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カナダ公立高校進学に向けて② 「住所」と「くじ運」で決まる高校

 【 目次 】
・公立学校の多様性
・進学の決め手はたった2つ (1) 住所
・進学の決め手はたった2つ (2) くじ運
・公立高校における特別プログラム

公立学校の多様性

初等教育から高校までに共通するシステムとして、オンタリオ州の公立校(市立のみ、州立や国立はない)には、宗教により「カトリック系」「無宗教系」があり、学校運営に用いられる言語により「英語系学校」「フランス語系学校」に分かれます。英語系学校の中は指導言語により「英語学級」、「英仏バイリンガル学級」、「フランス語イマージョン学級」というstream(ストリーム)に分かれ、「ギフティッド学級」は英語学級の一つに含まれます。

学校区分

我が家は「トロント市立 → 無宗教系 → 英語系学校 という小中高584校を擁するトロント市最大の教育委員会、TDSB(Toronto District School Board)を選択しているため、この教育委員会に属する高校が娘にとっての選択肢プールとなります。母語や宗教や成長過程で変化することは考えにくいですが、何らかの理由で希望すれば、他の教育委員会の管轄へ移ることも可能です。

高校にはどのようなプログラムがあるのか、その多様性については後半に記します。

進学の決め手はたった2つ (1) 住所

高校までが義務教育、無料であるカナダ。高校生になってもまだ学区制度です。自宅住所から割り出された指定高校が、前回(カナダ公立高校進学に向けて①「『高校』ってなんて言うの?」)記した各カテゴリーである"Collegiate Institute"、"Secondary School"、"Technical School" より1校ずつ指定されます。そして校風や立地、カリキュラムの特徴などを元に、その3指定校の中から自分が進学したい高校を選択するというのが基本のフローとなります。

進学に際し、中学校での成績や生活態度、出席日数などは一切関係ありません。あくまで、どこに住んでいるのか、住所だけがものを言います。「両親が別居している子はラッキーよ。住所が複数ある子は選択肢が増えるからね!」と担任がおっしゃるほどです。

戸籍や住民票のないカナダでは、住居の購入/賃貸契約書及び公共料金支払い請求書の提出によって住所を証明します。どうしても進学したい高校があり、経済的余裕もあるご家庭の場合は、出願時期の少し前からその学区域にわざわざアパートを借り、学区内に即席住所を作るようです。ここに生徒が実際に住んでいるわけではないので完全なルール違反ですが、ちらほら耳にする人気校への越境裏手口です。

進学の決め手はたった2つ (2) くじ運

学区制度に加え、"Optional Attendance"(オプショナル・アテンダンス)という正規の越境制度があります。学区域外の高校へ進学したい場合は、最大3校まで希望を出すことができます。はるかに定員オーバーしている高校は越境入学受付自体を中止していますし、何百人という応募に対して越境生を数名しか受け入れない人気高校もあれば、希望者全員を受け入れる定員割れの高校もあります。人気校、不人気校の格差は露骨です。公教育なので平等を期すとのこと、入学希望者数が受入れ可能生徒数を超えた場合は、くじ引きとなります。
これは中学の成績が大きくモノを言う日本の都道府県立高校受験制度とは大きく違う点です。生徒達はやる気や学業の習熟度合いで篩にかけられないため、小中学校同様、高校生活においても千差万別な動機付けや理解度の生徒達が、混沌と同じ学校、教室に共存するという学業上非効率な多様性が担保されます。

この越境制度にはいくつかの例外があります。中学校で「英仏バイリンガル学級」もしくは「フランス語イマージョン学級」に在籍しており、自身の学区にこのストリームを持つ高校がない場合などがそれに該当します。こうした生徒達には、フランス語ストリームを持つ学区外の最寄り高校へ越境進学する権利が発生します。ギフティッド学級出身の生徒達も同様です。

公立高校における特別プログラム

トロントの教育システムが多様性に富んでいると言われる理由の一つに、「Specialized Programs (特別プログラム)」の存在があります。

・Art Focus(美術、音楽、演劇、ダンスなどに特化、芸術学校)
・Advanced Placement(大学の単位を高校最終学年で履修可能)
・Athlete Program(学業とスポーツの両立を可能にするスポーツ選手向け)
・IB Program (国際バカロレア)
・Leadership Pathway(リーダーシップ重視のカリキュラム)
・Math and Science Focus (理系強化)
・Specialist High Skills Major(配管工、美容師、調理師などの職人養成)
など、義務教育下の公立であることを加味すれば、多岐にわたっています。

これらプログラムごとに独立した高校があるわけではなく、ほとんどの場合一つの高校内に一般コースとこれら特別プログラムのコースが共存しています。

そして、これら特別プログラムのうち、ほんのごく一部だけが例外的にオーディション学力考査試験(一発勝負のテスト)を行うことで入学者を決定します。芸術高校TOPS校(Talented Offerings in the Programmes of Sciences: 2校しかないトロント版「スーパーサイエンスハイスクール」)への入学などがそれに該当します。

こうした建前の中、今年は教員によるストライキと応募者多数の影響で、芸術高校のポートフォリオ審査が行われず、くじ引きで入学者が決めらるという出来事がありました。「絵は描けないけれど勉強するよりはまし」との動機で出願した子が合格し、完成度高いポートフォリオを準備し満を持して臨んだ画力の高い子が不合格になるという逆転現象に、涙する友達もいたそうです。
また、大学の単位取得ができるAdvanced Placement(AP)プログラムを持つ某高校では、入学段階でAP履修を前提としたコースとそうでない一般コースの振り分けがなされるそうで、AP履修希望者はもちろんくじ引き。AP履修のためにその高校を選択した意識高い系女子がその機会を逃し、親に言われてAP希望を出した勉強大嫌い男子がAPコース入り、本人はブルーと、平等主義の弊害が起きています。

結局は入学段階での学力やスキル、目的意識よりも、「くじ運」が大事なのがオンタリオ州における高校進学なのです。そのようなシステム下で我が家はどう進学先を決めたか、次に記します。


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