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カウンセリングとは、次の人生へ背中を押すことである

 主にメンタル不調の方を対象に、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)支援を行うインクルード。脳科学に基づくブレインフィットネスなどのプログラムが大きな特徴のひとつですが、カウンセリングの重要性から、事業所でのカウンセリングにも積極的に取り組んでいます。

 今回は、自立訓練(生活訓練)事業所である「ニューロフィット横浜関内センター」と、就労移行支援事業所の「ニューロワークス横浜センター」でカウンセリングを担当されている臨床発達心理士の東鬼裕子(とうき ゆうこ)さんにお話を伺いました。


編集部:
本日はよろしくお願いいたします。


東鬼:
よろしくお願いいたします。


編:
早速ですが、カウンセラーという職業は、カウンセリングを通じて人の人生を大きく左右するものだといえます。そうしたカウンセリングに携わるようになった経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか。


東:
今はニューロフィットやニューロワークスの横浜センターでカウンセリングを担当していますが、元々は公立学校で教諭をしていました。そこで校長から依頼を受け、校内カウンセラーとして活動することになったのが始まりです。

当時の勤め先の学校では特に不登校の相談が多かったということもあり、教諭として勤める傍ら、心理学を学ぶために大学院へ進学しました。


編:
なるほど。心理学に関する専門的な知識はそちらで学ばれたということですね。ときに教師でありときに学生であり、勤めながら学ばれるのは大変だったと思います。

大学院修了後は、そのまま学校でカウンセリングを続けられたのでしょうか。


東:
実は、大学院修了後に通信制高校に転職しました。また、新しい高校では発達障害の生徒が多かったこともあり、今度は発達障害の研究が活発な大学院で学ぶことにしました。

教諭時代は一貫してカウンセリングと就労支援を受け持ってきたということで、現在はニューロフィット横浜関内センターやニューロワークス横浜センターでカウンセリングを担当させていただくようになりました。

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編:
「カウンセリング」と「就労支援」という点で、ニューロフィットやニューロワークスの事業と親和性が高かったということですね。

カウンセリングというと、もしかするとあまり詳しくない方にとっては「話を聞く」という程度の認識かもしれません。実際には相談者との会話の中でさまざまなやりとりがあると思うのですが、カウンセリングを行う際の心構えや注意点、強く意識されている点などはあるのでしょうか。


東:
相談者に対して「ああしなさい」「こうしなさい」といった指示を出さない“来談者中心療法”では、確かに傾聴や共感が大切です。しかし、聞くだけでは解決しないことも多くあります。そういった場合には、相手の感情を否定することなく、話し合いながら「歪んだ捉え方」を違う方向に変えるお手伝いをするという点を意識しています。


編:
「聞きすぎてもダメ」、「話しすぎてもダメ」ということですね。

カウンセリングは、決してその場ですぐに解決や成果が見えるものではないと思います。おそらくはカウンセリングを終えて、何日も何週間も、場合によっては何ヶ月も変化を待つことが求められるものといえます。

ちなみにですが、これまでの相談事例や解決事例として特に印象に残っているエピソードなどはありますか。


東:
若い女性の方の事例で、勤め先の会議に参加しても発言せず、上司に理不尽なことを言われてもじっと耐える毎日を送っていたことでメンタル不調になってしまわれた方がいらっしゃいました。しかしこの方がメタ認知トレーニングとアサーションを通して、自分の気持ちの伝え方を学び、そうした姿勢が大きく変わっていった事例が印象に残っています。

他にも、幼少期の家庭環境の関係でアタッチメントの障害(※養育者と子ども愛着関係が形成されず、子どもの情緒や対人関係に問題が生じる状態)を抱えて20数年間過ごされてきた方が、インナーチャイルド(※内なる子ども:自身の中にある本音や本当の感情)を癒し、育て直しをすることで、過去に取り込まれずに俯瞰できるようになった事例も印象的です。


編:
いずれの事例も、過去の自分の枠組みに捉われてしまい、その時々に最善のパフォーマンスを発揮できなかったというケースですね。こうしたケースであっても、カウンセリングを通じて大きく変わることができるのがカウンセリングの可能性なんですね。

そう考えると、カウンセリングの魅力は多くの方々の成功体験に触れられるという点にあるといえますね。

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東:
成功体験といえば、重度の統合失調で入院された経験のある方が過去に囚われていたという事例もありました。症状は重度だったのですが、日々の通所の中でプログラムやカウンセリング、また周囲の仲間の助けもあって克服されたことで、社会の中で大きな一歩を踏み出すことができたケースです。その方は今も元気に仕事をされていて、つい先日にはその方が以前まではどうしても行けなかったつらい想い出の場所に、一緒に行ってランチを楽しむことができるまでになりました。


編:
過去のつらさを克服されたケースですね。

カウンセリングは、おそらく一度で効果が現れるようなものではないと思います。やはり繰り返しが大切なのでしょうか。


東:
その通りで、これまでにお会いした方の中には症状が改善し、寛解しているにもかかわらず過去の発病の際の出来事に囚われてしまい前に踏み出すことを躊躇されるという方もいらっしゃいました。しかしそういった方でも、メタ認知トレーニングを繰り返すことで勇気を出して前に進んでいくことができました。


編:
焦らず、それでいて着実に日々のカウンセリングやトレーニングを行うことが悩みや問題の解決につながっていくということですね。

さまざまな相談者のカウンセリングを担当される中で、悩みや問題を無事に解決されて前に進まれる方がいらっしゃる反面、なかなか解決できずに同じ悩みに留まってしまう方もいらっしゃると思います。このような「解決される方」と「解決されない方」にはそれぞれ特徴や違いなどはあるのでしょうか。


東:
おおよその傾向はあるように感じています。カウンセリングを通じて悩みを解決し、前に進まれる方には柔軟に自分の認知に対する捉え方を変えることのできる力を身につける努力を惜しまない方が多いと思います。つまり、自分や自分を取り巻く環境を俯瞰する能力を身に着けようとする方ほど、悩みを解決できているといえます。

一方で、悩みの解決を苦手とする方は自分の思考のしがらみからなかなか逃れることができず、俯瞰できない方が多いのではないかと感じています。こういう方は、時間はかかりますが悩みの外在化を習慣化することで、改善に近づくことができると考えています。

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編:
東鬼さんはカウンセリング以外にも、事業所で心理系のプログラムを担当されているとのことですが、具体的にはどのような内容のプログラムを担当されているのでしょうか。


東:
主に認知行動療法やスキーマ療法に基づくプログラムや、メタ認知トレーニング、ストレスコーピングやトラウマケア、交流分析などを担当しています。また、事業所の利用者の方々にはテーマを決めた1分間スピーチや、参加者の良い面を言葉にして伝える「コンプリメントシャワー」というプログラムが好評で、卒業生の方からは「今も自分に向けて書かれたものを大切に持っている」と言っていただいています。また、就職先のジョブコーチの方から「(卒業生の方が)さりげなく周囲の方々を褒めるのが上手」とのお言葉をいただいたとのことで、卒業後もプログラムで学んだことを活かしていただいているようで嬉しく思います。


編:
事業所でのプログラムを通じて「人の良い点を見つけ、伝える」という習慣が身に付いたということですね。今お伺いした事例を考えると、自立訓練(生活訓練)事業所や就労移行支援事業所を活用する大きなメリットはカウンセリングを利用できるという点だけでなく、プログラムを通じていろいろなことが学べるという点にもあるんですね。

これから事業所を活用しようと考えている方やひとりで悩まれている方に向けて、何かメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。


東:
まずは、「自分のことを支援者に話してみましょう」という点ですね。話すことで頭の中が整理できるだけでなく、俯瞰にもつながります。誰かに話すことができれば次のステップとして、ストレスの原因となるストレッサーと、ストレス反応の間に”間”をつくるために、少し立ち止まって考える癖をつくることができるようになるのではないでしょうか。

立ち止まって考える癖がつけば、自分の考え方の癖(認知の癖)にも気づけるようになります。そして、それに合った適切なセルフケアもできるようになります。まずは話してみること(外在化)と、とっさのときは棚上げをして感情に飲み込まれないようにすることが大切です。


編:
ひとりで考えることには限界があるので、あまりひとりで抱え込み過ぎず、まずは誰かに話すことが大切なんですね。ひとりでお悩みの方は、ぜひ事業所でのトレーニングやカウンセリングを通じて新たな一歩を踏み出していただければと思います。


本日はありがとうございました!

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■回答者プロフィール
東鬼 裕子(とうき ゆうこ)【臨床発達心理士】
高校教諭時代に発達障害の生徒に出会ったことがきっかけで大学院に進学。障害のある生徒の社会適応を支援するために就労支援に携わる。

現在は、インクルード株式会社でカウンセリングやプログラムを通じて就労移行や自立訓練をサポートしている。
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