見出し画像

Jアラート

5/27(月)夜。
私はいつも楽しみにしているEテレ「100分de名著」『魔の山』最終回の終盤を視聴していた。その前にはオンライン読書会にも参加していて、あとはこれを見て寝るだけ…と心地よい時間を過ごしていた。

22時46分
突然、画面が切り替わった。
スマホからの、心臓に悪い音。

「ミサイル」「飛翔体」
「TVは緊急速報ばかり」
いびつなニュースの実態と、
報道の「横並び」に辟易し、
分析・解釈による批判、
北朝鮮への不満、
SNSの中は
鬱憤ばらしに躍起な人ばかりであった。

他方、その騒ぎから逃れようとする人も。
それぞれが自分の落ち着き先へ逃げ込んで「避難」しているようだった。

…その頃、島では。
けたたましいスマホの緊急警報、
凶々しいサイレンが鳴り響き、
「避難にならない避難」をさせられていた。
警報の対象は、ざっくり「沖縄県」だった。

警報:「頑丈な建物の中、又は地下へ避難してください」

…地下なんて無い。

警報:「ガラスのそばから離れてください」

…窓の無い、そんな部屋もない。

警報や報道の在り方に問題があるのはわかってる。
半ば「煽り」「エンタメ化」だとして。


…でも、それに対し「不貞腐れる」ことができるのは「恵まれてる」とも言える。
TVを「つまらない」と消す選択も羨ましい。

…「黙って目を瞑る」、
それだけで沖縄のことは無きものにできる。
「手に負えない」と。


こういう時。
くさすことに腐心するのではなく、
現地の人の身になってみてはどうだろう。

「こんなのデマに決まってる」
「ミサイルなんかじゃないのに」
「どうして放送が全部同じなんだ。“沖縄県民は見れないのに”」
「これだから○○人は」
「遊びに行こう」「コンビニ行こう」
「サブスク見よう」
「もう寝よう」「ところでさ」etc.

…この中には、島の人々を何重にも傷つける要素が含まれている。

私たちは
「見なけりゃいい」ができないのだ。

しかも情報を求めたり、
離れて暮らす家族や友や大切な人に、
必死で「遺言」めいたメッセージを送っている最中だから、
スマホは手放せないし、
TLや通知が否応なく視界に入ってくる。

私たち島の人間にとっては
(デマかもしれないけど)
「『万が一』を迫られ」
「覚悟」をし、
恐怖と隣り合わせの中で祈り、
「痛いのだろうか」
「皆と生き残れるのだろうか」
「生き残っても地獄なんじゃないか」
「一瞬にして死ねますように」
…とか考えてしまっている時間なのだ。

─ あの いびつな 真空の 時間 ─

台風なら耐えられる。
通り過ぎるのを待てばいい。
復旧もできる。そうしてきた。

でも 降ってくる爆弾は?
何ができる?
助けを待つまで「自助・共助」?

普段 軍機から落下した 
ボルトや薬きょう1つ、放置してるのに。
(地続きの能登半島でさえどうだ)

ミサイルだなんて 尚更
沖縄なんて守る前に すわ
彼らは要人保護や
危険区域からの脱出を遂行するだろう…


警報が解除された時、
素直に「ほっとした」とはいかなかった。

武器を発射した側に怒りがわいた?
…いいえ。
それが県外の人々の感情に起こった現象なら
「国内の問題」から
「仮想敵」に注意を逸らせたのだから、
「誰か」にとっては「成功」だろう。

でも 真空状態から放り出された
私たちの心は違う。

私たちは わかってしまったのだ。
私たちは 「射撃場」なのだ。
日本列島の「模擬弾」「訓練場」
緊張や駆け引きの「ガス抜き場」
「武器見本市」「時間稼ぎ」
なんだったら「遊び」の場なのだ。

これを
「捨て石」と呼ばずして何と言おう?

それに対する 
“絶望”に気づいてしまったのだ…

あっという間に手のひらを返される
その圧倒的な事実

「今までの努力は何だったのだ」

 ……それに尽きる……


こんなことは、一回きりではない。
何度も何度も、
疲弊と麻痺を引き起こすほどに
繰り返される。


(だから海の向こうの戦争も
 ぜったいに他人事じゃない)


夜中に とつぜん静寂を奪われて
この感情をどうせよというのだ
正直に吐き出したって嫌がられるだけ

私たち島人同志で/ひとりきりで
処理してくれ、と突き返されるのがオチ

夜だし 寝なきゃだし

受け止めてくれるべき人たちは
全て海の向こう

こんなのって 最悪だ 吐き気がする…

“映画やドラマなんかじゃないのに”

アラートのたびにそう思う。



…後日、そのEテレの番組が、
中断された番組の完全版を再放送した。

私は心の中で
「ずっとそのままにしておいてほしい」
と正直、思っていた。
「私たちの、あの止まった時空、歪んだ『真空状態』を、海の向こうの人たちにもずっと宙ぶらりんに味わっていてほしい…」と。


こんな私は 我儘なのだろうか。


🌿imo


《追記》
ぜひ読んでみてほしい本があります。
📘『沖縄について私たちが知っておきたいこと』
🌿高橋哲哉さん著/ちくまプリマー新書
(哲学者/東京大学名誉教授)

*わかりやすく、すぐに読み切れる分量です。値段も手頃です。これだけコンパクトな中に、最低限のことがギュッと詰まっているのは、なかなか無いことだと思います。
特に巻末の、知念ウシさんとの対談は読んでおいてほしいです。読んでいる最中は胸が痛いかもしれません。が、知らないでいるよりも、「知った、その後の人生」の方が、以前の自分より考察や選択がクリアでいられると思います。
それは、読んだ方の生き方を豊かにする、と私は確信しています。
(芋仁)



【amazon】


この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,462件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?