見出し画像

機械式時計のカラクリ(第1編)

皆さん、こんにちは!今日は「機械式時計がどうやって動くのか」というテーマで、その謎を解き明かしてみたいと思います。いつも腕に巻いているその時計、細かく説明できますか?「うーん、ゼンマイが何かしてるんだろうけど…」となること、多いですよね。ざっくりとわかるけど細かくは説明できない…。一緒にその仕組みを探っていきましょう。

※内容が濃く、このトピックを3回に分けて書きたいと思いますので、よろしくお願いします!

機械式時計の基本機構

機械式時計の魅力はその機構にあります。「機構」とは時計という機能的な機械を動かす“しくみ”であり、内部構造のことを指します。その機構は、大きく分けて①貯蔵、②伝達、③調速、④表示の4つの要素で成り立っています。
この記事ではまず、①貯蔵と②伝達に焦点を当て、解説してきます。

機械式時計の4つの要素(元イラストに筆者加筆)

(ちなみに↑の図は何回も出てくるので頭の片隅に入れておいてください)

①貯蔵:エネルギーを貯める

機械式時計のとも言えるのが、エネルギーの「貯蔵」機能です。「貯蔵」とは、時計が動くためのエネルギーを蓄える部分です。主役はゼンマイ香箱

ゼンマイは端的には、うずまき状の”バネ”です。ゼンマイを巻き上げる動作でそのバネを変形させ、元に戻ろうとするエネルギーを徐々にリリースすることで時計が動きます。引っ張った輪ゴムはエネルギーが貯まってる状態で、手を放すと輪ゴムがもとの形に戻るように、放たれます。輪ゴムと同じように、ゼンマイはこの原動力・エネルギーを貯め込む役割を担っています。
ただ、輪ゴムとの違いは、一気に放たれるのではなく、1秒1秒正確に刻むように徐々にほどけること。ここの仕組みは次回の③調速で説明しますね。

また、香箱はゼンマイを格納する役割を持っています。

ゼンマイは想像通り合金でできた長い”バネ”

最近の時計であれば、ゼンマイを巻き切れば50時間程度の稼働時間(「パワーリザーブ」と言う)が得られます。言い換えると、一回巻き上げると、そのエネルギーだけで50時間が動き続けるということです。例えば、3日間のパワーリザーブがあると、金曜日仕事につけて巻き上がったら、週末はいじらずに放置しても、月曜の朝付になっても時計は稼働しているという便利さがあります。どの時計を買うにしてもスペックにパワーリザーブは書いてあるのでぜひ見てみてください!
時計の内部機構によってパワーリザーブの持続時間は異なりますが、例えば、ダブルバレル(香箱を意味するバレル、2つを意味するダブル)にすることでより長い持続力を実現したりします。

IWC ポルトギーゼ 150 years は8日間のパワーリザーブ(公式HPより

余談ですが、時計をオーバーホールに出す(時計師による定期的なメンテナンス、「分解掃除」と訳されることが多い)ときは、ゼンマイを取り出して洗浄して、オイルをつけて組み立てなおします。この際に、ゼンマイ自体が長いので、曲げないように気を付けて行います。場合によっては、ゼンマイ自体を新しいのに交換したりもします。

②伝達:針の動きを調整する

これまではゼンマイでエネルギーが貯蔵される仕組みを見てきました。そのエネルギーは歯車へと静かに解き放たれていくのです。そこを担うのが②の「伝達」です。

ここでは、歯車が組み合わされた、いわゆる輪列がポイントになります。改めて冒頭の図を見て頂くと、三つの歯車が繋がっています。これらの輪列は、エネルギーを伝達するだけでなく、それぞれの歯車の歯数を調整することで、歯車が決まった回転数で動くようなります。具体的には、60秒で1周する秒針、60分で1周する分針、12時間で1周する時針という回転周期に合わせて歯車が回るように設計しなければなりません。

輪列構造の概略

もう少し詳しく解説します。先ほどの香箱は別名一番車と言い、中に収めたゼンマイが巻き戻ることで、香箱は回ります。その回転は二番車、三番車、四番車の輪列で伝達されます。噛み合う歯数の関係で、回転は順に速まり、ゆえに「増速輪列」とも呼ばれます。秒針は最も早く回る四番車、分針は二番車によって動かされます。時針は、図の通り、二番車にもう一つ別の歯車を繋げて減速されながら動きます。

一番車~四番車の関係性

これが理解できると「スモールセコンド」と言われる機構の理解も深まります。腕時計をイメージされるとき、文字盤の中心に秒針があると思います(「センターセコンド」)。デザインによってはセンター中央部以外に配置される秒針もあり、これらを「スモールセコンド」または「スモセコ」と言います。

左はセンターセコンド、右はスモセコ(公式HPより、イラストは日本時計輸入協会)

センターセコンドの場合、時針・分針・秒針がすべて文字盤の中心に配置されており、その結果、二番車と四番車も同じ軸上に位置することになります。これに対して、スモールセコンドの場合、四番車の配置を変えることで秒針の位置を自由に設定できます。

つまり、デザインに合わせて内部機構自体を変更する必要があり、時計を一つ作り上げるのには相当な時間と労力が要されるわけです。毎年新しいモデルを発表する各時計ブランドの技術力と創造性は、まさにその手腕の賜物と言えるでしょう。

この流れで一つクイズを出させてください!笑。奥が深い、ムーンフェイズについてです!「ムーンフェイズ」とは1950年代〜60年代にかけて旺盛を極めた、月をモチーフにした円盤が回転する、神秘的な機構を指します。月の満ち欠けなので29.53日に一回転するのですが、歯数をどのように設計すれば正しく月を示してくれるのでしょうか?ちょうどいい感じに歯車達が設計されているんですよね。また後日これについて書こうと思います。

ブランパンのお茶目なお月様(公式HPより)

おわりに

以上が、機械式時計の基本機構の前半部分です。ゼンマイが巻き上げることでエネルギーが「①貯蔵」され、徐々に放たれることで輪列機構を通じて「②伝達」していきます。

最後に、前回も触れた、手巻きと自動巻きの違いについて。これは、貯蔵するエネルギーの源がどこにあるか、という点で異なるだけです。手巻きはユーザーが自分でゼンマイを巻くことでエネルギーを貯め、自動巻きは腕の動きを利用して、時計の中にある”振り子”が動くことでエネルギーが貯まります。

次回は、時計の”心臓部”と言われる③の調速の仕組みをもっと詳しく、そして一番人の目につき時計の”顔”と言われる④表示についても話していきますよ。お楽しみに!

次回は③と④を詳しく!

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?