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2020年コロナの旅26日目:変な日本食、コメディエンヌとの出会い

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朝起きて水道水を飲む。日本のウェブサイトを見るとポーランドの水道水は飲んではならないというが、台所の流しの上の戸棚にわざわざクラクフの水道局かどこかのポスターが貼ってあり、「ポーランドのおいしい水道水を飲みましょう!」と呼びかけていた。事実、冷たくて臭みのない飲める水だった。ペットボトルにも入れて散歩に出かけよう。

ストックホルムの時の成功体験から、今日は無料で見られるミュージアムに行こうと思い立った。ヤゲウォ―大学のコレギウムマイウスという古いカレッジの中の博物館が一般公開されているらしいので、そこに向かう。

コレギウムマイウス

いつものフロリアンスカ門を通って旧市街に入る。ストックホルムと比べて日本料理屋(らしきもの)が多い。

「日本のオーガズム巻」

コレギウムマイウスは古めかしい、いかめしい建物である。少し緊張しながら中に入り、博物館の入り口を探して右往左往する。コートヤード(中庭のような空間)では社会科見学かなにかで訪れたらしき中学生くらいの集団が大人に引率されてぞろぞろ犇めいて合唱したりしている。合唱は義務ではないらしく、おなじ学校の生徒と思しき人々があちこちに散在して談笑したりつまらなそうにしたり思い思いに過ごしているようだった。

私はと言えば全く博物館の手がかりがつかめず、埒が明かないのでインフォメーションセンターを尋ねてみた。

インフォメーションセンター(たぶん)

私がインフォセンターに入る時、ちょうど3人くらいの女の子が中から出てきた。何かこそこそと話ながら出てくる彼女らのためにドアを開けて持ってやると、一人の女の子がもう一人の子、或いは私に向かって「ヒューヒュー」と冷やかしの声を上げた。

インフォセンターで道案内を聞いたは良いものの、このコレギウムマイウスという建物は非常に対称に作られていてどうも方向感覚がつかめない。

とにかく二階の回廊のどこかから入ればいいらしいという手がかりをたよりにぐるぐる回ってみるが、やはりどこだか分からない。一つ鋼鉄の重々しい扉があるにはあるが、入り口らしきことは何も書いていない。しかもちょっと押したり引いたりした程度ではびくともしない。しかし他に扉もないので思い切って強く押してみると、ガチャ、と何かが壊れるような音がした。もう引くにも引かれぬのでそのままギリギリ押すと、2センチ、3センチと徐々に開いていく。開いた先に何が待ち受けているのか不安で仕方ないが、とにかくギリギリ押し続けていると、5センチくらい開いたところで押す手がフッと軽くなった。重厚な扉をムオゥとあけ放つと、そこは果たして私が探していた博物館であった。後から来る人が困惑しないように扉を少し開けておこう。

展示内容はそこまで充実しているわけではなかったが、部屋の装飾がいい。青空の絵が描かれた天井や、いかにも古そうな深い飴色に輝く木製螺旋階段など、中世の薫りの漂う事物に囲まれて往時をしのんだ。この旧市街全体がそもそも中世的ではあるのだが、ヤゲウォー大学は中でも古く、その中でもコレギウムマイウスの建物は最古だと言う。

天井が空みたいで好き

今日はSNSで知り合った女性と会うことになっているので、観光はほどほどに、身だしなみを整えに帰宿する。安く飲み食いできる店で待ち合わせたいと先方に伝えると、pierogarnia krakowiacyという店を指定された。クラクフで最初に泊まったピロウズというパーティーホステルのごく近くだ。

店は多くの人でごった返している。ポーランド人は背の高い人も多く、埋もれるような感じがした。

パウというその女性はバーの隅の2人掛けの椅子で待っていた。襟の深く開いたワインレッドのセーターを身に着けている。挨拶を交わして、私は名物のピエロギを注文することにする。

「7個で10ズウォテ(300円)」

パウはほとんど鼻につくくらいコテコテのイギリス英語を話したが、スペイン人だと言った。気さくで知的な女性で、しわ一つないきめ細かい肌の白い顔を表情豊かに動かしてしゃべるのが印象的だった。スタンドアップコメディをやっていると聞いた時も驚かなかった。彼女の話し方はとても明るくて、人生の悲喜こもごもを笑いに変える資質が感じ取られた。

ピエロギとビールを平らげて、バーの熱気を少しだけ腹に蓄えてクラクフの寒風吹きすさぶ夜に飛び出す。

私たちはパウの下宿に向かうことにした。パウの下宿は屋根裏部屋で、といっても遠藤周作の妹のように悲しくなるような貧乏生活とはほど遠く、かなり今風のお洒落な部屋である。その広さもなかなかのもので、日本人の感覚からすれば4人くらいは暮らすことができそうな空間であった。

屋根裏部屋

リノベーションは済んでいるもののかなり古い建物らしく、そのまま残されていると言うロフトに続く階段の木材など味わい深いこげ茶色に光っている。

パウは世界中を旅しながら様々な職を経てきたらしく、色々な国で友達と撮った写真がその広い部屋の壁を覆っていた。私たちはパウが家に持っていたワインやお茶を飲み、ロフトで寝た。


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