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論文紹介:自己免疫性肝炎と肝組織でのワクチンRNA検出

今日は核酸ワクチンによる自己免疫疾患発症に関する因果関係の証明に寄与する知見を紹介しよう。今までに説明した核酸ワクチンが臓器特異的な自己免疫反応を誘導しうる明確な分子生物学的機序は以下の通りだ:

組織の細胞に於いて核酸ワクチン由来の抗原が発現すると、それは細胞質抗原としてMHC-Iに提示され、CD8陽性T細胞を活性化させた上に、その細胞の標的となる。つまり、核酸ワクチン由来抗原が発現した組織がCD8陽性T細胞依存的な臓器特異的自己免疫反応の標的となるリスクは、免疫学的に明確に存在する。これは既存のワクチンでは起こり得ない特殊なリスクだという事を繰り返し述べてきた。事実として、核酸ワクチンが臓器特異的自己免疫疾患発症を誘発する可能性については多くの症例報告がなされており、心筋炎はもちろん、自己免疫性肝炎についても相当数の報告がある。

(参考)

一方で、この様な明確な機序が考察され、実際に臓器へのCD8陽性T細胞浸潤まで確認された事例があるにもかかわらず、少なくとも日本の行政はその症例について核酸ワクチンとの因果関係を認めていない。
(参考)

今回紹介したい論文が今までのものより一歩突き詰めた検証をしているのは、実際に自己免疫性肝炎を呈した肝組織・細胞質においてワクチンRNAが検出されたという点だ。

「In situ detection of vaccine mRNA in the cytoplasm of hepatocytes during COVID-19 vaccine-related hepatitis」
(J Hepatol. 2023 Jan;78(1):e20-e22.)

この論文ではいくつかの群における肝組織でのウイルスRNA検出を試みている。ワクチン関連肝炎の患者の肝臓組織におけるSARS-CoV-2 mRNAのレベルは、重症COVID-19の患者の死後すぐに得られた肝臓生検で見られたものと同様であった。つまり、ウイルス感染時と同程度には肝臓にワクチンRNAが分布しているという事だ。もちろんCOVID-19やワクチン接種と無関係の自己免疫性肝炎サンプルではSARS-CoV-2のmRNA転写物は検出されなかった。これはいつも語っている組織での核酸ワクチン由来抗原の発現に伴うCD8T細胞による自己組織攻撃のリスクという仮説を補強するものである。

筆者らも同じ様に考察している。SARS-CoV-2タンパク質をコードするmRNA分子を有する脂質ナノ粒子が特定の状況下で肝細胞に到達し、細胞の翻訳機械がスパイクを生成するために使用できるmRNAを大量に送達できることを示唆しており、これらのペプチドは、MHC-I抗原提示機構を通じて提示され、以前に感作された抗原特異的CD8陽性T細胞による認識を促進することができると述べている。また、今回の症例も、今までに複数の報告と類似して、肝炎がワクチンの2回目の投与後に発生したことから、以前の曝露が細胞傷害性Tリンパ球による肝細胞標的化の重症度を高める可能性があることを危惧している。

他の自己免疫性肝炎と異なり、核酸ワクチンが肝臓に分布している事が示され、実際に自己免疫性肝炎が発症し、CD8陽性T細胞の浸潤も確認される。ここまで調べられて、その症例に関する因果関係を否定する事が可能だろうか。もちろん全ての人が自己免疫性肝炎を発症する訳ではない。そもそも自己免疫反応の成立には様々なトリガーやセーフティが存在し、多様な要因が複合的に絡んで寛容と炎症のバランスを維持している。また、以前に紹介したように、核酸ワクチンの分布一つとっても、細胞質からのクリアランスに関する個人差などが影響する事も大いに考えられる。それらを踏まえて核酸ワクチンというモダリティの性質を考察しなければならない。
(参考)

筆者らはこのコメンタリーの最後に、核酸ワクチンの今後の応用可能性のひとつであるがんワクチンについても当然同様のリスクがあるとしている。つまり、常識的に考えれば、このMHC-I依存的なCD8活性化とそれに伴う自己免疫反応の惹起は核酸ワクチンを使用する上で避ける事の出来ない分子生物学的機序に基づくリスクなのである。それを踏まえてリスクベネフィット比較をする事は必須であるし、その様な重要な情報を周知しない事は推進側の怠慢と欺瞞である。がんワクチンであればある程度のリスクは許容される。だが、感染症の予防的ワクチンについてその様なリスクが妥当かどうか、それは個人個人においてもよく考慮しなければならない。

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