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『ジョンとレジナの物語』 作品トリヴィア/ インディアンムービーウィーク2021

インディアンムービーウィーク2021パート3にて上映の『ジョンとレジナの物語』。作品トリヴィアを紹介します。結末に触れる内容はありません。

©A. R. Murugadoss productions, ©Fox STAR Studios, ©Next Big Film Productions

『ジョンとレジナの物語』は、『火花 -Theri』(2016)、『マジック』(2017)、『ビギル 勝利のホイッスル』(2019)と、ヴィジャイ主演作で立て続けにヒットを飛ばしたアトリ監督のデビュー作。シャンカル監督のアシスタントとして『ロボット』(2010)などに携わり、20代後半にして第一作を手掛けることになった。

©A. R. Murugadoss productions, ©Fox STAR Studios, ©Next Big Film Productions

本作冒頭のクレジットは、アーリヤー、ジェイ、ナヤンターラ、ナスリヤ・ナシームの順番に現れるが、当時の大方の観客の視線は、プライベートでの「世紀の大破局」を巡るゴタゴタによりタミル語映画から遠ざかっていたナヤンターラの3年ぶりの復帰に集中していた。それを充分知っていた製作者は、本作のティーザー発表の際に「アーリヤとナヤンターラが結婚」というシンプルなイメージポスターを作成して配布した。作品名も役名も書かれていないこのポスターで勘違いをした者は多く、大騒ぎになったという。ナヤンターラも期待に応える演技によって、タミルナードゥ州映画賞を始めとする各種の賞を総なめにした。

ティーザー発表時に公開されたポスター

ナヤンターラが中心にいるとはいえ、脇を固める俳優たちにも注目は集まった。マラヤーラム語映画の子役出身で、本作公開の2013年にヒロインとしてデビューしたばかりのナスリヤ・ナシームは、そのキュートな魅力で観客を刮目させた。サティヤラージは、同年公開の『MIRCHI/ミルチ』や『チェンナイ・エクスプレス 愛と勇気のヒーロー参上』とは全く異なる、ウルトラスタイリッシュでリッチ&リベラルな父親像を好演した。

父親を演じるサティヤラージ

また本作では、アーリヤー演じるジョンの友人として、アフリカ人と日本人が登場する。日本人を演じた俳優は不明だが、アフリカ人オマシの役で際どいギャグを演じたのはアルンラージャー・カーマラージ。この人は、コメディアンとしてよりも歌手、作詞家、映画監督として有名で、音楽では『ジガルタンダ』の「Ding Dong(ディン・ドン)」、『帝王カバーリ』の「Neruppu Da」の作詞とボーカルを担当するなど、大いに活躍している。また監督としては、古くからの友人だったシヴァカールティケーヤンを主演にしたスポーツドラマ『Kanaa(夢)』(2018、未)でデビューして、成功を収めた。

アフリカ人オマシ役のアルンラージャー・カーマラージ

本作でのデビューと言えば、カメラマンのジョージ・C・ウィリアムズも。らしくない名前だが、チェンナイ生まれのタミル人である。本作の流麗なカメラワークが評価され、その後も『Kaththi(刃物)』(2014、未)、『俺だって極道さ』(2015)、『火花 -Theri』(2016)などを手掛ける第一線のカメラマンとなった。

ミュージック・ディレクターはG・V・プラカーシュ・クマール。『世界はリズムで満ちている』(2018)の主演俳優として知られているが、作曲家としてのキャリアは2006年から始まっており、本作時点ですでにヒットメーカーの一人に数えられていた。ポップで若々しい楽曲であふれた本作サントラは7曲からなるが、「Angnyaade」が実作品中で使われなかったことはファンを残念がらせた。

恋愛が成就せず、お見合いで心ならずも結婚した男女が、結婚後にお互いの努力によって信頼関係を築き、夫婦愛を育んでいくという展開は、お見合い結婚が主流のインドでは非常に現実的な物語であるはずなのだが、映画の中では「運命の恋」、「一生でただ一人の相手」というコンセプトが圧倒的。そうしたものを信じ込み、幼い初恋に破れると自死を選んでしまうような若者も無視できないほどに存在する。このような自由恋愛の絶対視を戒めるようなメッセージを込めた作品は、数は多くないながらこれまでも存在してきた。

本作を見たタミル人観客の誰もが思い描いたのが、マニラトナム監督の『沈黙の旋律(ラーガ)』(1986)だ。野性的で活動的な青年との恋の悲劇的な結末の痛手を引きずる妻が、優しい夫との新婚生活を異郷ですごすうちに、徐々に心を開いていくというストーリー。ヒンディー語の『ミモラ 心のままに』(1999)も同じような展開の物語だった。また、『Autograph(記念のサイン)』(2004、未)は、主人公の男性が、淡い初恋、熱烈な恋愛、女性との厚い友情などを経て、お見合いで結婚するまでを描くもので、公開当時は斬新なロマンスと受け止められて大ヒットした。より直接的には、『Milana(寄り添い)』(2007、未)というカンナダ語映画から本作はインスピレーションを受けたものと思われるが、両者の風合いやキャラクター造形、アクセントがおかれる要素などは全く異なっている。

『Milana(寄り添い)』(2007、未)

【作品情報】

ジョンとレジナの物語(原題:Raja Rani)

©A. R. Murugadoss productions, ©Fox STAR Studios, ©Next Big Film Productions

愛に挫折しても、人生は続いて行く

お見合いによって結婚することになったジョンとレジナ。新郎新婦はどちらも、親の説得に負けて不本意に形ばかりの結婚生活に入ったのだった。ある時レジナが体調を崩したことをきっかけに、ジョンは彼女が過去にスーリヤという男と愛し合っていたことを知る。しばらくしてレジナも、ジョンの友人から彼とキールタナという女性との悲恋物語を聞く。パートナーの過去を知ったことで、2人の心には変化が起こるが、そのことをうまく伝えられずにすれ違ってしまう。ヒットメーカー監督、アトリのデビュー作。

[作品情報]
監督:アトリ
出演:アーリヤー、ジェイ、ナヤンターラ、ナスリヤ・ナシーム、サティヤラージ、サンダーナム、サティヤン、ラージェーンドラン、マノーバーラー、ガーナー・バーラー(特別出演)
音楽:G・V・プラカーシュ・クマール
2013年/ タミル語/ 164分
映倫区分:G

▼上映情報は、IMW公式サイトにてご確認ください。


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