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小説のような

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詩のような、短い空想と妄想と雑念。
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2024年7月の記事一覧

墓をしまいにまゐります

墓をしまいにまゐります

空港の脇を通る道が、香織は好きだ。
どこまでもどこまでも真っ直ぐに伸びて、このまま北海道に行けるのではないかと思ってしまう。

好きなCDをかけながら、ただアクセルを踏む。信号の少ない直線道路は、香織が自分をリセットするのになくてはならない場所になりつつある。

イライラすることがあると、こっそりこの道にドライブに来ていることを、夫は知らないだろう。

今日は、逆に夫がイライラしている。

香織が

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距離感《詩のような》

距離感《詩のような》

あなたをもっと知りたくて

ルーペを持って近づいた

ひかる産毛のきらめきに

背筋がぞわりと蠢いた

あなたをもっと知りたくて

ルーペを置いて近づいた

触れた指先温もりに

胸がぞわりと熱くなる

あなたをもっと知りたくて

近寄るたびに遠くなり

吹き抜けて行くそよ風に

うなじがぞわりと冷え上がる

あなたをもっと知りたくて

近寄るたびに遠くなり

ルーペを置いて駆け出した

眼鏡を投

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別れ際夕暮《詩のような》

別れ際夕暮《詩のような》

またね、と言う私

じゃあ、と言うあなた

私の右側にはいつもあなたがいて

左側には不安がいた

別れ際

次はいつ


聞けなかった私

言わなかったあなた

あの交差点はまだ
あの街にありますか

次もまた逢うことが
当たり前と
あなたは思っていた

思ってくれては
いたのだと

だから「またね」とは言わなかったのだ

と、

今頃
気がついても、ね

☆ヘッダー写真、お借りしました。あり

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