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【THE FRONTLINE DISPATCH】ホワイトハウスへの警鐘 ('20/4/9)

これは僕が聞いたポッドキャストの要約です。
今日とりあげるのは、FRONTLINE という米国の公共放送、PBSが誇る人気”調査報道"番組から派生した FRONTLINE DISPATCH というポッドキャストです。
今回のパンデミックが発生する以前の段階で、ホワイトハウスはそのリスクについて報告を受けていたといいます。
その時どのようなリアクションがあり、実際にパンデミックがおこってしまった時、政権の中枢がどのようなアクションをとってきたかについての取材レポートです。
今や新型コロナ関連のニュースが一面を飾らない日はありません。
1ヶ月後に日本がアメリカのような状況に陥いっているのか、今の状況のまま踏みとどまれているのかはわかりませんが、日本が陥りかねない状況の国で何が起こっているのかを知っておくことは、最悪のケースが日本に訪れたときに自分がどこに軸足をおくべきなのかの判断材料になるのでは、と考えています。
特に、海外メディアがいま何に目を向け、何を伝えようとしているのかは、日本にいる僕たちが感染を防ぐためにベストを尽くすのと同時に、何に目を向けておく必要があるのかを教えてくれている気がします。
なお、ここで取り上げているポッドキャスト番組は、Spotify, Apple Podcast, Google Podcast, 等で無料で聴くことができます。

書き起こし<英語>はこちら

新型コロナの症例が報告される以前に鳴らされていた警鐘

国際的に活躍するジャーナリストであり、ドキュメンタリー作家のMartin Smithが、CSIS(戦略国際問題研究所)という世界屈指のシンクタンクで国際健康政策を専門とするStephen Morrisonにインタビューをしたところ、新型コロナウィルスの騒ぎが発生するより以前(2019年11月下旬)に、地球規模のパンデミックが起こることは避けられないことだというレポートをホワイトハウスに提出していたことが明かされる。
未然に防ぐための準備に必要なコストは、今必要とされているコストと比較すると微々たるものだったのだが、その提言を前に、政権当局者たちは沈黙したまま、アクションをおこすことはなかったという。
Morrisonは、防ぐことが可能だった不必要な死の増加に苦悶している。

1ヶ月の間アメリカ政府はアクションを起こさなかった

2019年12月31日にWHOに対して中国から新型コロナウィルスに関する報告があった後、1月10日頃には遺伝子データ、検査キット開発、ワクチン開発、抗ウィルス剤開発に向けたデータの共有などが既にはじまっていた。
しかし、ホワイトハウスにタスクフォースができたのは1月末で、その頃には既にウィルスは至る所に蔓延していたことになる。
「国境を封鎖するよりも他にもっとやるべきことがある。」と警鐘を鳴らす政府高官もいたが、現在の政権内部の構造的に、その警鐘が大統領に迅速に届くようなシステムにはなっていなかった。

解散させられていたパンデミック対策室

2018年5月、パンデミック対策やバイオテロ対策を担うチームは国家安全保障顧問ジョン・ボルトン指導のもと、解散させられていた(当時の記事<英語>はこちらを参考に)。
Morrisonはこの種の対策は非常に複雑で様々な関係省庁との調整も必要となるため、保健福祉省管轄にすべきだ、という提言をし続けていたし、2019年11月の報告でも対策室の必要性を訴えていたが、対策室が復元されることはなかった。

桁外れの脆弱性

僕たちは新たな病原体が生まれれば爆発的に拡大するリスクのある時代を生きているという。
本来であれば政権内部にこの問題の陣頭指揮をとるためのチームを備えておく必要があり、かつてはその問題に対処するためのチームがあったのに、政府の意向でそのチームが解散させられたことに強い警戒感を示す専門家はMorrisonたちだけではなかったという。

保健福祉省長官からトランプ大統領への報告

1月初旬の段階で、保健福祉省長官であり国家生物防衛戦略担当のAlex Azarはトランプ大統領へアポをとったものの、実際にコンタクトができたのは、1月18日のことで、しかも直接会うのではなく、電話のみだったという。
しかも、その時、大統領が関心を示していたのは電子タバコに関することだった。
この当時、弾劾裁判なども抱えていた大統領に新型コロナへ注意を向けるように促すのは難しい状況だったと、言われているが、Azarがもっと迅速に危機感を共有する方法はあったはずだ、との声もあり、実際のところは現在も調査中だという。

初動の遅れとインフォデミック

Morrisonは1月初旬の段階で対策が遅れたことだけでなく、インターネット上で常に私たちを襲う誤情報 ”Infodemic (インフォデミック)"に対して怒りをおぼえている。
政府、自治体のトップ、様々な分野の専門家からレポーターたちに至るまで、虚偽の発言やごまかし、誤った情報、誤った見解、など多くの情報が専門家の仕事を尊重することの妨げとなっていた。
トランプ大統領に至っては、”民主党が政治利用している", "CDCからの報告はない", "状況はコントロール下にある", "4月ごろになって暑さが訪れれば自然と消える", などといった発言を繰り返していた。

指数関数的増加を見誤っていた

Smith はImperial College Londonの感染症疫学専門家のBritta Jewellと感染症疫学統計学専門家のNicholas Jewellにも取材をおこなっている。
その中で、「国内で50の症例が発見されたタイミングで政治が介入し、国の経済を一時的にシャットダウンする、ということは実現不可能なことのように思われるが、回避できた感染症の数を考えると絶大な効果があったはずだ」と考えている。

現在の死亡者数の予測は楽観的なのか?

現在、アメリカでは20万〜24万人ほどが亡くなる可能性があると言われているが、Britta Jewellはその数はかなり楽観的だと指摘する。
彼女は、彼女の研究室での試算によると、何も対策を講じなければ220万人に達すると予測しているという。
一方で、現状は何も対策を講じていないわけではないので、そこまでの規模になるとは考えていないというが、早い段階で適切なアクションをおこさないと手に負えなくなると考えている。
アメリカは広大で各州ごとに異なる流行病などもあり、州間の移動制限もないことから、異なるタイミングで流行が発生する可能性があると指摘する。

誰がボールを落としたか?

この取材、インタビューを行ってきた Smith は、過去にも9/11、イラクやアフガニスタンでの戦争、ハリケーン・カトリーナや金融恐慌の取材などでも、説明責任の所在についてカバーしてきた。
その Smith は今回の政府の対応について「大統領が誤ったメッセージを発信し続けていることは明らかだが、誰がいつボールを落としたのか(初動が遅れた責任)については、多くの不明点があり、その調査には数ヶ月かかるだろう」という。

”This is not the Big One..."

今回のリポートの結びの中で、Smith は「今回のパンデミックは大きなものではなく、今後、このようなパンデミックはもっと増え、状態化することも考えられる。」とのBritta Jewel の見解を紹介する。
また、続けて、「今の状況は家が全焼したあとに保険を買おうとしているようなものであり、これを教訓に今後の対策を講じる必要がある。防衛費や軍事費に莫大な予算をつぎこんでいるが、医療に対しては必要な対応が取られていない。」とMorissonが報告書の中で指摘していた点も紹介する。
Smith は、今回の責任の所在について、今のシステムの弱点がどこにあるのか、今後も取材を継続していくという。

日本でボールを落としたものはいないのか?

今は補償の伴わない自粛要請に対して複雑怪奇な補償の中身に対してばかり目が向けられているが、初動対策に遡って適切な対策がとられていたか?適切な対策が取れる構造になっているのかを検証する必要があると思う。
今回日本は新型コロナの感染者が乗船しているクルーズ船が近づいたことで、アメリカで一般市民が今回のパンデミックに危機感をもつよりも前の段階で一般的に警戒心が高まったと感じるが、それでも今このような状況に陥っている。
その大きな理由の一つは、”パンデミック" 以上に今回のレポートにもある "インフォデミック" にあると感じる。
この "インフォデミック" は、身体的ダメージが顕在化しないため、より深刻な問題なのではないだろうか。




新型コロナウィルス関連で今後様々な社会貢献の動きが出てくると思います。 いただいたサポートは、全額社会貢献活動に還元させていただきます。