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論文紹介:COVID-19に対する免疫応答の男女差(濾胞T細胞について)

今日は勉強がてら、新型コロナウイルス感染時の免疫細胞について特に男女差も含めて解析した論文を紹介しよう。ここでは今まで紹介していない特殊な免疫細胞も出て来るので丁度良い勉強になるかも知れない。

本題の論文は大阪大から出ている「A sex-biased imbalance between Tfr, Tph, and atypical B cells determines antibody responses in COVID-19 patients」という論文だ(Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Jan 24;120(4):e2217902120.)。タイトルにある「Tfr」というのが特殊な細胞集団であり、新型コロナウイルス感染時にはこのTfrが減少するのだが、そこに男女差があるという事だ。

そもそもTfrとはどういう細胞なのか、それを説明する前に抗体産生とB細胞、T細胞の関係をおさらいしたい。抗体産生を行うB細胞は、ヘルパーT細胞の補助によって活性化し、抗体を産生するという基本的な流れは過去に説明した通りだ。その免疫応答が行われる主な場所がリンパ組織である。リンパ組織にはT細胞領域とB細胞領域が存在しており、B細胞領域を「濾胞(follicle)」と呼ぶ。その濾胞に存在するヘルパーT細胞サブセットに濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)が存在する。このTfhは、B細胞領域に存在し、B細胞を抗体分泌細胞に分化させることで液性免疫を活性化する。Tfh細胞は感染病原体に対する免疫応答においても不可欠であり、新型コロナウイルス感染においても当然ながら重要である。また、抗体産生に必須という点で、ワクチン開発においても重要である。

このTfh細胞に対応して、B細胞領域での免疫応答を抑制する機能を持つのがTfr細胞である。Tregという細胞が免疫抑制機能を持つT細胞だという事は以前に紹介しているが、このTfh細胞バージョンがTfrである。

この論文では新型コロナウイルス感染時にTfr細胞が大きく減少している事を示している。また、その現象は男性の方が女性よりも顕著であり、それと相関してB細胞の反応はTfrが抑えられている男性の方で高くなるという事が分かった。


新型コロナウイルス感染時の重症化率などが男女で異なることは初期から示唆されていたが、その免疫細胞変動について男女差に着目した研究は中々進んでいなかっただろう。今回の研究は細胞の表面マーカーを多く同時に解析する手法を用いており、そのデータが得られているという訳だ。

一方で、この手の「シンプルな解析」に関しては考察に注意が必要である。つまり、Tfr細胞の減少によって強過ぎる免疫応答が新型コロナウイルス感染時の重症化、つまり「重い炎症状態」を誘導する「原因」かどうかは分からないのだ。何事もそうだが因果関係というのは見えている結果との相関関係だけでは証明できないからだ。Tfrの減少に関して言えば、「炎症が起きたから減った」という結果を見ている可能性もあり得るからだ。この部分については何事も「ある時点での結果を見たデータ」に対しては慎重な考察が要求されるという良い例だ。まあこれは核酸ワクチンの悪影響も同じだが、その前提となる分子生物学的機序に関する知見の蓄積は膨大であり、慎重な考察をした結果として危険性を危惧すべきという結論なら仕方ないだろう。

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