見出し画像

アートと建築を同時に楽しめる「ホーチミン市美術博物館」

初訪 2017.09  更新 2021.12.03


アジアな街を彩る、美しきコロニアル建築。
ホーチミン市街には、フランス統治時代に建てられた建築物が点在し、いまもその面影をいまに伝えています。

コロニアル建築の中でも「ホーチミン市美術博物館」は、アートを見ながら建築鑑賞も楽しめる場所。ステンドグラスやらせん階段など、写真映えする要素が散りばめられていて、ここ数年は撮影スポットとしても人気です。

ベトナムのコロニアル建築とは
半世紀以上にわたりフランスの統治下に置かれたベトナムには、その間に建てられた教会や劇場、邸宅などさまざまなフランス様式の建築物が残っています。当時、植民地化の拠点となっていた南部のサイゴン(現ホーチミン市)は、特に力作揃い。「ホーチミン市人民委員会庁舎」や「市民劇場(オペラハウス)」「聖母マリア教会」などがその代表格です。
※ コロニアル = 植民地様式 の意味



概要

美術博物館があるのは、観光市場として有名なベンタイン市場(Cho Ben Thanh)からおよそ300m、徒歩5分の場所にあるフォードゥックチン(Pho Duc Chinh)通り沿い。

建物は3棟に分かれており、古代から現代アート、戦争関連の作品や期間展示など、棟ごとに内容の異なる展示がされています。(詳細はのちほど)

建物は1929年、フランス人建築家リベラ(Rivera)によって設計され、5年後の1934年に完成。現在は美術博物館として運営されていますが、当時は中国人資産家の「フイボンホア」のオフィス兼邸宅として使われていました。
ルネッサンス様式をベースにアジアのエッセンスを融合した建築は、装飾にも洋中が混ざり合いよく見てみると個性的。大小99個ものドアや窓があり、ホーチミン市でもっとも窓の多い建物としても知られています。

フイボンホアの死後数十年が経った1982年に美術博物館に改装され、展示品の収集などして1992年に開館
現在は、国宝9点を含む2万点超が収蔵されています。


ミュージアムの規模としては大きくないものの、きっちり見て回ると疲れてしまう心配も。なので、個人的に重要と思う場所を「オススメの巡り方」として書き出してみました。よろしければ記事最下部をご参考に。

資産家の旧邸宅を利用
前述の通り美術博物館の建物の家主は、中国人商人「フイ・ボン・ホア(Hui Bon Hoa または Huyen Van Hoa/1845-1901)」でした。
ホア氏は、もともと廃品回収で生計を立てていたところから、やがて不動産業などで莫大な資産を築き、病院や寺院など多くの建物を建設した人物。資産を投じた建築の中には、コロニアルホテルとして名高い「マジェスティックホテル」や、ベトちゃんドクちゃんの分離手術が行われた「ツーズー病院」などもあります。
人々からいまも「ホアおじさん(Chu Hoa)」の通称で知られるホア氏。本人が亡くなり、家族は海外へ移住するなどし、長い年月を経たのちに美術博物館として利用されることになったそうです。


チケット購入

前置きが長くなりましたが、それでは中に入っていきましょう。

美術博物館の入り口はこちら

周囲をいくつかの通りに囲まれていますが、正面ゲートがあるのはこのフォードゥックチン(Pho Duc Chinh)通り。

ゲートを入って右手にある、チケットブースでチケットを買います。

画像3
チケットブース

入館料は
大人 3万VND(約150円)
6〜16歳 1万5000VND(約75円)
6歳未満 無料

画像29
チケットと入館シール

チケットと同時に出される丸いシール(写真右上)は、肩や腕など見える場所にペタッと貼ります。シールがチケット代わりになるので、あとは敷地内を自由に見て回ってOKです。

3棟あります

美術館のMAP
「Toa Nha1」と書かれているのが1号棟です

建物は全部で3棟あり
チケット売り場の前にあるのが1号棟
その隣が2号棟(Toa Nha 2)
一番奥が3号棟(Toa Nha 3)となります。


各棟の特徴は下記の通り。
1号棟
・戦争をテーマにしたスケッチや彫刻作品が主体
・インドシナの著名画家の作品や国宝などもあり
・きれいなステンドグラスがある

2号棟(会期中のみ開放)
・時期により現代アートの企画展を開催

3号棟
・仏教芸術、古代芸術の展示
・陶器や木工など伝統的な手工芸品も
・らせん階段が撮影スポットとして人気


ということで、
まずはメインの1号棟から見ていきます。

1号棟 

画像5
入口の上部

一見、西洋建築一色にも見える1号棟ですが、よく見るとアジアの装飾が散りばめられていることに気づきます。

たとえば、天井付近の丸窓にある鉄製の文字(写真上)。
縁起のいい「福」などの文字が飾られています。

看板の下に見える深緑の陶製屋根も、アジア風。壁に貼られた青い陶製タイルや装飾柱は、同時期に建てられた「グランドホテル」のものに似ているようにも見えます。

画像5

植木鉢には顔の装飾も。細部のモチーフも個性的です。

画像6

そして、装飾は排水管にも。
排水管を屋根まで辿ると、上部にも魚の彫刻が施されていて、ベトナムで時折目にする中国の故事「鯉の滝登り(滝を登りきった鯉は龍になる)」になぞらえた装飾にも見えます。

画像29

建物周辺の庭には彫刻があり、建物を見ながら同時に作品を鑑賞するのもいいかもです。

それでは館内に入ってみましょう。

画像7

正面に鎮座するこの木製エレベーターは、「サイゴンで初めて設置されたエレベーター」として知られるもの。 
※ サイゴン=ホーチミン市の旧名

現在は動いていませんが、80年を超えてもきれいな状態を保っています。


この1号棟は3階建てで、
1階は、1975以降の絵画。
2階は、1975年前後の戦争関連作品(絵画や彫刻)と終結後の現代アート。
3階は、仏領時代にインドシナ美術学校とザーディン美術学校で学んだ生徒の作品や1975年以前の作品が展示されています。

画像8
2階は戦争関連の作品が多め


画像9
「戦争と平和(1950)」


画像10
目を凝らしてみると、卵の殻が使われていることがわかります。

美術館の目玉といわれるのは、
画家 グエン・ザー・チー(Nguyen Gia Tri/1908-1993)の展示部屋に飾られた国宝「北中南 春の庭(Vuon Xuan Trung Nam Bac)」

幅5mを超える大きな漆画には、
北部・中部・南部を象徴した女性が描かれています。
(女性の中には少々荒ぶって見える女性もいますが、どこのエリアの人でしょうか笑)


美術館の作品は全体的に説明が少なめなので、自分の感性にまかせて自由に見て回るのがいいかと思います。

個人的に目を惹きつけられてしまうのは、アート作品よりも(失礼)ステンドグラスなど建築装飾の美しさ。

画像11

2階のホールや、

画像13

階段のステンドグラス。

画像14

窓の上部にあるステンドグラスなど、ついつい建物にカメラを向けたくなってしまいます。

※ 2021年11月現在、スマホ撮影は可能ですが、
 残念ながら一眼レフでの撮影はNGとのことでした。

画像16

たとえば、透かし彫りのベンチやアイアンレースなどからも、西洋とアジアが融合した美しさを感じます。

画像16

窓が多いため空調は効いていませんが、通路に出ると心地よい風が。

中庭を見渡せるこちらの2階通路は、ドラゴンが描かれたモダンな壁面アートを背景に、戦争関連の彫刻作品が飾られています。
(2021年11月現在、通路の手すり工事のため通行不可)


画像17
られます

時間があれば少し中庭にも寄り道を。1階のエレベーター裏にある階段から出ると、壁一面にバルコニーが並ぶユニークな光景が迎えてくれます。



それでは次に、
隣の棟を覗いてみましょう。

2号棟

画像19

こちらは、現代アートの企画展など、期間展示を行う棟。

展示期間のみ開放しているので、興味があるテーマの企画展開催中であれば立ち寄ってみるのもいいと思います。

画像21

入口の扉上部には、イニシャルにも見えるアイアン装飾が。
家主だった「Hui Bon Hoa」 の頭文字でしょうか。


画像20

ホールにあるシャンデリアも、どこかオリエンタルな佇まい。

このときは、仏教と現代アートを組み合わせた企画展の会期中。
仏教の精神性を色彩豊かに伝える、興味深い内容でした。

画像22

そして、見どころは床のタイルにも。
3棟とも、床にはさまざまな模様のタイルが敷かれており、そのほとんどが建設当時のオリジナルだそう。フランスの職人がベトナムで焼いたものだそうなので、足元にも注目してみては。



それでは最後に、一番奥の棟へ行ってみましょう。

3号棟

画像24

チケット売り場からみて、一番奥にある小さな建物。
個性的ならせん階段がある棟です。

画像27

館内には、仏像など仏教芸術の展示や

画像28

南部の伝統陶器ライティウ焼き、

画像29

螺鈿細工など木工工芸品をはじめとする手工芸品が展示されています。



そして、フォトスポットとして人気なのが

画像28

こちらのらせん階段。
小さな階段ですが、大理石とピンク色の壁、アイアンレースの組み合わせがとっても素敵。

画像29

ここ数年で、ステンドグラスが割れてきてしまったのが残念ですが、ついつい建築寄りの紹介になってしまうのは、建物が魅力的ゆえ。

これからも長く残っていってほしい貴重な建築物です。


↓ ですが近年はダメージの心配も。

開発の影響か建物の傷みが深刻化
美術博物館があるのは、ホーチミン市初の都市鉄道始発駅もできるベンタイン市場周辺エリア。高層ビルなどの大規模工事がここ数年立て続けに行われる開発エリアで、その影響からか周辺の地盤が歪み、建物の被害が顕在化。
手すりが折れたり装飾が落ちたり、ステンドグラスも損傷部分が目立つようになりました。
入場料は微々たるものですが、建物の保存を願う意味でも、時々立ち寄れたらと個人的に思うところです。



オススメの巡り方

戦争関連の展示など内容が少し重いこともあり、人によっては体力的・精神的に疲れてしまう場合もあるかも。ということで、ぜひ見ておきたい要点だけをまとめてみました。

1号棟
・サイゴン初のエレベーター
・階段や廊下のステンドグラス
・外通路
・国宝「北中南 春の庭」
・戦争関連の作品をさらっと

2号棟
・興味のある企画展開催中であれば見学

3号棟
・らせん階段
(興味があれば下記)
・ライティウ焼き、螺鈿細工などの伝統工芸品  
・仏教芸術作品 


3号棟の前には簡易的なカフェもあるので、
疲れたらここで休憩するのもありです。


それでは、楽しい街歩きを。


画像1

ホーチミン市美術博物館
Bao Tang My Thuat Thanh Pho Ho Chi Minh

(Ho Chi Minh City Fine Arts Museum)

住 / 97A Pho Duc Chinh, Q.1, HCMC
営 / 8:00〜17:00
電 / 028・3829・4441
休 / なし(旧正月など臨時休館あり)
料 / 大人3万VND(約150円)、6〜16歳 1万5000VND、6歳未満無料
公式HP


[参考]
Bao Tang My Thuat(公式
VN Express
Tuoi Tre
Vietjo

よろしければ是非サポートをお願いします。いただいたサポートは大切に、私の酒代として使わせていただきます