【後編】蘇り、進化し、ここに復活。 | アジア一人劇祭・伊那谷化けるんです。
【伊那谷が化ける3日間の祭典】
4人のパフォーマーによる一人劇&ワークショップ
2023年 11月3日(金・祝) 4日(土) 5日(日)
@アグリネーチャーいいじま
【2・3日目】11月4日(土)・5日(日)
ワークショップ&トーク
等身大人形師の百鬼どんどろ・岡本芳一氏(故人)は、長野県飯島町を中心に伊那谷で1991年から1996年まで「アジア一人劇祭(以下、一人劇祭)」や「日本一人劇祭」を企画・開催。当時は数日間に渡り、世界中から集まったソロパフォーマーが町の各所でパフォーマンスを展開していた。
その故・岡本氏に弟子入りし、その表現を受け継いできた唯一の弟子、百鬼ゆめひな・飯田美千香が、「伊那谷化けるんです。」と名を変え、形を変え、再び飯島町で「一人劇祭」を復活させた。
イベント1日目は、一人劇の舞台公演。そして、2~3日目はパフォーマー4人の、それぞれの個性的なワークショップ展開。直接手ほどきを受けながら、表現の真髄に触れてみる。新しい世界を体感した笑いあり、刺激ありの2日間をご紹介。
【前編】1日目公演、レポートはこちら
内なる自己を解放する
みんなで化けるんです。
太鼓と踊る〜「祇園」
ー加藤木朗(舞台芸能師)
九州の小倉祇園太鼓をモチーフに、和太鼓のリズムに合わせて足踏みしながら、回し打ちなどの手振りを覚えます。日常では意識しない頭と体を使った動きに、参加者たちは「難しい」と苦笑いしながらも、ユーモアあふれる加藤木さんの指導に、会場にはたくさんの笑い声が響いていました。
脱力軸
ー蜜月稀葵(舞踏家)
普段はダンサーを対象に指導する蜜月さんは、初めて一般の参加者への指導となり、脱力がうまくできない現代人に向けた重力と体との対話の仕方をレクチャー。「自分の体を気に入らない状態でパフォーマンスをしてもNG。」といった言葉や、「舞台に立つ上で一番大事にしていることは?」という参加者からの問いに「自分自身を大切にすること」といった言葉は、大きなインパクトを与え、新しい体との向き合い方に、会場には刺激と興奮が生まれていました。
ダンサー・パフォーマーになるための心構え
ーu‐ichi/瀧本祐一(ダンサー)
高校3年からダンサーを目指してから今までの体験をもとに「パフォーマンスは自己紹介の連続」「評価されることを理解した上で舞台に立つ覚悟をする」など、様々な舞台で厳しい経験を経てきたからこそ刺さる言葉の数々。講演の後は、どんな人でも挑戦できるダンスの技・タッチウェーブのやり方をレクチャーし、会場には笑いと感嘆の声が上がります。
人形を作って、動かしてみよう !
ー百鬼ゆめひな・飯田美千香(どんどろ流 人形師)
狐の面を思いのままに絵の具で彩り、人形操演のレクチャー後、個々にオリジナルテーマを設定し自主稽古。その後、古着物を羽織りミニ発表会を行いました。講師・百鬼ゆめひなさんが奏でる鈴や太鼓の音に合わせて舞いながら、自然と自己の内面に向き合い、没入した数時間。個性あふれる表現の数々にゆめひなさんは「みなさん、素晴らしい度胸とパフォーマンス!」と、参加者に賛辞を送りました。
参加者の声
中尾さんご家族(辰野町)
公演、ワークショップとも、とてもバラエティーに富んだ内容でした。お面に絵を描いたり、実生活に活かせる話が聞けたりと、思った以上に楽しくて、参加できて良かったです。
蜜月さんがおっしゃった「自分を大切にできないと良いパフォーマンスができない」という言葉が刺さりました。
野々村さん(飯島町)
今まで何回もゆめひなさんの舞台を観てきましたが、今回は今までに観たこともないような新しい表現を観ることができました。
一流の人たちの手解きをうけながら参加したワークショップは、まさに自己解放の時間になりました。
刺激と笑い、感動とともに再出発
舞台に一人で立つパフォーマーの表現から滲み出る、その生き様に対峙し、心地よい緊張感とともに非日常空間に没頭する数時間。そして、そのパフォーマーたちの手解きを受けながら表現の真髄に触れる、3日間の祭典が、静かに幕を閉じた。
1日目の舞台を見た人たちからは、「南信州では大人数の舞台が多い中、1人劇は初めて。新しい感覚で、とても面白かった」「1対1でアーティストと向き合っているような空間は、とても刺激的だった」という声が寄せられ、続く2、3日目のワークショップの参加者からは、「自分も伊那谷のパフォーマーになってみたいと思った」「このように一流の方々に教えてもらう機会は滅多にない。思っていた以上に良い経験だった」「自分が持っているものを解き放つような感じになった」などの声が寄せられた。
このように、かつての一人劇の祭典は、その場にいたすべての人たちの日常に刺激や笑い、感動を与え、再出発した。
今回の主催者である飯田美千香はこう語る。
「参加者が心振るわせるような一人劇と出会える場所を作り続けていきたい。そうすることが私の〈どんどろ流・一人劇〉のスタイルの成長と発展につながっていくと考えています。」
90年代に開花した種がまた芽吹き、新たな伊那谷の文化として再び開花し始めた「一人劇祭」。岡本氏が飯島町に残した「おもしろさ」が、伊那谷の人々の暮らしの中で、これからも多くの人の手によって育てられ、つながれていくことを願ってやまない。
取材・文:北林 南
写真・動画:中島拓也
写真提供:伊藤敦
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