見出し画像

真夜中のダンサー 6夜

 やぁ、午前11時。少なくともこっちはね。いくら君が不登校だか引きこもりだかでロクに学校に行ってなくてそっちが夜だといったって、僕は夢の中にいる時間だよ?何だよ、吸血鬼だって夢くらいは見るさ。で、何かあったのかい?え、協会のこと?あのさぁ、僕は吸血鬼で、君はただのちょっと心に闇を抱えただけの子供だ。あんまりそういう話はしちゃいけないんだけど、まあ僕が話したことを誰にも言わないっていうなら話してもいい。もっとも君が誰かにこれを話したところであんまり信じてはもらえないだろうね。
 協会っていうのは複数の個別の組織の共同体、コングロマリットみたいなものだよ。色々なことを別々にやってるけど、結局のところ目的は同じだからね。助け合いってやつだよ。協会の話をする前に、我々吸血鬼としての結論を先に言っておこう。僕らはみんなで長いこと話し合った結果、絶滅することに決めた。でも何も今すぐにじゃない、緩やかにだ。明日恐竜を絶滅させたような巨大な隕石が落ちるわけじゃないんだ。吸血鬼として生きるために背負わなきゃいけない負荷は時代が進むごとに少しずつ大きくなってきた。僕らを種として分類していいものかは分からないけど、僕らはもう吸血鬼としての共同体(コロニー)を維持できなくなりつつあるんだ。だから安らかな、永遠なる眠りを求めると決めたんだ。皮肉だよね。歳も取らないし死なないというのが特性なのに安楽死を望んでるんだから。協会からは定期的にクール便で輸血パックが送られてくる。協会では定例会があって、最古老、といっても見た目だけで言えば僕とそう変わらないんだけど、彼らが秘密裏に誰を眠らせるか?決定してるんだ。知っての通り、血液には血小板が入っていて、これは血液を凝固させる。フィブリノゲンは血小板が傷の表面を固めた後に傷口の出血元の血管を内側から修復していく。血液っていうのはそういったものが混然一体となった、だいたい体重の1割とちょっとしかない非常に複雑でデリケートな液体なんだ。協会は一部のパックの血液に特殊な加工をしていて、摂取すると遅効性で血管内の血液を凝固させる成分を添加できる。選ばれちゃった吸血鬼のところにはその特別なパックが来て、何も考えずにボーッとそれを口にしてるといつの間にか体中の血管そのものがひとつの塊になって天国だか地獄だか太陽系の外に行っちゃうんだ。外見上はとても自然な突然死さ。飲まなかったらどうなるかって?もし生きてるのが協会にバレてみなよ、協会が吸血鬼ハンターをよこすんだぜ?笑えるだろ?
 まぁ各種の途上国での慈善事業とか野生動物保護とか投資ファンドとか、協会がやってることは他にも色々なことがあるんだけど、僕はまだ眠いんだよ。僕が眠ったのは7時頃だぜ?悪いけど続きはまた今度にしよう。さっきまで見てた夢が楽しくてね。またあの夢の中に入りたいんだ。君もやることないから通話しようと思ったんだろ。マスかいて眠りなよ。じゃあまたね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?