『Mullum Malarum』(1978、未)のソング「Raman Aandalum」など。さらには『ラジニカーント☆チャンドラムキ/踊る! アメリカ帰りのゴーストバスター』(2005)の中の有名な「ラカラカラカ…」という台詞も。

強く魅力的な女性が敵役として主人公と対決するというプロットは、『パダヤッパ いつでも俺はマジだぜ!』(1999)のように過去にも一定数は作られてきた。古い時代のそれには、主人公が女性を平手打ちして叱責したり、あるいはその性的な魅力で女性をメロメロにして屈服させるというストーリーも少なくなかったが、2010年代後半になって、ダヌシュが主演では、さすがにそれは不可能となった。ダヌシュ演じるラグヴァランと、カージョル演じるワスンダラとの関係が、どのように展開し、どこに着地するのかは、本作の見どころの一つと言えるだろう。

[作品紹介]

無職の大卒 ゼネコン対決編(原題:Velaiilla Pattadhari 2)

©V. Creations, ©Wunderbar Films

主人公、再び無職に
建設会社への就職を果たしたラグヴァランは、スラム再開発プロジェクトでの仕事ぶりが評価され、設計・建設賞の最優秀技師賞に選ばれた。大手のワスンダラ建設から引き抜きのオファーを受けるが、ラグヴァランは自分を拾ってくれたアニタ建設への義理を通すために断る。怒りに火が点いたワスンダラから執拗な攻撃を受け、ラグヴァランは再び無職になってしまう。人気作品『無職の大卒』の続編。悪役にはヒンディー語映画界の人気俳優カージョルが登場。

監督 サウンダリヤー・ラジニカーント
出演 ダヌシュ、カージョル、アマラ・ポール、サムドラカニ、ヴィヴェーク
音楽 シャーン・ロールダーン
2017年 / タミル語 / 125分
映倫区分:G
©V. Creations, ©Wunderbar Films

▼上映情報は、IMW公式サイトにてご確認ください。

前作『無職の大卒』はインディアンムービーオンラインで配信・DVD発売中のほか、DVDレンタルも利用可能。

無職の大卒

https://vimeo.com/manage/videos/557574553




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