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七輪車に乗って 1話

「一週間前に」
その言葉を怪訝な思いで聞いていた。しばらくして、なぜか分かった。
一週間前、私は生まれていない。昨日誕生したばかりなのだ。
ウグイスは気がついたのか、少し笑った。
「きみは、まだいないね。だけど、生まれる前のことを聞かされるというのは、これからもあるよ。我慢するんだね」
私はよそ見をした。向こうには丘がある。薄い水色の丘肌に、風が線をつけていく。風に引掻かれるというのは、どんな心持かしら。私にはまだ、緩くそよぐだけだ。
「聞きたまえ。一週間前、奇妙なものを見つけてね。七輪車(ななりんしゃ)だ」
反応をうかがうように、間を置く。私がぼんやりしているので、憮然とした。
「車輪が七つある、自転車だよ。おかしいだろう」
「おかしいかどうか、分からない」
正直に答える。ウグイスはため息をついた。
「いいさ。今から見に行かないか」

 体をくすぐる毛深い草は強い。掻き分けても、気配に振り向くと、もう起き上がっている。覆いかぶさるようにして高圧的だから、進むにも、細心の注意を払った。
「早くおいで」
ウグイスが叫ぶ。それでも慎重に。
 一本の木が現れた。木には、イソギンチャクのような花が咲く。その下に、自転車がある。前と後ろに一つずつ、車輪がつき、あとは顔の部分や、おしりのところ、ハンドルから垂れていたり、サドルに挟まっていたり、補助輪じみたものが見える。
 全部で七つ。
 ウグイスがまたがった。
「後ろに乗って」
「動くの」
「七つも車輪があるんだ、動かないはずないさ」
私がよじ登ると、木の上から笑い声がした。
私も、ウグイスも、見上げて姿を探す。そいつはぞろりと登場した。
「ばかなやつら。のろいの自転車に乗ってやがる」
蛸だ。吸盤を鳴らし、足を躍らせて喜んでいる。
「のろいだって。どういうこと」
蛸はウグイスを見て、鼻を鳴らしたような音をたてた。
「二人で乗ったのが、運の尽き。七輪車は七人で乗るもんだ。あと五人集めないと、お前たちは、自転車から降りられないぞ」
「ほんとう。だめだあ」
座った荷台から降りようとしたが、体が押さえつけられたようで、言うことを聞かない。身をよじっても同じだ。その様子を見て、ウグイスが吹き出した。
「大変だ」






小説家ですと言えるようになったら、いただいたサポートで名刺を作りたいです。後は、もっと良いパソコンを買いたいです。