カミール②孤独な僕との友情成立
休憩時間も終わり、また授業に戻った。通っていた語学学校では、午後はグループディスカッションやアクティビティをよくしていた。その日は何組かのグループに分かれてディスカッションをした。
近くの席同士グループになってのディスカッションだったから、私とカミールは対角線上に座っていたため別のグループになった。
私は前にも書いたとおり、ペーパーテストは良くできるが、話すのは苦手だ。反対にリビアの人たちは、ペーパーテストは苦手だが話すのは結構得意そうだ。というか間違っていても構わず流暢に話すので、得意そうに聞こえるのだ。
語学学校の先生も言っていたが、当時の私のように間違えないように何を言うか考えて黙り込んでしまったり、話してる途中で言うのをやめてしまったりされるよりは、間違っていても止まらずに言い切ってしまってくれたほうが理解しやすいと言っていた。
確かにそのとおりである。単語の羅列であろうが、過去形未来形めちゃくちゃであろうが、三人称単数のsが抜けてようが、黙られたり話を途中でやめられるより理解はしやすい。そのアドバイスを聞いてから私もなるべく間違ってしまっても流暢に喋るように心がけた。
最初は言った後で「あぁ、こう言えばよかった」と後悔する日々だったが、うまいもので、慣れると何も考えずにスラスラと出てくるようになってくる。その訓練のおかげか、今ではネイティブの人からあなたはペラペラだと認定してもらえている。
…また話が逸れてしまった。
とにかくそのディスカッション中に、気づいたことがあった。ふと周りを見たときに、よくカミールと目が合うのだ。しかし目が合っても特に何も反応して来ないので、気のせいかもしれないとその時は思った。
そもそもリビア人男性にしたら、これまで日本人なんて見る機会が全くと言っていいほどなかったのであろう。珍しく思われても仕方ない。その日は他のリビア人男性にも興味津々でジロジロ見られていたし。
そんなこんなで初日は終了した。
久しぶりに英語をたくさん使ったものだから、結構身体が疲れてしまった。友達作り目的で来たわけだけど、初日に友達ができるとは思っていない。その日はまっすぐ帰って宿題でもしようと思っていた。
下へ向かうエレベーターを待っていると、カミールがやってきた。そして、
「ぼく、いつもショッピングモールのスタバで勉強しているんだ。よかった今日一緒にどう?」
と言ったのだ。
いきなりなのでびっくりしたが、マレーシアではこれが普通だ。前もって約束するということはあまりない。その場その場で予定を決めるのだ。
私はその時はカミールに好印象を持っていたし、家に帰っても暇なだけなので快諾した。
2人きりっていうのが少しひっかかったが、意外とリビア人は欧米のノリなのかもしれない。変に意識すると勘違いババァと思われるかもしれないと思い了承したのだ。
そのままバスに乗って街一番の巨大ショッピングセンターに向かった。
スタバに到着し、私は大好きなチャイティーラテ、彼はエスプレッソを注文した。リビアの人はエスプレッソを好むのだと彼が教えてくれた。中東で飲まれているコーヒーがエスプレッソに似ているようだ。ちなみに私はインド人ではないがチャイティーラテを好む…。
宿題をしながら、私たちは自己紹介がてら話をした。宿題は主に私がやってそれをカミールが丸写ししていたのだが…なぜこんなにペラペラ喋れるのにペーパーになると途端に弱くなるのだ、カミールよ。
カミールは当時19歳の少年だった。少年と言ってもリビア人は良く言えば大人っぽい、悪く言えば老けているので、少年には見えない。
カミールは語学学校に1年通い、英語を習得してからマレーシアの大学に進学予定らしい。リビアは情勢があまり良くなく、大学の質もあまり良くないため、若者は同じイスラムの国で、留学にあまりハードルが高くないマレーシアに留学に来るらしい。
ほうほう、だから学校にあんなにリビア人がいたのか。と納得してしまった。おそらく学校とリビアと何かしらのつながりがあるのだろう。それでないとあそこまでリビア人だらけにならない。
そしてカミールの家族の話になった。なんとお兄さんが石油会社を経営しているらしい。わお!つまりおぼっちゃまか。さすが石油原産国。オイルマネーで留学できているわけか。
カミールの話をひとしきり聞いたあと、私は自分のことを少し話した。念のためというかなんというか、ミャンマー人の婚約者がいることも知らせておいた。カミールはちょっとびっくりした表情をしたが、そうなんだねとうなずいた。ほ。これで変なことになるまい。
カミールはおもむろに席を立つと、チョコケーキをひとつ買ってきた。
「僕、マレーシアに来てから友達ができず孤独だったんだ。だから君が初めての友達になってくれてうれしい」
そう言って、プレゼントだよとケーキをくれたのだ。
あんなにリビア人がいて友達いないとか、この子大丈夫かと一瞬思ったりもしたけれど、私もカミールがマレーシアで初めての友達だ。そしてこんな風にケーキをくれるんだからいい子に違いない。そう思ってケーキを受け取った。
「ありがとう。これからもよろしくね。」
こうして私たちは友達になった。
あのケーキ…今思えばそれがカミールの合図だったのだ。
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