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ギフティッド教育2 選抜時期とその方法

ギフティッド教育1にて、広義でのギフティッドネスはIQテストだけでは測定できない理由を書きました。ではテスト一発勝負が万能でないならどうやってギフティッド児童を選抜するのか。世界統一基準があるわけではないので、ここカナダ、オンタリオ州、トロント市での経験を、一事例として記したいと思います。

まず、オンタリオ州でギフティッド学級が発足するのはG4(小学4年生)からです。まさにベルギー人天才児が大学を中退した年齢です。それ以下の年齢の児童では、生まれ月による発達差もあり得る上、仮に誕生月を差し引いて余りある能力差が見られたとしても、「それだけ何か突出した能力が既に所見されているなら尚更のこと、せめて低学年のうちは通常学級環境下で様々な個性と触れ合う子供らしい経験をしておいた方が、長い目で見てその子の糧になる。」との声も聞きました。

通常の子供時代を送れなかった天才子役が、将来情緒的に訳あり問題ありの大人に成長するケース、非常に多いというのは海外では周知の事実です。同様に、突出した能力を伸ばすことだけに幼少期から囚われ過ぎてしまうことの副作用は、確かに留意すべき点なのだと思います。さりとて、過度な平等主義によりその芽を摘んで「浮きこぼれ」にさせないためには、4年生が早過ぎず遅過ぎずな適齢期だと判断されているのでしょう。

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一般的に、G3(小学校3年生)時点でギフティッドだと目された児童は、担任の推薦によりギフティッド考査を受けることになります。「我が子はギフティッドなんだ!」と激推ししてくる熱い親御さんもたまにおられるそうで、その場合はその児童を推薦するか否かを担任が学校会議にかけ、申し出が受理されれば考査受験資格が付与されます。考査の受験料は公費で賄われるため、「生徒の時間も、教育委員会のリソースも、どちらもが無駄にならないように」との配慮から、学校側は慎重に対象生徒を選びます。

加えて、この考査によって収集された個人情報は、その生徒の能力に関するデータとして教育委員会にずっと保存されることになるため、保護者は子供の考査受験に同意するか、書類にサインを求められます。

そして対象となった生徒の保護者は「一切準備をしないで臨ませて下さい。」と学校側から念を押されます。準備をしようにもどのようなテストなのかの説明はないし、受験日がいつかも事前に知らされません。親が合意書にサインした日以降であれば、いつでも考査を受ける可能性があります。カウンセラーの慢性的人手不足により、数ヶ月から半年以上は考査の順番を待つことになります。

そして忘れた頃に来るべき日が来ると、直前に学校から保護者へ電話連絡があります。「次の授業のコマを抜け、お子さんに考査を受けてもらおうと思いますが、よろしいですか?」と。書類上合意済みなのにこの段に来て断る理由もなく、親が再度口頭合意すると、そんな事とはつゆ知らずの子供はその数10分後、教育委員会派遣の初対面の心理カウンセラーに授業中突然呼び出され、いきなり別室で考査を受けることになります。

時計もスマホも持っていない子供の体内時計的感覚だと、ほんの20−30分間で終了するようです。(実際はさすがにもう少し長いと思われます。)口頭試問が多いようで、簡単な言葉の意味を定義させたり、子供が知っているはずがないレベルの語彙の意味を推測させたり、iPad上で数的な処理をしたり。平面に描かれた図形を、手持ちのブロックを用いて再現したりもするようです。

そして考査から1週間ほどすると、学校から結果報告書が渡されます。それによると、考査は「WISC-V Canadian norms(カナダ人児童向けウェクスラー式知能検査)」に則ったものだった模様。
「えっ。一番メジャーなIQテストじゃん、それも日本から移住したてなのに『カナダの一般常識版』だし。。。」
子供達に闇鍋的体験をさせたこと、高額練習教材まで市販されていることに気づいたのは、レポートを見てからでした。

このテストで測定しているのは以下の5項目。オンタリオ州では、この総合スコアにおいて98パーセンタイル、つまり上位2パーセント以内に入っていることが、ギフティッド認定の基準ラインとなります。

Verbal Comprehension(言語理解)
Visual Spatial(視覚空間認識)
Fluid Reasoning(流動性推理)
Working Memory(ワーキングメモリ)
Processing Speed(処理速度)

この結果からでは推し量れないギフティッドネスに関しては、担任に加え、音楽や体育、美術などの専科の先生を含む、その児童を指導したことがある教員達への詳細なヒアリングが行われるようです。カウンセラーがそれら情報を総合し、その児童をギフティッド認定すべきか否かの最終判断を下します。

児童が突出しているのはどの分野か(アカデミック領域なのか、芸術やスポーツの領域なのか)、どれだけ突出しているのか(「普通のギフティッド」なのか、上位0.02%以内にいる「特にギフティッド」 "exceptionally gifted" なのか)、性格、情緒的発達ペース、交友関係、本人および保護者の意向などすべてを考慮し、その後の身の振り方が決められます。

教育委員会はギフティッド発掘が目的ではなく、あくまで学校生活における勉強面での浮きこぼれ阻止対策という側面が強いため、WISCスコアを判断の主軸に、ギフティッド学級へ転校させるというフローが王道です。とは言え、トロント学区教育委員会の管轄下には、スポーツ、アート(演劇、音楽、美術、ダンス)、リーダーシップなどに特化した、オーディションで入学が決まる公立校が小学校レベルから存在します。よって憶測になりますが、WICSで計測不可能な領域におけるギフティッド児童には、そうした学校への編入提案などもあるのかもしれません。

ではこのギフティッド学級とはどのような環境なのか、また学校生活において子供達や保護者、先生方は「ギフティッド」をどのように受け止めているのか、個人的な経験をもとに、次で記したいと思います。
→ギフティッド教育3 ギフティッド児の多様性

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