見出し画像

自分の強みは他人が見つけてくれる

画像1

人間力最大化計画計画長の倉本美津留が聞き手となり、コピーの巨匠・小西利行の人間力に迫る。
※昨今のコロナウイルスの感染拡大による社会情勢のため、
 人間力最大化計画は開講日が7月3日(金)に延期となりました。

──小西さんにとってのブレイクポイントは。

僕は学生時代、パイロットに憧れているような人間でした。
広告代理店に入ったのも、当時はマーケターがでっかい携帯電話を持って肩で風を切るカッコいい仕事というイメージがあったから(笑)
それで博報堂に入社したらマーケティングには向いてないと言われ、新卒が12人しか配属されないクリエイティブに「13人目」として入った。
冗談ではなく、実際に先輩に「小西くんはクリエイティブに配属される予定じゃなかったけど、仕方なく配属したから頑張れ」と言われたんです。

そんな感じで、僕はある意味ずっと「異端児」だった。
当時は広告のコピーといえばオシャレなことをうまい表現で言うのがトレンドでしたけど、
僕はああいうのが嫌いで、短い言葉でそのまま言ったほうが分かりやすいのにな、と思っていた。

そんな僕のブレイクポイントは、まず入社4年目に、「モノより思い出」という日産セレナのコピーを書いたことです。
これもごく当たり前の実感を言っただけで、マーケティング的な戦略も、洒落た斬新な言い回しも全くなかったんだけど、
それがはからずも周りに深読みされて、「時代の転換点を捉えた」とか「価値観が変化した」と評価してもらった。

もう一つのブレイクポイントは、ソニーのプレイステーションの広告に携わったことです。
まだ入社数年目で、何本コピーを出しても何本企画を出してもいっこうに評価されず、先輩からダメ出しを受け続けた。
会社行くのが嫌すぎて、知らぬ間にガラスに頭をゴンゴンぶつけていたくらい病んで、
もう辞めて実家に帰ろう、昔から好きだった落語を書く仕事をしよう……という所まで思いつめたんです。
でも、落語でよくある掛け合いをヒントにふざけてコピーを書いたら、ようやく先輩が「これはいい!」と笑ってくれた。
そこから「いたずら」を広告で意識的にやるようになったのが、もう一つのブレイクポイントです。

──自分の強みを見つけるのはなかなか難しいことですよね。

自分が全然そう思ってなくても、他人が褒めて評価してくれたこそ気付く長所や強みがあります。
「こにたんはそういうところがいいよ」「ここが面白かったよ」って言ってもらえると、途端に自分の世界が広がる感覚を持てた。
「自分は自分で強みを見つけようとしたことが一度もない。自分の所に良いオファーが来た時にしっかり抱きつくようにだけしている」と、
川村元気も同じようなことを言っていて、僕も納得しました。

僕は元々、落語が好きだったり、滑稽な三の線が好みだったり、シュールなCMが好きなんです。
でも仕事で評価されたのは、伊右衛門、プレミアムモルツ、プレミアムフライデーなど、堅いテイストが多かった。
個人的に好きなテイストと世の中でウケるテイストが違うことに最初は戸惑いましたけど、
今は堅いテイストに軸足を起きながら、ふざけたテイストを新しい挑戦でやるといったバランスが取れています。

そして人に気づかせてもらった自信によって、新しい仕事や未知の領域にも乗り込めるようになったんです。
僕にとってコピーライターというのはあくまで肩書で、色んな仕事を「言葉」という強みで回しているだけ。
何か一つでも自分の強みを見つけ、それが人から評価されればさらに自信を持てるようになるし、
新しいつながりや人との出会いが生まれれば、さらに未知のジャンルに挑戦して、自分の強みを活かせるようになる。

そうやって今は広告業だけでなく、ホテル事業や都市開発など異業種の仕事にも関わっています。
CMを作る時には架空のターゲットを設定してストーリーを作る手法をよくとりますが、
これをホテル事業にも応用して、小説や映画のようなワンシーンを想定しながらコンセプトを作る。
たとえば、ある女性がホテルに入ると、窓から日差しが降り注ぎ、庭の水面が光り、長い廊下を進んだ先に美しい花があって…
というように美しい光景やかっこいい場所を妄想すると、建築設計が「それならこうしよう」と具体的な案で実現してくれる。
異分野でのコラボによって、違う理屈や思いがけないアイディアが新しい物を生み出す原動力になるんだ!と分かってからは、
視野が広がったし、自分が何をやってもいいんだという考えにもなりました。

──博報堂退社後は独立して会社を立ち上げましたね。

仲間を持つことで、自分だけじゃできないこともできるようになるのは、ワンピースと同じですよね。
ただ、仲間とはなあなあな関係より、とことんぶつかって、闘ってて心臓が痛くなるくらいのほうが僕はいい。
アートディレクターにしろデザイナーにしろ、こちらの言うことを全然聞かない人と組むことで、
何かを突破して新しいものが生まれる瞬間があるんですよ。

そういう意味では、僕はすごく尊敬している人物がいて、「桃太郎」なんです!(笑)
桃太郎って凄まじいリーダーシップの持ち主で、鬼を退治するっていうめちゃめちゃ恐ろしいプロジェクトに、
犬と猿とキジにきび団子みたいなつまらないものを渡して一緒に命をかけてほしいと頼んで仲間に巻き込むんですよ。
ちょうどスタートアップの創業者と同じで、紙くずになるかもしれないストックオプションを条件に、
僕と一緒に夢を叶えようって呼びかけて仲間を募り、成功するかわからない新しい事業に乗り出す訳です。

僕が思うに桃太郎が成功したのは、恐ろしい鬼とまずちゃんと対峙したから。冷静な戦略より先にまず行動したからです。
新しいことや現状の課題に対して、やれるというか、やっちゃうというか、やってもうた!くらい先走った行動力が必要。
もっと言えば、そもそも「鬼」が何なのか、ちゃんと見極めることが大事です。
それを見極められてないうちに、一緒になにか事業をやろうとしても、お互いがうまくいかない。

今回の授業はある意味老若男女問わず、「全員桃太郎計画」なんです。コピーライターっぽいでしょ?(笑)
目標をセットし、仲間を巻き込む力が持ち、目的達成の戦略を持って……そんな桃太郎になれる方法論を考えていきたいですね。

画像3

──今回のように、トップクリエイターによる少人数の授業は珍しいですが、どんな授業にしたいですか。

講師陣と直接会うことで、情報や作品だけじゃなく、才能やキャラクターや面白さも互いに分かるようになるでしょう。
一方で我々も生徒さん一人一人わかりながらコミュニケーションが取れるので、必然的にその内容は強く濃くなる。
不特定多数の人に語ることと特定の生徒さんに伝えることは、具体性が全然違ってくると思います。

同時に、インプットしたらアウトプットする、そうしないとインプットは完成しない、と僕は思っています。
誰かに何かを教わったら、同じことを自分でもう一度やってみることで、初めて自らのものになっていくのです。
ですから授業を通じて、積極的で能動的なアウトプットをしてくれたらいいなと期待しています。
このような機会はめったにないからこそ、一緒にこんなことやってください!これ見てください!と積極的に言ってほしい。
僕たちも仕事のオファーが来た時に相手を知っているかどうかが大きなポイントですから、こういう機会をぜひ利用してください。
こういう時代だから前向きに世の中を変えていきたいという人が増えるといいですね。
才能があるのに爆発してない…そんな勿体ない人はまだまだめちゃめちゃ多いですよ。

(倉本)少人数のクラスではすから、トップクリエイターの皆さんに「会いに行く場所」「繋がれる場所」だと思ってもらっていい。
それぞれにあった具体的な指導や、ダイレクトなコミュニケーションが取れるし、自分の仕事を広げるチャンスや売り込める場所でもある。
これまであまり興味がなかったクリエイターやジャンルとの出会いにもなり、自分との新しいマッチングもあるはず。
自分の知らない自分や能力を発見できる機会となることは間違いありません。

画像4

──小西さんはこれからの世界の潮流をどう見ていますか。

実は僕は反省ってあまり意味がないと思っています。
振り返れば、開発に1年もかけた飲料メーカーの新商品の売上が奮わず、発売2日間で終売が決まったこともあった。
でもそういうときは何がダメだったか語り合っても僕は無駄だと感じています。
だって、その反省も既に過去になってしまうから、次に頭を切り替えたほうがいい。
それくらい時代はどんどん変わり、価値観は変化しているからです。

僕はこれからの世界は、「愛」に回帰すると思うんです。
平成は「効率」の時代でした。たとえば、高いビルを建てて床面積を増やしたり、有名なテナントを集めて集客したり。
でも今後は、特別な「愛着」を持てるものに価値を見出す時代になると思います。
規模は小さいけどめちゃめちゃ面白いものとか、いかに長い間付き合えるかとか、いかに好きになれるかとか。
たとえばGAFAのサービスは、ユーザーが何かをリクエストすると、一瞬で便利な機能や情報を提供してくれるけど、
AIにアシストされていることはどこかで人間的な感情がついていけていない面があると思うので、
今後は長く時間をかけて築いた関係性や、愛着を持てるコミュニケーションはどのようなものなのかがテーマになる気がします。

また、広告業界、コミュニケーションビジネスに携わる者としては、今後は「問う力」の時代であり、「答える力」の時代は終わったと思う。
たとえばこれまではある課題に対して、こんな解決法がある、こんなアイディアをあると提案する能力が重要でしたが、
これからは、その課題は本当に課題なのか?そもそも解決する必要があるのか?と課題そのものを問い直す能力が求められている。
極端に言えば、「机が欲しい」というニーズに対し、「机がそもそも必要なのか?」をもう一度考えるというようなことです。
世の中がどんどん変化していく中で、不確定な時代になるから、ただ答えを見つけに行こうとするのでなく、
人と話す、本を読む、そんな遠回りのアプローチや、問いを再設定する力が必要になっていると思います。

小西利行

POOLinc.小西利行  写真

POOL inc./ファウンダー/コピーライター/

クリエイティブ・ディレクター

CM制作から企業ブランディング、商品開発、ホテルプロデュース、都市開発までを手がける。主な仕事に「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、PlayStation4のCM制作、ラーメン店「一風堂」の海外ブランディングなどがある。

さらに「プレミアムフライデー」「GO! CASHLESS 2020」「食かけるプロジェクト」など国家レベルのプロジェクも推進。2020年のドバイ国際博覧会日本館クリエイティブ・アドバイザーに就任した。また、日本最大のショッピングセンター「イオンレイクタウン」や京都「THE THOUSAND KYOTO」、立川の「GREEN SPRINGS」など都市開発のトータルクリエイションも行う。『伝わっているか?』(宣伝会議)『すごいメモ。』(かんき出版)を上梓。

人間力最大化計画

放送作家の倉本美津留が発起人となり、各界のトップランナー12名が集結する特別集中ゼミです。
映画、CM、音楽、デザイン、写真、編集、アート、お笑いなど、各界のトップランナーたちの代表作の秘話や、自身が考える未来戦略を講義など、対話・セッションを通じ、ここでしか学べない特別な見識を身につけてもらうことを目的としています。
https://ningenryoku.jp/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?