大人になれば 11『長野相生座ロキシー・村上春樹・そういう映画館』
長野相生座ロキシーが好きだ。
長野市権堂アーケード通りの映画館です。
なんていうか、ホームグラウンド感がある。
(画像は長野相生座ロキシーのFacebookからお借りましました)
佇まいが映画「館」という感じなので落ち着くというのもあるし、椅子が昔ながらのふっくら沈むタイプなのも好きだし、映画が始まる前のブザー音も好きだ。
だけど、ここでいうホームグラウンドはそういうこととちょっとちがう。
それは行きつけの飲み屋みたいだったりする。
ぼく 「えっとね、ビールください」
大将 「はいよー」
ぼく 「あとはねー。唐揚げと漬物と…」
大将 「はいよー」
ぼく 「んーと…」
大将 「今日はイサキがいいの入ってるよ。塩焼き」
ぼく 「お、それください」
大将 「はいよー」
そんな感じ。
わかんないですね。ちょっと台詞のやり取りを書きたかっただけです。すみません。
じゃあ、こんな感じ。
ぼくは翻訳者としての村上春樹が好きなのですが、それは「彼が訳すなら」という信頼感も大きい。
レイモンド・カーヴァーを日本の一般読者に知らしめたのは村上春樹の確かな実績だと思うし(おかげでカーヴァーは大好きな作家になった)、ティム・オブライエンやグレイス・ペイリーなんて彼が訳さなかったら知らなかった。アーヴィングやカポーティ、フィッツジェラルドだって興味を持たなかったと思う。もちろんぼくと合わない本もあるけれど。
それって村上春樹のミーハーだからじゃんと見ることもできるし、そういう楽しみ方もあるとも言える。翻訳者が好きだから/信頼しているから、その人が訳した本を読むという人は多いと思う。柴田元幸とか。
ぼく 「えっとね、ビールください」
春樹 「はいよー」
ぼく 「あとはねー。んーと…」
春樹 「いいの入ってるよ。元死刑囚の話。激おも」
ぼく 「お、それください」
春樹 「はいよー」
そんな感じ。
ちなみに激おもは「激烈におもしろい」の略です。そんなこと村上春樹は言いません。ぼくだって言わない。
ずいぶん遠回りしましたが、ぼくにとって長野ロキシーはそんな映画館なのです。もちろん「この映画が観たい」と足を運ぶこともあるのだけど、「長野ロキシーでかかっている映画を観る」という気持ちも大きい。
なんか映画みたいなーと思ったときに、まずは長野ロキシーで何がかかっているか調べる。それで時間が合えば観に行く。好みがドンピシャで合うときもあるし、そうでもないときもある。
ドンピシャだったのは『パリ・オペラ座のすべて』や『希望の国』で、あんまりだったのは『私が愛した大統領』だった。でも、それはあまり関係ない。誰にだって好みはある。
つまりぼくは行きつけの飲み屋が出してくれるおすすめの皿や、好きな翻訳者が紹介してくれる未知の作家にわくわくするように、長野ロキシーが紹介してくれる映画を観たいのだ。
それで「面白かったー」とか「いまひとつだったー」と言いたい。一緒に観て感想をあれこれ言える人がいたら言うことない。
ぼくはそんな映画の楽しみ方が好きだ。
そんな映画館がぼくの暮らしにあるのが楽しいし、そういう映画館がある権堂という町にぼくは親しみをもっている。
蛇足 一
いま楽しみにしているのが『愛の渦』と『言葉のきずな』と『アクト・オブ・キリング』です。いっぱいあるな。
あと、五月十日から始まる『小津安二郎監督特集』が反則的に楽しみです。小津映画をスクリーンで観れる喜び!
蛇足 二
ちょっと調べてみたら、ウィキペディアに長峯相生座ロキシー載っていてびっくりした。かなり詳しい。完全推測だけど小林さんが書いたりしているのだろうか。
執筆:2014年5月8日
長野相生座・ロキシーのその他のnote
長野相生座・ロキシーについて他にもnoteに書いてますのでよかったらご覧ください。
『大人になれば』について
このコラムは長野市ライブハウス『ネオンホール』のWebサイトで連載された『大人になれば』を再掲載しています。