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地域の人に常連客になってもらうための方法は?【#4.愛される飲食のつくり方】

私たちジソウラボは、「つくる人をつくる」をビジョンに掲げ、富山県南砺市の井波地域で活動している起業家支援チームです。
地方で、そして井波で起業したいという方々をサポートさせていただく中で、よく伺うのが「食文化をつくりたい」という声です。一方で、飲食ビジネスや地方での起業に関心がありながらも、コロナ禍のためになかなか一歩を踏み出せないという方が多くいらっしゃると感じています。
そこで、サステナブル都市計画家の山崎満広さん、建築家でジソウラボメンバーでもある山川智嗣さんをお迎えして、飲食ビジネスを志す方に向けた対談動画を収録しました。それらをテキストで再録し、4回にわたってお届けします。

開業前から、自分とお店を知ってもらう努力を


――今回は、地域の人に愛され、ファンになってもらうにはどうしたらいいか?というテーマでお届けします。まずは山崎さん、ジソウラボのサポートを受けてパン店「baker'shouseKUBOTA」を開業した窪田さんの例について、お話しいただけますか?

山崎:ジソウラボでは、移住起業家をサポートするプログラム「(MA)Pプロジェクト」を展開しています。井波に移住する起業家が地域にソフトランディングできる仕組みを用意し、伴走していくというものです。窪田くんのお店の建設予定地はすでに決まっていたのですが、工事などの都合で完成までには1年近くかかる予定でした。彼の腕は一流で、本当においしいパンを作りますし、人柄も優しくて温厚です。それでまずは地元の人に彼のパンと人柄を知ってもらおうと、お店が完成するまでの間は「nomi」で働いてもらいつつ、週末にパンの量り売りをしてもらいました。通常なら、開業した時がまさに「初めまして」ですが、窪田くんは約1年間「nomi」でパンを売っていました。ですから彼は、お店をオープンした時にはすでに顧客がついている状態でスタートできたのです。


――ジソウラボのサポートを受けていたという点において、窪田さんの例は少し特殊ではありますね。通常は、プレお披露目の機会や開業前の雇用の保証なしに、いきなり地域で開業するという形になると思います。ところで、窪田さんはもともとSNSを一切していませんでしたよね。そこでジソウラボでは、お店の設計図、施工中の段階から発信を始めるようアドバイスをしました。特別なサポートがない場合はさらに、情報発信はすごく重要になってきますよね。

山川:僕も窪田さんのお店のSNSは追いかけていますよ。すごくおいしそうなパンですもんね。情報発信といえば、いわゆる「口コミ」も大事な情報源です。これはnomiの話ですが、僕がすごく「やられた!」と思ったことがあります。かつて初めて井波に行った際、たまたま「nomi」が定休日で行けなかったんです。いろんな人から「nomiのあれがおいしい」ってたくさん聞いていてすごく期待していたのに、食べられなかった無念さといったら…。そうすると、期待度がものすごく上がるんです。「うわーっ、次こそは食べたい!絶対おいしいに決まってる!」って。

――フラれて恋心がさらに募る感じですね(笑)。

山川:「今回食べられなかった。じゃあまた絶対に来なきゃ!」となって、次は確実に予約をして行って、とうとう行ってみたら料理もサービスも素晴らしくて、大ファンになってしまったわけです。そして実は、「baker'shouseKUBOTA」でも同じような経験をしました。周りの人からすごくいい評判をたくさん聞いていて、やっと行けて並んでいたら自分の前のお客さんで売り切れになってしまったり、行ったら閉まっていたり…。それでやっと買えるチャンスが来たら、もうずっとおあずけを食らった子どもみたいになって(笑)。お腹いっぱいなのに5個も6個も買ってしまう。それがまたすごくおいしくて、一気に大ファンになってしまったんですよ。

――せっかく来てくれた人に、お休みや売り切れで残念な思いをさせたくない…と心苦しく思う人は多いかも知れません。ですが、その場所でしか食べられない味、その人にしか作れない味があれば、きっとまた来てくれるということですね。

山崎:山川さんは、「nomi」の営業日を聞いてから「Bed and Craft」の予約を入れてくださるんです。「nomi」が休みだったら宿泊日を変えちゃう。普通逆ですよね(笑)。

山川:最初の空振りが本当に痛かったから…(笑)。

山崎:でも実は、そういう方たちがすごく多いんです。「nomi」の営業日に合わせて宿泊するという。

山川:本当にその価値はありますよ。だって、食材も飲み物も、人も、地元のものが全部揃っているから。「nomi」の話題の豊富さは他にはないものだから、僕にとっては、「nomi」でのディナータイムが井波滞在のハイライトのひとつであることは間違いないですね。

草むしり、除雪…地域の人との活動で応援の輪が広がる


――山川さんのような旅人はもちろんのこと、「nomi」が地元の人々からも愛される飲食店となるために、努力してきたことはありますか?

山崎:移住すると、地域の中での活動が多いことに驚くと思います。それこそ草むしりから始まって、冬は除雪もありますし、定期的な寄合(集まり)もある。僕は5年前に移住してから、そうした活動にはずっと参加し続けてきました。そうすると、地元の人たちから「山崎くんって何やってるの?」「nomi行ってみたいけど、敷居高そうで…」とか、いろいろと聞かれます。それに対して、敷居なんて高くないからぜひ来てほしいとか、どんな想いでお店を作ったのかという話ができる。すると、話を聞いた人たちがまた誰かに話して…と、地元の皆さんがインフルエンサーになってくれるんですよ。田舎の地域活動なんて面倒くさい、ハードル高そうと思うかもしれませんが、少しずつでもいいから参加してみるのが大事だと思います。ある意味、自分のやりたいことをプレゼンする機会にもなりますし、皆さん本当にいろいろとお節介を焼いてくれて、思いがけない情報やつながりを得ることもあります。

――最初に地域に溶け込もうという意思を見せて、実際に活動をともにして貢献していくことで、頑張ってくれているな、話を聞きたいな、と思ってもらえるようになる。最初のギブが大事なんですね。

山崎:そうすると、地域の方が「今度忘年会で使いたい」「歓迎会のために貸し切りしたい」と言ってきてくれるようになって。お店に電話してくださいって言うんですけど、なぜか僕の携帯にかかってくるという(笑)。

山川:僕がポートランドでよく行っていたカフェのオーナーは本当にお節介で、「今日は何してるの?誰かつなごうか?」って突然人を紹介してくれたり(笑)。そのつながりが、今でも残っていたりもして。カフェなどの飲食店って、人に会いに行く場なんだなと実感しています。初めのギブは、こんな風に人の紹介や、自分やお店のちょっとした説明みたいなことからでもいいと思うんですよね。そういうことが積み重なって、自分のお店のハブになっていくんじゃないかなと。

――ほんの小さなことでも、ギブし続けるのが大事なんですね。飲食店の立ち上げ期って忙しいし、お金も時間も余裕がない時期だと思います。でも、そんな大変な時期ほど、誰かに「ありがとう」と言われるような行動をすることが、自身のストレス緩和にもなるという心理学のデータもあるそうです。そうした「小さなギブ」が、忙殺される自分の心を守ってくれることにもつながるかもしれませんね。

サステナブルな飲食には、地域とのつながりと「愛」が不可欠


――「愛される飲食のつくり方」をテーマに4回にわたってお届けしてきました。最後に、お二人から今回の対話を通じて感じたことや気づきをシェアしていただきたいと思います。

山崎:人口約60万人のポートランドと、8,000人の井波。スケールは違えど、基本的に飲食ビジネスの考え方って一緒なんだなと思いました。大きな都市も小さな集落の集合体であると考えれば、いかに地元とつながっていくかが重要なんだなと。田舎だから、人口が少ないから難しいと思われがちですが、その土地にちゃんと目を向けた飲食店は、どの地域でも成り立つとわかったのは、僕にとって大きな自信となっています。最初に相談したコンサルタントに逆にコンサルしたいくらいです、「3年続きましたよ」って(笑)。

山川:これから飲食をやりたい人にとっては、すごく面白いセッションになったんじゃないかなと。僕は「nomi」が大好きなので、「nomi」を軸にした締めのひと言を考えていたのですが…「nomi」は、僕にとっては画面を介さないソーシャルメディアなんですね。皆が「nomi」で欲しい情報を得たり、自分を表現したり、発散したりしている。訪れる皆の興味の根底である、井波らしさや地域性といったものを大きく担っているのです。「人」「地元のおいしいもの」「新しい情報」…それらが全部集まってきている場所。そんな空間が作れたら、自ずと地域に溶け込み、サステナブルなお店になるんじゃないかなと思いました。

――「愛される飲食」という言葉の中には、その土地も、訪れるお客さんも、地元の人も、そして自分も愛してこそ、という意味が含まれているんだなと実感しました。自分自身も含めたいろんな方向に愛を向けていくことを、長く続けていくことが大事なんだなという学びを得た時間となりました。山川さん、山崎さん、本当に貴重なお話をありがとうございました!

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ジソウラボ
住所:富山県南砺市本町3丁目41
E-mail:map100.inami@gmail.com
担当:ジソウラボ MAP担当

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