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記事コメ:変異株の抗体、期待ほど増えない

以前、抗原原罪という仕組みを紹介した事があった。

今日はそれに関連する記事を見掛けたので紹介しておこう。

記事によると以下の通り、変異株に対する従来株の既存の免役応答の影響が示唆されている様だ。

 新型コロナウイルスの従来株に免疫がある人は、変異したオミクロン株に対応するワクチンを打っても、オミクロン株に特化した抗体の量は期待ほど増えない―。厚労省の専門部会でこうした見解が示された。免疫の「刷り込み」と呼ばれる現象が影響した可能性がある。  

米・ボストンの医療機関のチームは、従来株対応のワクチンを複数回接種した後に、さらに従来株ワクチンを追加接種した15人と、従来株とオミクロン株「BA・5」に対応したワクチンを追加接種した18人を比較。BA・5に特化した抗体で比べると、オミクロン株対応ワクチンを打った人は従来ワクチンのみを打った人と大きな差はなかった。

記事ではボストンのチームという事で、別のグループかも知れないが、Scienceにも類似の研究が報告されている(Park et al., Science, 378, 619-627, 2022)。これは以前も説明した抗原原罪という現象だと考えてよいだろう。つまり先んじてある抗原に対する獲得免疫応答が成立している際に、類似の変異型抗原に対しては新規に免疫応答が成立しにくいという現象である。その機序も以前に説明した通りだ。

結局のところ、新型コロナウイルスに関しては「科学的に予想された現象」というのは確実に後から証明されてきているように思う。「科学的に予想される現象」に対して「現時点で確認されていない」という判断は最も愚かなことなのだ。そしてその「科学的予想」の精度を高めるための努力が我々科学的な人間には必要なのである。

また、具体的に問題になるのは今の変異株対応ワクチンの扱いである。今の変異株対応ワクチンは従来型を2回接種した人が対象になっている。これは治験時のデータとかそういう関係があるのだが、現実的にはそのせいで意味のないプロトコルとして成立している事になる。新規の人も希望すれば変異型対応ワクチンを接種できるようにしないと科学的に根本的な誤りを推進することになる。政治と科学の乖離がここに見て取れるわけだ。

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