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記事コメ:新型コロナ後遺症 オミクロン株感染で「睡眠障害」訴える人増加、被害は従来株の2倍以上に

今回はオミクロン株の後遺症に関する記事を紹介しながらオミクロン株の神経系感染について他の論文も含めて考察していきたい。

岡山大学の調査によってオミクロン株の長期的な影響、特に睡眠障害など中枢神経系への影響が増大しているという報告である。何度も記事にしている通り、新型コロナウイルスの最大の脅威は中枢神経系感染とそれに伴う長期的な中枢神経系症状であり、それを無視して安全性などを語る事に何の意味も無いのだ。

(参考)

今回一つのポイントとしたいのはオミクロン株への変異によって中枢神経系への影響が増大しているかどうかという部分である。ここで一つ最近の論文を紹介しよう。
「Enhanced replication of SARS-CoV-2 Omicron BA.2 in human forebrain and midbrain organoids」
(Signal Transduct Target Ther.2022 Nov 20;7(1):381.)
この論文の著者らは、以前、オリジナルのSARS-CoV-2がヒト脳オルガノイドで感染および複製することを報告しており、SARS-CoV-2オミクロン株とSARS-CoV-2野生型(WT)およびオミクロン以前の変異型と比較している。実験ではヒトの前脳および中脳オルガノイドを用い、オミクロン株BA.1およびBA.2の神経侵入性および神経毒性を調べ、SARS-CoV-2のWTおよびデルタ株の結果と比較検討した。その結果、オミクロン株のBA.2はSARS-CoV-2 WT、デルタ株などと比較して、ヒト前脳および中脳オルガノイドにおいて、より効率的に複製する一方、I型インターフェロン応答はより低いレベルであることが明らかにされた。さらに、BA.2は、感染したヒト前脳および中脳オルガノイドにおいて、高いレベルのアポトーシスを誘発させた。これらの結果は、BA.2がSARS-CoV-2 WTやこれまでの変異体とは異なり、ヒトの脳を標的としてより効率的な潜在的感染と神経障害を引き起こし、長期的に中枢神経系症状を引き起こす可能性があることを示唆している。つまりオミクロン株では中枢神経系についての危険性が増大している事が実験的に示唆されており、今回の記事にある様な研究でも臨床的にその様な可能性が反映されているという事になるのだ。

表題の記事に関して、一つの段落を抽出して紹介しよう。

新型コロナウイルスが広がり始めてから既に3年経っており、多くのことが分かってきましたが、後遺症については初期型ですら3年分しかデータが蓄積されていないため、今後どのような症状が出てくるのか分からないのが恐ろしい点です。例えば、麻疹の場合はワクチンを打たないと、治癒したと思った数十年後にいきなり脳炎を発症することが分かっています。新型コロナウイルスも同様に、遠隔期に突然発症する重篤な合併症がないとは言えませんので、やはり感染しないに越したことはありません。そして、ワクチン接種で後遺症が少なくなるという確実なデータもありますから、新型コロナウイルスワクチンの接種は重要であると考えられます。基本的な感染対策を継続していきましょう。

この部分で興味深い点は麻疹のウイルスについて例示している事である。私も以前某所で麻疹ウイルスについて例を出して説明した事があるが、未知のウイルスの中枢神経系への影響を考える時に過去の例を基に「可能性のある影響」を考察する事は重要だと考える。麻疹ウイルスは稀に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という病態を引き起こす。これは麻疹ウイルスが中枢神経系に潜在的に感染し、数年を掛けて炎症を引き起こすという難病である。中枢神経系に感染するウイルスは免疫系による効率的な排除は期待されないという点で、この様な長期的影響を及ぼす可能性を無視するのは愚の骨頂なのだ。

(参考)

また、「感染しないにこしたことはない」「基本的な感染対策の継続が大事」というのもその通りである。しかし、一点だけ注意が必要である。記事ではワクチンが恰も感染対策の様に記述されているが、これは誤謬である。「今のワクチンは中枢神経系感染や中枢神経系症状を防ぐ事は期待出来ない」というのが科学的に予想される問題点であり、実際にそれは最大のコホート研究によって示されている(Nat Med. 2022 Jul;28(7):1461-1467.)。ワクチンでは粘膜上での感染防御に寄与するIgAを誘導する事が出来ず、脳への侵入や中枢神経系からの排除を促す機序が免疫学的に存在しない。正しい知識があれば、その様な事は簡単に想像出来るし、事実としてそうである以上、「個々人の徹底した感染対策」こそが唯一の対応策なのである。

(参考)

因みにこの記事でもそうだが、行政もマスコミも「新型コロナウイルスの中枢神経系感染」については全く触れようとしない。少なくともこの現象については確実な証拠が多数あるにも関わらずである。また、「ワクチンが中枢神経系感染や中枢神経系症状に極めて効果が低い」事も触れようとしない。なぜならこの2点を知ってしまうと、そこから先は純粋な論理だけで「新型コロナウイルスに対しては個々人の徹底した感染対策しか意味が無い」という結論が導かれるからだ。同時に、徹底した感染対策を前提にすれば、既に述べている核酸ワクチンのリスク(特に免疫系への影響)は多くの人間にとって明確にベネフィットを上回るだろう。そして、その結論は上記の様な存在、そして多数の自制心の無い人間など、科学を軽視する人間たちにとって全く都合の悪いものである事は想像に難くない訳だ。それ故に海外との関係や有権者の人気取りを最優先とする政治に於いても科学的な判断は優先されない。

最後に、これらを踏まえて私が国に期待する対策はたった2つである。それは「分断」と「教育」の促進である。最早多くの人間に於いて一から科学的素養の向上を期待し、有意義な感染対策の実施を教育するのは不可能であろう。それ故に、感染対策を出来る人間と出来ない人間を分断して短期的に被害を最小化しながら、長期的に感染対策という事象を個々人の基本的な生活パターンに組み込む努力をする必要があるのだ。その為には教育課程において基礎的な科学的思考の充実、具体的な「病原体の性質を踏まえた感染対策の考え方」の習得、基本的感染対策の習慣化などが徹底されるべきであろう。意味のある感染対策というのは何も考えず言われた内容をする事ではない。マスクにしろ何にしろ、正しく実施しなければ意味が無いのだ。当然個人ごとにその最適な考え方や手法は異なり、それは自分で考慮しなければならない。「実際の感染対策」というのは国が考える事ではなく、個々が最善を尽くす事なのだ。その為に必要な知識習得と訓練を有意義に実施し、「正しい感染対策・科学的対応が出来る人間を一人でも増やす」ことと「出来る人間と出来ない人間を分断する」事が国に出来る唯一の事である。まあ余談を言えば、島国なんだから国外から入らない様にしろというのは別の議論としてあるが。

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