論文紹介:オミクロン変異株の鼻腔内感染による炎症性脳障害
新型コロナウイルス感染による中枢神経障害は依然としてこのウイルスの最大の脅威であり、呼吸器症状のみに注目した非科学的な対策は多くの無知な人間に誤った認識を持たせている。むしろ、呼吸器への感染が少なくなることで鼻腔内感染から中枢神経への影響が大きくなるという傾向も示唆されており、また、子供におけるLong-covidの問題も考えなければならない。
今日は幼若ハムスターを用いた新型コロナウイルス感染実験を紹介しよう。論文は「Intranasal infection by SARS-CoV-2 Omicron variants can induce inflammatory brain damage in newly-weaned hamsters」(Emerg Microbes Infect. 2023 Apr 25;2207678.doi: 10.1080/22221751.2023.2207678.)である。
この論文では、離乳したばかりのハムスターが新型コロナウイルスに経鼻感染すると、中枢神経におけるウイルス感染やウイルスタンパク質発現に伴って脳の炎症と神経細胞変性が起こる可能性を示している。実験としてはオミクロン株を含む新型コロナウイルス変異株を離乳期または成熟期のハムスターに経口投与し、成長期の脳における病態を検討している。呼吸器系に関しては、オミクロンBA.2株およびデルタ株の感染により、組織学的損傷は同等であったものの、成熟ハムスターよりも離乳したてのハムスターの肺組織におけるウイルス量は有意に少なかった。一方で、離乳期のハムスターは、脳のウイルス量が多く、脳脊髄液中の炎症性サイトカイン;TNF-αおよびCXCL10濃度が有意に上昇し、軽度の髄膜炎や脳実質血管の鬱血などの炎症障害が認められた。さらに、新型コロナウイルスに感染した離乳期のハムスターでは、全体の63.6%(28/44)が嗅球、大脳皮質、海馬でミクログリオーシスを示した。成熟期ハムスターでは、35.3%(12/34)の脳で主に嗅球と嗅覚皮質にミクログリオーシスが観察された。また、神経細胞の変性は、離乳期のハムスターの75%(33/44)で、嗅球、嗅覚皮質、中脳皮質、海馬など複数の部位に見られたが、成熟期のハムスターでは主に海馬で観察された。また、オミクロンBA.5株を感染させた離乳期のハムスターでも同様の脳病理学的変化が観察された。
この研究は、新型コロナウイルスが若齢で脳に影響を与える可能性を示唆するものである。以前から新型コロナウイルスによる中枢神経系感染や神経障害は示唆されてきたところであるが、子供の方がこのような脳への影響や組織学的変化が大きい可能性があるのだ。また、BA.2およびBA.5変異株に感染した離乳期のハムスターでは、鼻甲介および気管粘膜に中程度の好酸球浸潤が認められた(デルタ株では認められない)。この鼻腔内における組織学的所見は、オミクロン株に感染した幼少児の喉頭気管気管支炎の発生率が高いことと一致する。若年の個体においては、呼吸器症状よりも、鼻粘膜感染などから中枢神経系への移行、神経障害の方をより注意する必要があるということなのだ。
一方で、以前から伝えている通り、子供における感染対策は非常に考え方が難しい。基本的な感染対策の徹底は子供においては難しく、形だけのマスク着用など中途半端な行動は逆効果になる可能性が高い。ワクチン接種についても、リスクベネフィット比較が難しく、かつ神経系感染に対しては基本的なワクチンでは効果が薄い。これらの問題を総合的に考慮した時、最も重要なことは周りの大人がいかに感染対策を徹底できるかという点に尽きるのだ。ウイルスの危険性が何も変わっていないにも関わらず、目に見えている症状だけで油断し、結果として周りの子供にリスクを負わせるような状況は許されるべきではないだろう。
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