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夏の幽霊(3)

 放課後の昇降口で、僕は彼女の靴箱を開けていた。傍らには、倉田がいて同じように中をのぞき見る。靴箱のほこりっぽい匂いと倉田の女の子の匂いが鼻腔をくすぐる。むずむずしつつ、彼女の荒らされた靴に顔を向ける。朝っぱらに僕がいじったつやめく彼女のローファー。磨きあげられて光の筋が輪郭をなぞる。橙色の光が足下を這いずった。
 すると、階段から彼女が下りてくる。僕たちは彼女が今日はいち早くこの昇降口にくることを知っていた。今日は彼女の習い事の日だった。倉田は靴箱の影に隠れて、彼女を遠くから見ていた。彼女が僕の前にやってきて、開け放たれた扉をみとめ不審がる。あれ、どうして、と周囲に人がいないことを確認する。足下を夕景の庇で染め上がっているのを微笑みでかえす。
 そこで、僕は思いっきり彼女の靴箱の扉を閉めた。ぴしゃんっと。まるでポルターガイストのようなその現象を、彼女の視点で見れないことを惜しく感じた。彼女は目を丸めて空間に焦点を彷徨わせる。僕はここにいる。だが、彼女は認識しない。彼女は分からない。彼女の焦点は、僕のずっと奥だ。ぽっかりと、彼女の口は開き、真空を食む。震える瞳を愛でて、目と鼻の先へ顔を近づける。これでも気づかない。彼女はおもむろに、靴箱を開けて、まるでオリンピック選手かのようなスピードを見せつけて、靴を履き、超特急で走り抜けた。たなびく彼女の黒髪の残光を目に蓄えつつ。僕は光を瞬きで削げ落とす。
 倉田が背後からやってきて、
「いつもこんなことしてんの?」
 同じように待ち伏せていたくせに、しかも笑みも既に隠していないくせに。
「くっだらなぁい」
 瞼が大きく見開き、艶めき輝く倉田の瞳が、放課後の静寂に咲いた花のように美しかった。
 倉田はガラケーをすめやかに取り出す。羽ばたく倉田の可憐な動作に、彼女を秘密裏に僕と同じように傷つけているとは思えなかった。ぱちぱちとガラケーのキーパッドを手慣れた動作で文字をうつ。
「そのくだらないことに付き合うのもどうかしてる」ふっ、と僕はあることに気づいた。「倉田は、あいつのこと好きじゃないのか」僕が彼女にしていることに反発する気持ちがあっても不思議ではないのに。
「好きだよ。でも、それとおんなじくらいあの子を汚したいんだよ」
 そんなもんか、と妙に納得してしまう。普段の彼女の所作を見ていて、苛つかないことはないから。僕は足下に陰る、橙の日差しを、鬱陶しい以外に感じたことはないし。彼女のように優しく笑みを見せられない。着ているしわくちゃのカッターシャツを、汗だらけの掌で握りしめて、何かが身のうちから吹き出るのを必死で抑えた。
 そうこうしているうちに、倉田が僕にガラケーの画面を顔に近づけた。ぐいっと無理矢理に押しつけられて、目に入れるしかなくなる。そこには、どこから仕入れたのか、僕のメールアドレスと下書きになっているメールがあった。
「これ、あんたに送るから」
『千鳥橋の下』と文面が続く。
「せめて付き合っているフリしなきゃね。あたしのメルアド教えたでしょ。メールに書いている場所に集合ね」
 矢継ぎ早にふりかかる、彼女の言葉に一個一個確かめながらいき、うん、うん、と従順に頭を縦にふる。言葉が頭に染み渡ったときにはもう既に遅く、全て彼女先導になっている。
 これからよろしくね、と倉田紗江が言う頃には、僕は自身の携帯に『倉田紗江』という名前が登録済みになっていた。

***

 蚊かと思えば蠅で、蠅だと思えば蚊で、ゴミだめに舞っている黒い何かを認識するのに一瞬たじろいだ。くらくらと黒い何かが家の周辺を行き交い、視界がかすむ。家の中に入ると散乱したゴミ袋があちこちに置いてあった。靴を放り投げるように脱ぎ、玄関から家に忍び入る。靴下の裏が粘つく。足下には銀色の缶が転がり道を塞ぐ。部屋の端々には透明の瓶や薬瓶のように茶色に濁った瓶が林立し、席を覆い隠し、まるで樹海のように巨大な暗闇を作っていた。
 僕が家事のストライキをして数ヶ月になり、家の中はすっかりゴミが散乱してしまった。あっという間の月日に嫌気が喉を圧迫する。胸がむかつき、そのたびに抑えるために視界をかすませ嗅覚を鈍らせる。
 家の最奥に住まう怪物は、今日もぐーすかと睡眠を貪っている。起こさないように、僕は息を殺して瞼を閉じる。ひっそりとした暗がりに身を浸して、気をまぎれさせる。この夜を触れて、もやもやした黒いものと同化する。うっすらと意識を遠くへ置き去る。それなのに、足下にある灰皿に足をぶつけて、床に灰がまき散らされる。昨日もうつらうつらとして灰皿に携帯を落としてしまったのを忘れていた。そのせいで携帯が煙草くさい。
 怪物のいびきはそのままに。僕がぶつけた音で目を覚まさなかったようだ。
 部屋に上がって、蚊取り線香に火を灯した。もんやりとした煙が立ち上り、独特な匂いが鼻腔をくすぐる。しばらく眺めていると渦を巻いていた先端が、灰色と化して頭をもたげ、ぽとりと銀皿に落下した。
 カーテンを開けると、昨年の秋からつるされたままの風鈴が目についた。母がこれを見て「くらげが飛んでいるみたい」と言っていたのを思い出す。透明なくらげは、今では首を吊っている。面倒でそのままにしていたが、今にして思えばこいつはこいつで、空へと僕を連れて行ってくれるためにいるんだ。だから、こいつを外すには気が引けたんだろう。窓を開けると、くらげの体の中の鈴が高鳴った。網戸を閉めて床に敷いた布団に体を放る。
 空腹で体がきしむ。家の中はゴミだらけ。あるのは煙草かアルコール。どれも腹を満たしてくれない。痛みだけが胸を圧迫するもんだから、りぃんという鈴の音と怪物のいびきと、蚊取り線香の小さな光で腹を満たす。布団をかぶり、ハリネズミの針を覆う。今だけは一人にさせてほしい。
 昔から、僕はくるりと布団をかぶり身を丸めることが好きだった。なにものにも妨げられない安全地帯、これが身のうちに生み出される。どれだけこの地域が大切か。ここしか「僕」のことを語れる場所がなかったか。内にあるのは暗闇でぬめりがあり、しかし温かい。そこに今日合ったことを放り込む。蚊のさえずりが耳元で行き交い、遠のいていった。
「なあ」とそこへ目覚めた怪物の声が飛び込んだ。僕は必死に目を開けずに自分自身をひそやかに離す。「なあ、もう寝たのか」ひたひたと裸足の怪物が床を踏みしめて、僕に近づき布団の上からゆさゆさと揺さぶりをかける。涙声で語りかけてくる。なあ、なあ、と。首筋に汗が噴き出て、口元の湿度が鎖骨に汗を垂らす。
「なあ、俺を一人にしないでくれ」
 夜になると怪物は僕に泣きついた。
「お前だけは行かないでくれ。俺を、置いていかないでくれ。どうして俺の周りからいなくなるんだ」
 一人になったのは誰でもないお前自身のせいだ。ぐっと縮み僕の痛みを抱え込む。でも、僕のせいでもある。飲み込んだ記憶に体が震えた。今日は、なんとかこのままで終わってくれ。アルコールの瓶もまだある。キレる要因なんてどこにもない。
「寂しい人なんだ」
 母が、そう僕に言っていた。
 今でも何度も何度も脳内の記憶の倉庫から取り出して眺めている。僕が母の前に立っていて引導を渡していた。一緒に来ないのか、と言われたこともあったけれど、僕は父のことに罪の意識があったから、簡単に見捨てることなんてできなかった。母のように強くはなかった。
 母に僕は言ったことがある。
「寂しいの?」
 母の涙を初めて見た日だった。頬につるりと落ちる雫を追っていると、母が呆れたように唇をつり上げた。彼女は、もう僕でも父でもない人を頭に浮かべていたのだ。そのときになってやっと家族の全貌が開かれた。彼女は何も言わずに、明後日の方向を見て、大量の銀色の缶を見下げた。甘い吐息を漏らして。僕をかき乱して。
 寂しいのはみんな同じだった。
 怪物は僕の背中を拳でどん、どん、とノックする。激しく重い僕の扉へのノック。「死んでるのか」と語りかけてくる。僕の吐息は重く沈み込む。ハリネズミの針は、なぜかこのときは萎れていて機能していない。
 教室の中で幽霊になるのは難しく、家の中で死体になるのは簡単だ。蒸し暑さも、汗のべたつきも忘れて、怪物の拳を受け入れて、夢にまどろむだけ。早く終われ、なんて思わず、何も考えず感じずにいればいい。教室の中の呼吸よりも幾分か耐えられる。そう、俺はまだ大丈夫。まだ死体でいられる。ここでは幽霊に成り果てることもない。まだ、俺は耐えられる。
 どん、どん、と怪物のノックは朝まで続いた。

***

 地上デジタル放送にテレビ局が移ってからと言うもの、僕はとんとテレビの話題にうとい。家のテレビはブラウン管テレビでスイッチをつけたら、砂嵐の白黒で埋め尽くされる。ぴーっと、モスキート音が耳を突き抜ける。砂嵐の中に何かあるか、覗き込むが何にも映らない。目に映る全てが一歩遅れていて、気づいたときは全て遅かったということはかなりある話。
「日向葵のドラマ見たか」
 この話題もついていけない。耳を引っこ抜きたくなる。空腹と睡眠不足の頭には沁みる。
「ああ、みたみた」と僕はしたり顔をする。そうしたら、お前にいってねぇよ、と友達が僕に目を細めて、苛立ちをあらわにした。倉田とのことがあってから、友達は僕の発言対していちいち嫌悪をのせてくる。もう一人の友達に向けて、「あのドラマさ」と続ける。
「何? お前ら喧嘩でもしたの?」
「ちょっと、な」と僕は気をそらす。
 それもこれも倉田のせいだ。
「そんなことよりさ、日向葵だよ、ひ、な、た、あ、お、い。昨日のドラマ。第一話であんな胸がときめく告白するか? 俺もあんな恋したくなったわ」
 既に恋をしている気がするが、僕はいつも通りの寸分違わない笑顔を示した。貼り付けた笑顔、百円。そんな大金がでたらいいのに。どこの誰とも知らない告白を大金をはたいて見てくれるんだからドラマもあこぎな職業だ。
「お前は、女子か」
「俺、恋愛漫画ちょいちょい読むからな」
「それはいいけどさ、女々しいと思われないか」
 余計なお世話だと、首振り扇風機がこっちを向き涼やかな風で冗談を飛ばしていく。僕は話の動向を辿り、あのドラマのあのシーンはどういった意味合いのシーンなんだ、と適宜いれていった。見ていないことがバレやしないか、ひやひやする。
「そんなシーンあったっけ」と友達が眉間にしわを寄せる。
 一瞬ひやっとするが、もう一人が、ほらあのシーンだよ、とすかさずにフォローする。こういう時は、相手側が解釈してくれるから有り難かった。砂嵐の画面から一歩前進する。モノクロの画面がくっきりとしてくるまで、つぶさに聞き取らなければ。
 教室の扇風機が、ようやく僕たちから教室の真ん中に顔を向けた。ぶぅん、と蛾が飛び去った後のような羽音がした。
「面白かったのは演出。だってガラケーからスマフォに変わってるんだよ。しかもLINEの表現されててさ。あれ見て時代が変わったーってなった」
 教室のまんなかで女子達も同じドラマのことを話していた。
「私、まだガラケーなんですよね」
 倉田が見せびらかすガラパゴスケータイは僕が見知ったものだ。むしろ僕のと同じで、少し前の旧型だった。入っている携帯会社もおそらくその時期はやっていたもの。その当時はガラケーが最新だと思っていた。一瞬にしてなくなるなんて思ってもみなくて。みんな同じ。そこだけは僕も一緒。謎の安心感。
 それなのに、
「私、ついこのあいだ機種変したよ」
 と、今度は誰かが言い出して、
「あ、私も」
 と、再び誰かが言い出し、
「実は、私も携帯を変えちゃったんだよね、iPhoneに」
 最後に彼女が言い出した時、すぐに体を教室の中心に向けてしまった。さっきまで背中を向けてそっぽを向いていたのに、やってしまったとばかりに、傍らにいる友達に向き直る。友達はふてくされ、むくれた顔を僕に向けていた。これが女々しいということに気づくのにワンテンポ遅れ、面倒だなと僕は内心悪態をついた。
 目線だけで倉田を見ると困り顔で同じグループのLINEグループを作り入っている様をいつもと同じ笑みを貼り付けて。
 あっちも面倒くさそうだな。これまた謎の親近感。
 倉田の手元には、彼女の手が近くにあって。薄い小麦色に焼けていた。指先にかけのぼるほど色が濃くなり、貝殻のようにすめらかな爪が覗かせている。倉田が掴もうか掴まないかに逡巡して掌を握りしめている。その近くにある鞄から、ひょいっと出てるやけに白く際立つイヤホンが脳内に反響する。あのイヤホンが、彼女の耳に吸い込まれる光景を妄想する。
「倉田のことさ」友達の一言で、振り出しに戻された。「もうちょっと、待ってくれないか。俺はまだ飲み込めなくてさ」あのときのみるみる青ざめた顔をみるに、こいつは自分の気持ちに気づいていなかったのかもしれない。
 僕はイヤホンのことを目に焼きつつ、
「大丈夫。そういう時もあるし、俺は気にしてないしさ」
 嘘だ。僕は、この友達のことを鬱陶しく感じ始めている。どうしようもなくて、ただ長引かせている。気にしていないのは、気持ちを受け取る大きさを僕は持ち合わせていない。頭のメモリはイヤホンでいっぱいになっていた。
 あのイヤホン、彼女の鞄からこぼれ落ちて、もたげている白いイヤホン。倉田の手があたり落ちかけている。この白い花をすくい上げたい。
 チャイムが遠くで鳴っている。やば、戻るわ、と友達二人が席に戻ると、僕もつられて立ち上がり、倉田の席に傍を通る。とくん、と胸が痛む。顎にしっとりと汗がにじむ。ごくりと唾が喉を通り抜ける。空腹や眠気が一瞬のひずみを吹き飛ばしてくれる。その上友達のあの表情に砂嵐をかける。
 僕は、ドラマなんて見れないんだよ。
 スマートフォンすら手にできず、LINEというわけがわからないものの存在すら知ることを許されない。
 さりげなくもたげた白いイヤホンを引っ張り、浮き上がったウォークマンごとポケットに突っ込んだ。あとは席について、呼吸を整える。焦っていたのか、呼吸すらも忘れていたらしい。吸い込んだ教室の空気は荒んでいて、砂っぽかった。ポケットの中の重みだけは確かに感じていた。

***

 音楽教室で、彼女がピアノの鍵盤を高らかに叩いていた。蝉時雨が散々と響き渡る中、ピアノの『ド』が空間に重みをもたせる。暑さにあぶられた生徒諸君は、音を聞いて目を覚ます。ピアノの前に座り歌うように音楽を楽しむ彼女に集中する。彼女は目を伏せて、唇を真っ赤に燃え上がらせる。頬を引っ込めて真剣な表情で楽譜を見つめていた。黒く丸い瞳に音符が過る。
「すごー、ね、次この曲して」
 彼女は簡単に「うん」と頷いて、今度は軽やかに音符を発する。とん、とん、と足下のバーを抑えたり離したり。小さな足踏みの音がした。
「高一年にもなって、文化祭で合唱するとか、かったる」
 友達が呆れている。
 友達はそういうが、倉田はきっとこれが良いって思うんだろうな。倉田は彼女の健やかなまなざしに意識を注いでいるのだから。僕も倉田と同様に息づかいを捉える。音が跳ねた時は息を吸う。一連の動きが終われば吐き、満足そうに次に移る。
 音楽の先生は一旦自由時間といって教室の状態を手放して、次の授業の準備をしているし。僕たちは、合唱曲どれにする? とかいう史上最大のどうでもいい命題を突きつけられている。彼女がピアノに名乗りでたあたりから、倉田の瞳の輝きはこれ以上ないほどに湛えられる。
「どれも素敵です」
 嘆息する。
「そういえばいつもウォークマンで音楽聞いてましたよね。あれってピアノの曲だったりするんですか」
「うん」とまた彼女は細い指で重そうな音を押し出す。「ピアノ習ってるから、たまに有名なピアニストが演奏したものとか聞いてるんだ」
「そうなんですか。初めて聞きました」
 手を叩き賞賛する倉田の白々しさに、僕は、はっと嘲笑を込めた笑いを口元に吐き出してしまう。
 知っているくせに。習い事をする日も、その内容も彼女の口から出る前に、倉田から僕は聞かされてる。
 僕は先生が見ていない隙を見計らい、ポケットの中のウォークマンを引っ張り出した。彼女に見えるだろうか。僕の方が一歩リードしているんだ、と倉田に見せびらかせるだろうか。
 なにそれ、そんなの持ってたっけ、と友達が訝しむがかまいやしない。先日買ったんだ、とこっちも白々しく答えてやった。
 ピアノの近くまでよって生ぬるい音の風を切る。動くのさえ億劫な暑さだ。僕たちは教室の隅っこにいき、だがピアノの伴奏者がいのいちばんに確認できるところで、ウォークマンの音量をいじった。プラスを連打する。最大限に大きな音を。イヤホンの片方はそのまま垂れさせて。友達がウォークマンの中身を覗き込む。
『フジコヘミング/ラカンパネラ』
 分からないけど、これでいいや。
 自暴自棄に再生ボタンを押すと、案の定イヤホンからピアノの音が飛びだし、蝉時雨も、彼女のピアノの音すら差し置いて、ピアノの音が空間を支配した。すこやかな休み時間を得ていた生徒諸君は僕に視線を注いだ。彼女はその空気に触れて僕の方を見て、頭をかしげる。これは彼女のものだというのに。
 ひときわ瞬いたのは、倉田だ。これは彼女のウォークマンだと気づいているのは、教室の中でもただ一人。
 やべ、と僕は停止ボタンを押して、ポケットにやけくそぎみにつっこむ。おそらくこの演技さえも、倉田にはバレている。
 すぐに僕への集中線は切れて、彼女のピアノが再開される。すぐに携帯のバイブレーションが震え、そちらに注意が向く。誰からのメールかは分かっていた。倉田がガラケーを片手に、ほそっこい目で僕に狙いを定めていた。

***

『武道場の裏』
 メールには集合場所しか書かれていなかった。
 放課後、武道場の裏手に行くと倉田が待ってましたとばかりに、僕に詰め寄った。彼女と会うときみたく瞳が澄み切っていた。きらきらと瞬き、武道館の裏の影から浮きあがっている。どん、と僕は武道館の壁に背をつく。
「あの、ウォークマン、どうやって、手に、入れた、の」
 武道館の汗臭い香りがほんのり漂い、倉田にまとわりつく。息が荒く、押しが強い。僕は後ずさり、影へと一歩前進し、胃液が溶けて、腹が圧迫される。思わず吐きそうになる。
「僕が、彼女から見えていないこと知ってるだろ」
「彼女に、だけでしょ。衆人観衆のもと盗めるわけないじゃん」
「そこはなんとかしたんだよ」
 それにしても、彼女にウォークマンを見られた時のあの彼女のとぼけた顔は見物だったな。
「あんたが目の前で自分のウォークマン盗んで聞いているのに、あの子何にも知らないでいたんだよね。あのときのあの子の顔最高だったな」
「なんで、お前も一緒のこと思ってんだよ」
 げ、と倉田がまずそうに表情をくもらせた。可愛いハーフ顔が台無しだ。僕たちはある意味で、似ている何かがあるらしい。とても不服だが今は共同戦線を張っているのだから。
 僕はそっとウォークマンを取り出して、白いイヤホンを差し出す。「お前も聞く?」と言えば、簡単にうん、と大きくかぶりを振った。
 差し出した白いイヤホンは、先端にクッションがあって。防音機能をかねそなえている。それを耳に突っ込むと、外界の音が遮断される。真空の世界が右側に生まれる。何も聞こえない経験をしてこなかったから、震えるほど新鮮で、一旦体が凍える。
 倉田は左耳に入れて、
「あの子何聞いてる?」
 僕の手にあるウォークマンの画面に首ったけだった。表示された曲は全て『ラカンパネラ』だった。どこまでいっても『ラカンパネラ』。ただ弾いているピアニストが違うらしい。『辻井伸行』『フジコヘミング』『ラン・ラン』『トリフォノフ』……どれも同じに聞こえる。が、研ぎ澄まされた音の粒が、弾けるのは心地よかった。流れるよう耳を労り続ける。左耳では遠くで武道館の中からしないが垂直に振り下ろされ床に叩きつけられる。音をバックに倉田の息づかい。ふんふん、と聞き込み、彼女の好きなことを堪能していて。僕も彼女の横顔を思い出す。髪は黒く、小麦色に肌が少し焦げていて、唇は真っ赤に熟れていて。小さな音使いや派手な音使いで駆け巡り、まるで彼女の耳を追体験しているかのようだった。
 何度もラカンパネラを聞いていると、彼女が傀儡になり椅子に座っている風景が思い起こされる。ぐったりとした彼女の手をとり、僕は立ち尽くす。この子を一体どうしたいんだろうか。触れているとすぐに崩れそうな彼女の手は、白く細い。しなやかに強く僕の手ぐらい大きくて、柔らかい手を離すものかと握りしめている。真っ暗闇に陥る舞台に二人。黒い髪の毛が艶めいている。瞼がきつく閉じられた彼女。肺が酸素も二酸化炭素も受け付けていない。体が機能を停止していく。彼女をどうしたいんだ、という問いが何度も駆け巡る。責め立てるのはやめてくれ。早く誰かここから救いだしてくれ。
 そのとき、
「あーあ、横にいるのがあの子だったら良かったのに」
 息がほっとつけたのもつかの間、
「まったくだ」
 無意識に零れた僕の声が武道場裏に響く。僕の瞼が大きく開く。そうして、二人して、見合って。言葉もなく汚い嘲笑が夕景の木漏れ日に落とされた。
「何してるんだろうね、私たち」
「ほんと、そうだな」
 一人で思っていたことを、今度は二人で共有していた。これってつまりは、寂しさの共有だろうな。僕たちは、寂しいから共有するのかもしれない。つまらないし、くだらないことばかり。とりわけ虚しかった。
「こんなんばっかしてんの?」
 倉田の言葉がラカンパネラのピアノを押しのけて僕に差し迫る。それは僕も思っていたことで。
 何も言えずに留まるしかなく。
「あんたは何のためにしてるの?」
 まあ、無理して聞かなくてもなんとなく分かるけど、と付け足して倉田はその後音楽に没頭した。ピアノの音が続く。遠くでトランペットの音が鳴る。陸上部のかけ声。武道場の空間を切り裂かんばかりの「面」という声のナイフ。次の瞬間、蝉の声が夕立のようにどしゃぶりになる。僕の声は、どこにもない。
 それから、僕たちは学校の放課が終わるまで、武道場の裏で壁に体をくっつけ、二人で彼女のウォークマンにある音楽を聞き続けた。ラカンパネラから、他のクラシックに至るまで。
 チャイムが鳴った時、耳元から男の柔らかい歌声が鼓膜をなでた。ゆるやかに上がってスローテンポで、一旦止まり、吹き出される息吹の声が僕たちの間を行き交う。
「これ、日向葵の『恋をするには、』の主題歌だ」
 友達が心底入れ込んでいたドラマだ。
「あたし、このドラマ好きなんだよね」
 これまで以上に倉田の表情がとろけていた。なんとなく、苛つく。なんとなく。倉田と友達と、彼女の共通の話題がこんなところに転がっているなんて、なんとなく。
 その曲が終わる前に、倉田は僕にウォークマンを僕に投げつける。やっば、と、立ち上がり、僕の手を引いた。倉田の小さな体でも、僕の体力ゲージゼロの体なら引っ張ることができた。へろへろの僕は言われるがまま、倉田と腕を組みつつ、昇降口に。
「早く学校でないと、門閉まる」
 ウォークマンは僕のポケットに、未だ僕は片耳が真空状態で、日向葵なるドラマの音楽が流れ続けている。何か変なボタンを押したのか、リプレイされ続けていた。男の穏やかな声が僕の心の奥底をなでる。
 そして、昇降口に行き当たった時、僕たちは鞄の中を探る彼女とばったり会ってしまった。腕を組む僕たちの手がお互いを拒絶する。離された腕に宿る温もりが早く冷めることを願った。
 彼女は、靴箱を開けたり閉めたり。他のクラスの靴箱も余すことなく開けていた。鞄をまさぐり、ポケットに手をつっこみ。埃をまき散らす。黒い長髪を翻し、浮き上がる。今にも泣きだしそうな顔をしている。
「なにを探してるんですか?」
 倉田が、僕を放って彼女に尋ねた。
「えっと、倉ちゃん? え、なんでこんな放課後までいるの?」
「藤本くんと放課後までしゃべってたんです」
 彼女が倉田の指さす方を見つめるが、僕を透けて遠くの門を見つめている。先生が地獄の門番のように夕差しを受けて、影になり、立っていた。
「そうだよ、ね。藤本くんと付き合ってるんだもん、ね」うつらうつら言う彼女の涙声に、僕の中の器が満たされていく。耳に差し込んだ、イヤホンから音楽が僕の中にいっぱいに溢れる。
「倉ちゃん、倉ちゃんさ。私のウォークマン知らない?」
 僕が目の前でしている、これだ。
 すぐさま倉田が僕に向く。早く返せ、とでもいっているのだろうか。突き刺さる視線を避けて、僕は「まだこの曲が終わっていない」と言い訳する。「ここにあるよ」と僕はウォークマンを取り出すが、彼女はいざ知らず。
 チャイムが、背後で大きく鳴っている。ドラマの曲が、重なる。彼女の萎れていく顔に、たまらなくなって倉田が受け皿を差し出す。
「明日、一緒に探しましょう。今日はもう出ないと」
「うん、ありがとう、ありがとう倉ちゃん」
 彼女は倉田の手を受け取ってつなぎ、昇降口から下りていく。僕はその背後から、彼女から盗んだものでちくりと罪悪感を心に刺す。夕日が背後へ落ちている。長い影が、すっと伸びて、倉田と彼女を正面から覆い被さる。
 つながれた手は友愛と愛情、どちらも込められていると思うと居心地が悪かった。胸をかきむしりたくなる。影が全て隠す。僕も、彼女たちも。なにもかも。
 彼女たちの背後ですらいたくなくなるとき、
 僕は幽霊になる。

***

 蛇口をひねるとまだ水がでる。僕はコップに水をそそぎ、喉仏を動かし、ごく、ごく、と飲み干す。ついでは飲んで。繰り返し。透明な水を照らす薄暗い屋内を見ないようにする。シャツを洗わないと。まだ洗濯機が動くうちに。電気があるうちに。
 部屋の端にある、ボタンがカチッと鳴った。
「なあ、ビールどこやった」
 怪物が背後に立っていた。
「知らねぇよ、全部飲みほしたんだろ」
 手が震えて、上手くコップがつかめない。喉元がつんっと刺されている。楔を上手く抜けなくてちくちくとした針の言葉で武装する。臨戦態勢を整えて、今日こそは、と、無理矢理唾を飲み込む。
 怪物は抑えきれずにあたりのゴミ袋を蹴り倒し、
「なんでねぇんだよ」
「やめるって、言ったからだろう。なんでまた」
「俺に口答えすんのか」
 思わず手があたりコップがシンクから床に落下する。足の上に当たり鈍痛が身のうちを振動する。脈が早くなり目の前の怪物へと振り返る。怪物は油ぎってぎとぎとの髪で、ずんぐりむっくりとした腹で、僕よりも少しだけ背が高い。汗が腹の筋をかける。口を開けると、黄色い歯とヤニとアルコールの生臭い香りが漂う。蚊の羽音がする。ぷんぷん、僕と怪物の間を立ち往生する。目と鼻の先に怪物が立つ。
「ないなら買ってこいよ」
 やだよ、と小さく弱い蚊の音がする。飛び交う蚊は、怪物にはりついた。そこへ腹鼓を怪物がうち、ひしゃげた蚊が床へ舞い落ちる。落ちる途中で体が分解され、粉々になり、見えなくなる。消え落ちた死体に未練などなく、僕は目をつぶる。
「おい、なあ、金、隠してんだろう。おい、聞いてんのか」
 早くシャワーを浴びて寝なければ明日も学校へ行かなければならないのに。怪物の手が僕の肩を掴み、揺さぶる。
「お願いだよ」
 すがってくる怪物に、怪物以前の姿が重なる。
 怪物の大きな手は、ハンドルを握る手だった。大型トラックを自由自在にあやつり、貨物を持ち上げる足腰が強く、熊のようにのっそりとしていて愛着があった。その背中に落ち着く母を遠目に見たことが何度もあった。
 今の怪物の手は汚れ、赤黒く腫れ上がっている。膨れた肌をぎゅっと握りしめて、震えながら拳を作り、ハンドルをきっていた手が僕のみぞおちめがけて殴り上げる。身を固めて、怪物の攻撃を受け入れる。
 眼球の光が白く残痕する。視界が明滅したと思ったら、床に体を転がしていた。死体のように何も言わずに受け入れる。全て、受け止める。黒々と、蚊か、それとも蠅か、怪物にもやがかかっている。見上げて、怪物の目の白さをくっきりと瞳に焼き付けた。
「やめるって言っただろ」
と、僕が音を上げた。
 とめどなく舞い散る怪物の眼をぼんやりと追っていた。僕は諦めていない。その白い眼が研ぎ澄まされた黒に変貌するのを。でも、諦めを通り越し、怪物が僕の腕を、腹を、足を蹴ってくる。
「覚えて、ないのか」
 叫んで、僕が声を張り上げているのに気づいた。抵抗している体に、声に、心に、止めにかかりたくなる。喉が張り詰めて、きりきりと痛み出した。喉の奥にある薄い皮膚が震えている。平たくなり、揺れて。怪物が全て踏んづける。
「なあ、どこやったんだよ」
 知らない、知らない、やめろ、やめろ、と何個も同じ言葉を連ねた。早く終わってくれと、言って。どうしようもないのに、怪物に諭し続ける僕に諦めの悪さを抱く。仕方ない、仕方ない、と知らないうちに自分の中の言葉が変貌する。
 怪物にさせたのは、僕のせい。
 だから、次第に死体に成り果てる。死体がわめく。声を荒げて、次第に落ち着く波を引くのを待つ。僕の足、腕、腹、どこも悲鳴を上げていた。暗がりに蹲り僕はうめく。痛みがにじみ出し、白と黒の世界に行き来する。赤黒い手の平が僕の頬をはたき、世界が弾けた。
 すると、怪物の重みが、僕にのしかかる。
「ごめん」
 そうしたら、怪物はいつの間にか父になっていた。白い鋭敏な瞳は黒々とした丸になっている。柔らかな丸から光の粒が零れ落ちる。そこには感情はないがどこまでも澄みわたっていて。肥えてふてぶてしくなった体で、僕を抱きしめる。力強くて逃れられない。父は、僕の体に「ごめん」を刻み続ける。「もうやめるって言ったのに、またやってしまった」貧弱な声が漏れ出ていた。汗臭い匂いが充満している。汗のべたつきか涙か分からないものが、カッターシャツにしみつき気持ち悪い。
「ううん、俺こそごめん。俺が最初から言うこと聞いてれば良かったんだ」
 すらすらと言った演技は、もう慣れたものだった。
 本当は殺したくてたまらないんだろう。憎しみがはびこっているし、心がずっと血を流しているのに気づかないわけない。
 でも、僕の口から出てくる言葉は、まだ諦めない。力もなくされるがまま、死体のようにぐったりと抱きしめられているさまに、天井で見つめている目が語りかける。これはきっと間違っている。
「アルコールはやめる。いっさい口にしない。だから、お前までどこかへ行かないでくれ」
 これは父の呪いの言葉だった。
「愛しているんだ」
 掠れた声で僕は応える。
 うん、知っている、だから大丈夫だよ、俺はどこにも行かないよ。
 落ちていく言葉の欠片を見つめながら、愛情という輝きを失ったそれらを見送る。愛情はない。憎んですらいる。罪悪で研ぎ澄まされ、残ったこれは『情』だ。
 すすり泣き続ける父に、僕は痛みを押し殺して、笑いかけた。

***

 今朝、電気をつけようとスイッチを押しても、灯りがつかなかった。暗転とした世界で、カーテンを閉めきり、目が覚めている自覚が持てない。そのため今日は意識がふわふわしている。
 代わりになんとかかき集めたお金でスーパーの弁当を買い、腹を満たしたが、目の前のプールの水面のきらめきが毒となり僕を襲う。底が見えるくらいに透明な塩素水。ひたされる男子も女子も、肌にはあざがなく、綺麗でまっさらな状態で。涼やかな影で顔の陰鬱を隠す。長ズボンに、上にジャージを羽織り見学をし中途半端に浮いている。ひんやりとした水面の近くで、暑くも冷たくもない。
 友達がまた僕のことを見て、「さぼってんなよー」と声をかけていた。そして僕の隣を見て、顔を曇らせる。
「結局、あの子のウォークマンは見つからなかったよ」
 と、倉田はいじわるそうに告げ、僕の隣に腰掛けた。
「僕が持っているんだから当然だろ」
 怪物に壊されないために、今日もあの子のウォークマンはお守りみたいに持ち歩いている。
 彼女は僕たちに手を振っていた。ふわふわと、綿毛のような白い掌が舞っている。僕と倉田は二人して微笑み返す。穏やかな白い綿毛はくしゃっと小さくなり、他の女子の中にまぎれたが、彼女の周囲だけは熱がたぎり、いつまでも追い続けてしまう。倉田も同じで一度たりとも僕の方に頭すら向けない。
「そろそろ返してあげたら?」
「まだ僕は全て聞いてない」
「あたしもだけど、さ」
 天にいる太陽が雲で隠れて、プールの水面に影がさす。彼女の太ももに陰影がつくられる。くっきりと分けられていたが徐々に動き出し、影の中に水面の反射が照り返す。波の筋がまたぞろゆっくりと動いた。
「でも、もういいでしょ。潮時はわかっとかないと」
 そうして彼女の小麦色に太陽の紫外線が降り注ぐ。まっさらの彼女の笑みがまき散らされる。彼女は笑う時の表情はいつだって違う。今日は頬を膨らませて、唇をつっぱねている。反して、僕の方に影がやってきて、陰鬱とした空気がのしかかる。雲が陰ると体が痛む。
 潮時ってなんなんだ。これは僕が始めたことなのに。
「引き際って大事だよ。じゃないと、戻ってこれなくなる」
「まるで先生みたいだ」
 ふふっ、と倉田が教室で見せる笑いとはかけ離れた薄汚れた声をあげた。
「先生なんて良い意味で言ってんじゃないけどな、むしろ反面教師」
「お前だって、楽しんでたろ」
「あたしはもう十分楽しんだし。それにしても、前から思ってたんだけど、あんたはなんでこんなことしてんの。あんたも、楽しんだのならもうよくない?」
「こんなことって」
「そうだよ、そこまで貶められることだよ、これって。あたしたちは、共犯者であって、友達なんて綺麗なもんじゃないでしょ。むしろ、もっと、醜い関係で互いの利益のためにつながっているだけでしょ。ああ、もしかして、あんたには汚いって自覚なかった?」
 矢継ぎ早に繰り出される言葉が、倉田の足先にのって。細い足を伸ばし、片足をぴんっと張りつめ。白く繊細な肌も相まって、薄氷の枝葉が、ひっぱられ、蹴り上げられる。僕は唇を噛みしめて、その枝葉を手折りたくなるのを抑えた。
 彼女が「倉ちゃん」と呼んでいるのが聞こえる。僕たちの間に入ってくる声は穏やかで、一生聞いていられる。そこへするり、と隣の倉田が前へでる。薄茶色のボブカットが流れている。
「あたしたち、汚い」
 それは、倉田が彼女を好きなことを揶揄している言葉。足がプールサイドの床につき、暑さに熱されながらも、うつらうつらと倉田が彼女のもとへ駆け寄った。さっきまでの尖った雰囲気はなく、彼女に会うと和やかな倉田に変貌する。
「『たち』ってなんだよ。僕も同じにするなよ」
 ポケットにしまっているイヤホンを伸ばして、耳に突っ込んだ。ポケットの中に手をいれて慣れた手つきで再生ボタンを押す。
 プールに一人一人入り、つめたっ、と声が上がっているところに、僕はドラマの主題歌を流す。恋だ愛だなんだと歌っている穏やかな曲調に、ゆるやかなプールの授業は似つかわしかった。
 彼女が水面に足をつけ、滑らかに水に落ちて、すぐに顔を出した。その顔にはプールの透明な水滴がぽたぽたとしたたる。隣にいた倉田は頬から涙のような雫を伝わせる。
 昨夜つかなくなった電気をカチカチと頭の中で何度もつけている。暗がりから光を渇望したとして、どちらの光も、僕にとっては同じに見える。

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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