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核酸ワクチンとMDA5および皮膚筋炎

今日はいくつかの視点から核酸ワクチンと核酸受容体の一つであるMDA5の関係を考えよう。丁度前回記事のコメント欄において膠原病の1種である皮膚筋炎の話題も出たが、これは、ここ最近一部で話題になることもある自己免疫疾患である。以下では特に、核酸認識シグナルによる自然免疫の活性化や自己免疫疾患の観点を踏まえて、皮膚筋炎との関連を見ていきたい。

MDA5というのは以前紹介した自然免疫を活性化するパターン認識受容体の仲間であり、RIG-I様受容体というウイルスRNAを認識して免疫系を活性化するグループに属する核酸認識受容体である。MDA5も他の核酸認識受容体と同様に、活性化による自己免疫疾患リスクの増大が示されている。また、皮膚筋炎という自己免疫疾患の一種においては、このMDA5に対する自己抗体が認められる症例があり、抗MDA5抗体陽性の患者は高率に急性間質性肺炎を併発し、その中の多くは急速に呼吸困難が進行する急速進行性間質性肺炎であり、強力なステロイド剤や免疫抑制剤投与などに対しても治療抵抗性で予後不良とされている。皮膚筋炎のみに抗MDA5抗体が認められる理由は不明であるが、皮膚筋炎患者の皮膚組織においてMDA5の発現が高くなっているという報告はあり、この様な現象が関連している可能性はある。そして、核酸認識シグナルの活性化に伴ってMDA5を発現する細胞からの自己抗原流出(活性化・増殖後にアポトーシスが起こることで大量の抗原が組織に放出される)や、クロスプレゼンテーション経路による自己抗原提示が促進された結果としてMDA5に対する自己抗体が産生される可能性はあり、核酸による免疫の活性化が自己免疫疾患の発症を考える上で如何に危険なものかは常に考慮されるべきである。

また、MDA5に対する自己抗体は免疫複合体を形成することによる直接的な自己免疫反応の原因となるだけではなく、MDA5を更に活性化することで間接的に炎症反応を促進させる可能性も示唆されている。本来MDA5は細胞質内に発現して細胞内の核酸を認識する分子だが、病的な状況では、皮膚筋炎患者の皮膚など変性した組織で過剰発現され、細胞表面にも異所性に発現することが報告されている。このような状況において、抗MDA5抗体はMDA5陽性細胞に結合し、MDA5の不適切な活性化を誘導し、標的組織におけるI型IFN経路の調節障害と慢性的な活性化を引き起こし、既存の病変を悪化させる可能性がある。この免疫活性化の悪循環が抗MDA5陽性患者の予後不良に関連していると考えられており、この様な核酸認識シグナルの活性化は非常に重大な自己免疫反応のリスク要因となり、実際に重篤な自己免疫疾患の原因となることが多く証明されているのである。MDA5と皮膚筋炎の関連についてはレビュー論文もいくつか出ているので参考にしてほしい(Front Immunol . 2021 Oct 20:12:773352. など)。

さて、本題に入って、核酸ワクチンによる核酸認識シグナルの活性化、特にMDA5を介した免疫活性化という現象について紹介していこう。上記の通りMDA5を活性化することは極めて危険な自己免疫疾患リスクだということが分かると思う。そして何度も繰り返している通り、核酸ワクチンは核酸認識シグナルを活性化する。これ自体が重大な自己免疫疾患リスクなのである。まず、下記の研究は核酸ワクチンによる自然免疫活性化がMDA5を介していることを証明したものである。
「Mechanisms of innate and adaptive immunity to the Pfizer-BioNTech BNT162b2 vaccine」
(Nat Immunol. 2022 Apr;23(4):543-555.)

今のRNAワクチンはシュードウリジンによって免疫活性化を回避しているから安全という主張がされているが、これは大間違いである。シュードウリジンによる免疫活性化回避はエンドソーム上のTLR7に関するシグナルのみに発揮されるものであり、エンドソーム脱出後の細胞質核酸認識シグナルには影響しない。実際に今回の研究で、その類の核酸認識受容体であるMDA5を活性化することで、強力な免疫活性化が引き起こされることが確認された。この論文中ではあくまで、「ワクチンによる有効性」についてのみ免疫活性化を語っているが、上記の通りMDA5を含む核酸認識シグナルの活性化は常に自己免疫疾患のリスクを含む。そして、シュードウリジンによる免疫活性化回避があるから安心という理論はこの手の論文で明確に否定されるものなのだ。

実際に、核酸ワクチンによって抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎を発症したという報告はそれなりに存在する(Chest. 2021 Oct; 160(4): A680–A681., Rheumatol Int. 2022 Sep;42(9):1629-1641., SN Compr Clin Med. 2023;5(1):18.など)。日本国内からも複数例報告されていることも注目されるべきであろう(J Rheumatol. 2022 Oct;49(10):1158-1162., J Rheumatol.2023 Feb;50(2):293-294.)。まだまだ研究が不十分な点が多いのだが、RNAワクチンによるMDA5の活性化は明確な事実であり、MDA5の過剰な活性化が自己免疫疾患につながるのも証明されている事実であることを含め、抗MDA5抗体を伴う自己免疫疾患についての危惧をすべきというのはおかしい話ではないだろう。

核酸ワクチンは他のワクチンとは異なる特有のリスクを有しており、そのひとつは核酸認識シグナルの活性化である。免疫学に詳しければ核酸認識シグナルの活性化というのが自己免疫疾患においてどれほどのリスクかと言うのはよく知っている一般論である。今回紹介したように、MDA5は代表的な核酸認識受容体として実際のRNAワクチンによっても活性化されることが示されている。また、MDA5の異常な活性化が重篤な自己免疫疾患リスクとなることや、実際にMDA5に対する抗体は疾患予後と相関があることなど、あらゆる事象がその重要性を示唆している。この様な背景知識を踏まえて、核酸ワクチンがいかに免疫学的に危険な機序を有しているのか、改めて考える必要がある。

※同時に、核酸認識シグナルの活性化は本来の役割の通りウイルス感染でも引き起こされるのは当然であり、いつも言っている通りウイルス感染によっても自己免疫疾患の発症リスクは向上するし、元々皮膚筋炎のMDA5活性化トリガーとしてはウイルス感染が重大な要因だと考えられてきた。当然ながら新型コロナウイルスの感染によって抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎を発症したという報告もある。免疫学的リスクの低減に関して感染対策の徹底は大前提であるというのも繰り返しておく。

(参考)


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