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WEデザインスクール設立エピソード

私はなぜ、WEデザインスクールをスタートしたのか?
まずは、私の生い立ちからお話ししようと思います。

生い立ち

私は、1984年に愛媛県松山市の城下町に生まれました。
父母、祖父母は会社経営で、7人家族の第5子末っ子。
経営者のさまざまな姿を見ながら育ちました。

そして、父方は「頑固一徹」の言葉の元にもなった戦国武将の稲葉一鉄と、その孫で江戸幕府に大奥をつくった春日局の血縁。
母方は司馬遼太郎の『坂の上の雲』でも知られる秋山兄弟の親戚。
そんな、なんともバイタリティー溢れる家系でした。

私自身も、小学校・中学校では、学級委員、生徒会活動などリーダーシップを発揮し、文武両道の優等生。
高校は、夏目漱石が教鞭を取り、小説『坊ちゃん』の舞台となった旧藩校である県随一の進学校、松山東高校に通いました。

幼少期から、環境・戦争・政治など、さまざまな社会問題を学ぶ場に母親に連れられて行きました。
そんな影響もあり、社会変革する志を熱く持つ子どもでした。

けれど、高校生になる頃には、社会にある問題の多さや大きさに愕然とし、自分一人が頑張っても社会は変えられないと絶望し、やる気を失ったのです。

そんな、社会への希望を捨てた投げやりな気持ちと(でも、本当は社会を良くしたいという思いの残り火もわずかにあり)、また、当時の価値観や、論理的に言葉を使うのが得意だという性質から、当初、大学は法学部進学を目指しました。


美大を選ぶ

しかし、1年間浪人生として過ごす中で「自分はどんな生き方をしたいのか?」真剣に考え直しはじめました。
「このままの道で生きて、死ぬのでいいの?」「この人生で何をしたいの?」と自分に問いかけ続けました。

そんな問いかけを続ける中で、一つ、思い出したことがありました。
昔から、雑誌で素敵なデザインを探したり、インテリアにこだわって家具のDIYをする自分がとても好きだったということです。
「私ってアートやデザインがすごく好きだったのに、なぜその道を選ぼうとしないんだろう?」
「本当に自分の心が求めるものと共にある人生にしたい」と感じるようになり、美術大学に進学を考えるようになりました。

けれど当初は、美術大学は「美術部の人が行く場所だ」という思い込みや、「絵が苦手な自分にはとても無理だ」という誤解がありました。
それに、アートやデザインは好きだったけれど、得意というわけではないし、「自分に分かるようになるんだろうか?できるようになるんだろうか?」という不安もありました。
美大に行ったら、劣等生になって、ついていけないんじゃないかという思いもありました。
でも、そんな不安を、アーティスト岡本太郎の「マイナスに賭けろ」という言葉に背中を押され、捨てる覚悟をしたのです。

「やりたいことがあるのに、マイナスがあると思って進めないなら、むしろそのマイナスの方に賭けろ、そちらこそが本当にやりたいことだ」というような言葉でした。
その言葉に押され、条件がどうとか、不安がどうとか考えるのではなく「自分がやりたいかどうかだけを大事すべき」という考えを持ち、動き出したのです。


WEデザインスクールへの道のり

そしてそれと同時に、私にはこんな思いもありました。
「もしかしたら、私のように、自分にはできないと思い込んで、アート・デザインの世界に入りたくても入れない人が、世の中には沢山いるかもしれない」
「もし私が、美大でアート・デザインを習得できたら、私に似たそんな人たちに、理解するための道筋を示せるんじゃないか」
「それを仕事にできたら素敵かもしれない」というビジョンが、ほのかに心に浮かんだのです。
この想いが、今のWEデザインスクールに続く、最初の一歩でした。

美大に入ってからは、新鮮な驚きや、体験の連続でした。
その中でも一番驚いたのは、美大に入ってみたら、自分は実は意外と美大でも優等生であったということでした。
1年生の最初のプロダクトデザインの授業の講評では「100点だ!」と教授から褒められ、プロジェクトをデザインするクラスでも優秀者に選ばれる。ディスプレイデザインのクラスでつくった作品も、良作として大学の冊子に載ったりと、完全にアウェイだと思っていた美大で、気づいたら優等生街道まっしぐらでした。
そんな中で、私はあることに気づいたのです。

それは、「実は自分は、感性的な思考と論理的な思考のどちらもが強く、デザインに適した、バランスある能力の持ち主だったんだ」ということです。
最初は、デザインは感覚的で、直感的なだけの世界だと思っていました。
でも、実は、そこには、論理的な思考もとても大事だったのです。
また、美大に行くまでは、自分は論理的すぎる人間だと思い込んでいました。
でも実は、そうではなかったということも大きな気づきでした。
感性が、知らず知らず潰されていただけで、美大という環境で刺激されているうちに、自然と回復することができたのです。

私のこの経験は、これからクリエイティブを知りたいと思っている方にとって、希望の持てる話なのではないか思っています。
論理的思考が邪魔になって、クリエイティブな発想ができないと誤解している人は多くいます。
そして、自分には感性がない、と誤解している人も多くいます。
でも、そうではないのです。
論理的思考はクリエイティブにも活かせるし、感性は回復できる可能性が大いにある。
これは、今も私がいつも、デザインを学び始めるみなさんにお伝えしていることでもあります。


社会を経験する

大学卒業後は、自分で独立して何か活動をするイメージを持っていました。
でも、すぐに起業するのは時期尚早だと思い、まずは社会勉強がしたいと思い、会社に入ろうと考えました。
どうせ勉強するならば、文化を社会の中で実践している場がいいなと考え、数年間、パフォーミングアーツの世界で仕事をしました。
その後、独立に向けた試行錯誤を開始。

2014年に「クリエイティブ教育をイノベーションする」をビジョンとし、株式会社OFFICE HALOを起業しました。

同じ年に、1つ目のプロジェクトとして「大人のアートスクールCORNER」を開校しました。
これまでアート・デザインを知りたいと思っていたけど、学ぶ機会がなかった人たちに、どうすれば届くのか、これまでにない新しい実践を始めたのです。


WEデザインスクールを開校

WEデザインスクールは、2つ目のプロジェクトとして、2016年に母校でもある武蔵野美術大学デザイン・ラウンジとの共同でスタートしました。

ちょうど私たちが、ビジネスパーソン向けのデザインの学びに特化したプログラムづくりを始めようとしていた時、当時、東京ミッドタウンのデザイン発信拠点であるデザインHUBにあった、武蔵野美術大学デザイン・ラウンジの場を使ってみないかと声をかけてもらったことがきっかけでした。

それならば、ビジネスパーソン向けのデザインの学校をつくろうと、コンセプトから講座づくりまで、私の会社のチームで試行錯誤を開始。独自に全く新しい学びのコンセプトを生み出していきました。

当時、デザイナーを目指すのではないビジネスパーソンだけを対象として教えるデザイン学校はありませんでした。
WEデザインスクールは、「ビジネスパーソン向けにデザイン経営を教える日本初の学校」でした。
だから、難しいことがたくさんありました。

「ビジネスパーソンは、何がわからないのか?」
「何をどう学ぶべきか?」
「何を目指すべきか?」

時代に合わせて、何もかもを独自に考える必要があったからです。

そもそも、美術大学で行われているデザイナー育成のための教育メソッドは特殊です。
まず、事前に、色かたちに対する素養を高いレベルで持っている人を、受験で選抜した上で行われる教育であるという特徴があります。
また、もともと職人や芸術家としての側面が強かった分野ですから、しっかりとした学びの体系があるというよりは、徒弟制度のようなかたちで、長期間の実践の中で、弟子が主体的に学びとるという教育スタイルが主流です。

一方で、多くのビジネスパーソンは、美大入学者が得意とする色かたちに対する素養がほとんどなく、むしろ苦手としています。
また、専業のデザイナーになることを目指す人はほとんどおらず、デザインへ横断性を持つジェネラリストとなることを目指す人の方が圧倒多数です。
さらに、さまざまなビジネススキルを身につける一環として、本業ありきで学ぶため、効率的で体系的な学びを求めています。

ですから美大の教育を、そのままビジネスパーソンに提供してもフィットしないのです。

そもそも、デザイン業界で使われる言葉や概念は、非常に閉鎖的です。
同業者の中だけで通じる価値観を前提としていることが多いからです。
そういったことは、他の専門的な領域でも多く起こっていることではありますが、より多くの人に同じように意味を伝えるためには、様々な言葉や概念も、対外的な視点で刷新していく必要がありました。

また本来、教育というのは、「誰が」「何を目指すのか」で決まってきます。
つまり「誰が」の部分の、人の特徴や、得手不得手が違ってくれば、教育は変わります。
「何を目指すのか」の部分でも、プロのデザイナーになるのか?ビジネスリーダーとしてデザインを判断するのか?などによっても変わってくるのです。

それらを変数として、デザイン教育を再編成していく必要があると考え、私たちは「クリエイティブ教育のイノベーション」というビジョンを持ちながら活動をしていくことにしたのです。


WEデザインスクールの特徴

このように、WEデザインスクールは、これまでのデザイン教育を刷新すべく、スタートしたのです。
そんなWEデザインスクールが行うデザイン教育の主な特徴はこのようなものです。


・暗黙の前提から話をスタートする

美大生など、入試で選抜され、デザインに高い素養を持つエリートと、そうでない人とでは、スタート地点が全くことなります。

これまでは、暗黙として語られなかった「みんな知っている当然のこと」を、あえて言葉にして、しっかり共有することで、デザインに対する根本的な誤解や疑問を整理しています。

そうすることでまず、「どのようにデザインに向き合えばいいのか」をはっきりとさせ、よい学びのスタートが切れるようサポートしています。


・デザインを言語化する

デザインは、視覚言語という色・かたちの言語が使われています。しかし多くのビジネスパーソンはその意味を読み取ることができません。

美大などでは、「視覚言語は誰でも分かる」という前提に立ち、その読み解き方を取り立てて教えないことがほとんどですが、WEデザインスクールでは、「視覚言語を読める人は少ない」という前提に立っています。

外国語のように翻訳する、つまり「デザインを言語化」しながら学ぶことが重要だと考えているのです。はっきりと言葉で説明することで、あいまいにならず、誰にでも明確にデザインの意味が見えるようになります。


・観察する方法を教える

デザインが苦手なビジネスパーソンは、そもそも「デザインをどう見ればいいのか」がわからず困っています。
そのため、漠然と観察してしまい、混乱してしまうのです。

WEデザインスクールでは、「どのポイントを見るか」「どう見るか」を分解的に記したフレームワークを用意し、観察の視点を提供しています。
一つ一つの要素を落ち着いて観察できるようになることで、観察の精度は圧倒的に向上します。


・ケーススタディ型で進める

デザインの学びの主流は、実践型です。
つまり、「とにかくつくってみて学ぼう」という姿勢だということです。
しかしこれは、ある程度インプットがある高度な人材に向いた学び方です。

多くのビジネスパーソンは、そもそもデザインの事例をほとんど知らず、好きなデザインがない、デザイナーを知らない、などという場合がほとんどです。
まずは「いいデザインを知る」「いいデザインのどこがどういいのか知る」ということが、実践に先んじてあるべきファーストステップです。

そのためWEデザインスクールでは、ケーススタディ型でプログラムを進めることを重視しています。
まずは、多くの優良なデザイン事例に触れることを、大事にしているのです。


・判断力を磨くことを目的とする

ビジネスパーソンに主に必要な能力は、プロのデザイナーのような「つくる力」ではありません。
そういったプロのデザイナーと協業し、リーダーとして判断したり、議論したりすることです。

そのため、WEデザインスクールでは、つくりながら技術を学ぶのではなく、たくさん見ることで判断力を磨くことを重視しています。
「良いデザインの特徴」や「デザインのパターン」などを知り、判断軸を身につけることで、クリエイティブリーダーとしての判断力を磨きます。


・価値観の根本を刺激し変容させる

デザインには、他の分野と大きく違う部分があります。
それは「感性的価値」を最重要視していることです。
感性的価値とは、美的、情緒的、精神的などの観点において喜びを感じることです。

こういった価値を、中心に置いて発想ができるようになることがデザイン力を発揮する上では最重要です。
そのために、これまでと異なる視点で世界を見る目を身につけてもらえるよう、価値観の根本を刺激し、変容させることをプログラムでは重視しています。


このようにWEデザインスクールでは、美大のアカデミックな知見を背景としながらも、これまでのデザイナー教育にはない、全く新しいビジネスパーソンのためのデザイン教育を独自に開発しています。

というわけで、少し長くなりましたが「なぜ稲葉裕美はWEデザインスクールを開校したのか?「WEデザインスクールとはなんなのか?」の概要を書かせていただきました。

みなさんにも、WEデザインスクールさらに深く知っていただけたでしょうか?

WEデザインスクールの試みに興味がある方は、ぜひこちらから、より詳しい情報をご覧ください。

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WEデザインスクール公式サイト
https://wedesignschool.com


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