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妖精は小さなおじさん8話

ミツルはもう何日も熟睡できていなかった。


人前で話すためのスピーチ内容を作成していたが、こんなにも文章が進まないことに焦りを感じていた。


『小説なんかより全然難しいじゃないか。』


自宅で独り言をつぶやきながら原稿と向かい合っていた。

そのとき、部屋の隅で何かが動いたように見えた。


ミツルはすぐに反応し、その方向を確認する。


クローゼットの横に立てかけてある鏡越しに何かが動いている。


時計の針は深夜2時を回ったところだ。


ミツルは部屋の電気をつけた。


仕事机のペンライトのみで執筆をしていた目に、一気に光が広がる。


すると部屋の隅には、とても小さな人の形をしたものがこちらを見ていた。

『なんだお前は!』


ミツルは大きな声で叫んだ。

すると、その小さな人の形をしたものは答えた。

ぶつぶつうるさいのはお前さんのほうだ。

何時だと思っとる

そうはっきりとしゃべったのだ。

『お前のほうこそ、人の家でなにをしてるんだ』


ミツルがそう返すと、小さな人の形をしたものは答えた。

人の家?

確かにここではそうなるな。

そう言うとゆっくりとミツルのそばへ近づいてきた。

 ワシは妖精だわぃ。

 お前さんには見えるだな。

 いきなり現れたわけではない。

 ずっーとこの世界に存在しておるわぃ。

 ただしそれを見える者と見えん者がおるだけじゃ。

 今ではほとんどの者が見えんようになってしまったがな。

小さな人の形をしたものがそう言うと、ミツルはコンビニで働いていたときに出会った小さなおじさんの言葉を思い出した。


ミツル君、私は妖精なんだよ。

ミツル君にはそれが見えるんだね。今までの行いが良かったんだろう。

例えば、虫などの小さい命も大切に考えてないかな?

そういうことの積み重ねでミツル君の次元が一つ上がったのだと思うよ。
虫やその他の生き物もすべて妖精なんだよ。

しかしある人にとっては汚いものに見え、怖いものに見える。
そして簡単に潰してしまうんだ。

『次元が上がった?』

ミツルがそうつぶやくと、それを聞いた小さな人の形をしたものが答えた。

 ほう。そのことを知っとるのか?

 妖精を見たのは初めてではないんじゃな?

 

そういうと小さな人の形をした妖精は話し始めた。

 大昔は人間にも妖精は見えていた。共存していたからな。

しかし長い年月をかけて、少しずつその能力が無くなってきたようじゃ。
ワシら妖精にもその原因はわからないが、ひとつだけ確かなことがある。
それは人間だけが自ら、大きな流れに逆らっておるということじゃ。

生命があるものは、この空間でともに共存しておる。

そしてそれは、各生命が自立をしていることとは少し違う。

ある大きなエネルギーによって生かされているわけじゃよ。

なんのために?ミツルが口を挟む。

 なんのためか?その疑問を持つこと自体を考えてみればわかるのではないかな。

それは自立しているものが考えることじゃ。

では聞くが、お前さんの身体の中にはたくさんの細胞があり、たくさんの臓器がある。
その一つ一つは何のために生きておるのじゃ?

お前さんが存続するためじゃな。

つまりすべてには役割がある。

そう言えばわかるかな?

ミツルはそのことについて考えた。


僕たち自身が、その大きなエネルギー体の細胞だという解釈か…。

でも僕らは自分で考えて行動することができる。


ミツルはそのことを訪ねた。

 それこそが傲慢なんじゃよ。

 なぜ考えて行動しているのが人間だけだと言い切る?

動物や虫、細胞に至るまで、すべての生命は同じように行動をしておるぞ。

ミツルは衝撃を受けた。

その事実にではなく、今まで当たり前だと考えていたことの浅はかさに。


確かにそうだと思えた。

この世界で生きてるのは人間だけではないのだ。

小さな人の形をした妖精は続けた。

 何かに気づけたようじゃな。

 ではそのついでに教えてやろう。

 お前さんがこうしてワシと出会うということは、お前さんにはやらなくてはならない必要な役割が近づいているということじゃ。

お前さんにしかできない方法で、大きなエネルギーの存続のために働く何かがな。

それは何ですか?


ミツルは返した。

ミツルは小さな人の形をした妖精を尊重していた。

 それはこれからわかるじゃろう。

 自分自身と向き合う時間を忘れんことじゃよ。

小さな人の形をした妖精がそう言った途端、辺りは暗くなり何も見えなくなった。


目を開けると、デスクの上でミツルは寝てしまっていたらしい。


今のは夢か?


寝ぼけながら原稿に目をやると、まったく思いつかずにいたスピーチのタイトルが書かれていることに気が付いた。


【宇宙の法則】


それをみてミツルは感じていた。


今のは夢なんかではない…。

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