キング・オブ・ニワトリ
さて、少し想像力を働かせてほしい。
鶏さんの目線になってみてほしいのだが。
ここは大きな飼育施設だ。
大きいなんてものではない。
飼育されている鶏さんは全体で億を数える。
毎日エサをもらい卵を産む。
するとまたエサをもらうことができるのだ。
鶏さんの中にもランクがある。
上質の卵を産める鶏さんは、もらえるエサもまた上質だ。
他の鶏さんよりも多くの卵を産める鶏さんも特別扱いしてもらえる。
しかし特に上質でもなく、産む数も少ない鶏さんに限っては、
ギュウギュウに檻の中に詰められ、生産的に卵を産む毎日を送らされている。
一定の時期になると、今期の良質大賞や総生産大賞が発表されるため、
多くの鶏さんはその賞を取るために生産に精を出すのだ。
そんなある日、一匹の鶏さんが檻から出て外の世界を見ることができた。
飼育施設では昔から外の世界の怖い話を聞かされていた。
外の世界は化け物が住んでおり、鶏さんはすぐに食べられてしまうという。
檻から出た一匹の鶏さんは、恐怖心と戦いながら外の世界を歩いていた。
するとそこに大きな熊が現れた。
鶏さんは慌てて許しを願った。
『どうか食べないでください』
するとそれを聞いた熊は笑いながら答えた。
『食べる?わははは。俺は君を食べなくても困りはしないよ』
そういうと熊はどこかえ行ってしまった。
不思議に思った鶏さんは、また外の世界を歩いて進んだ。
今度は目の前に人間が現れた。
鶏さんは慌てて許しを願った。
『どうか食べないでください』
するとそれを聞いた人間は笑いながら答えた。
『食べる?わははは。私は唐揚げになってない鳥を食べたりはしないよ』
そういうと人間もどこかへ行ってしまった。
鶏さんは不思議に思った。
外の世界で危険な目にはあっていない。
小さい頃から聞いていた話と違うようだった。
それからしばらく外の世界で旅をした鶏さんは、もとの飼育施設にもどることにした。
施設の近くにある丘まできた鶏さんは、丘の上から施設を眺めた。
するとその景色は今までと違って見えたのだ。
友達や親戚たちは、狭い檻に詰められ、必死に卵を産んでいた。
上質な卵を産もうと、ひとつでも多くの卵を産もうと。
そして大賞をもらって良い待遇を得ようと必死になっていたのだ。
鶏さんは何かに気づいた。
そしてもうこの施設には戻らないことを心に誓い、外の世界で自由に生きることに決めたのだ。
だって外の世界は、聞いていたほど恐ろしい世界ではなかったのだから。
さて、この飼育施設。
なにを比喩しているのかお分かりだろうか?
生産を繰り返す経済社会とも考えられる。
食肉に対する考えともいえる。
思考の中での常識というカゴを表しているともとれるだろう。
そしてアナタなら戻りたいであろうか?
この施設に…。