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全ては推しと共に(「推し、燃ゆ」・宇佐美りん)

21歳が書く「推し、燃ゆ」。なんで芥川賞を受賞したのだろうかと思っていたが、ようやく読んでみた。

“推し”という言葉が一般化されたのはいつ頃だろう。

推し(おし)とは、主にアイドルや俳優について用いられる日本語俗語であり、人に薦めたいと思うほどに好感を持っている人物のことをいう

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推し(おし)とは、特定の人物やキャラクター、作品、商品などに対して、熱心な支持や愛情を示す行為やその対象を指す言葉である。推しの語源は、「推す」(おす)という動詞から派生し、主に若者を中心に広まったインターネット用語である。推しは、アイドルや俳優、声優、アーティスト、アニメキャラクター、漫画、ゲーム、映画、テレビ番組など、幅広い分野において使用される。

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主人公の女子高生が推しているアイドルがファンを殴ってしまう。
そしてネットが炎上するところから始まるが、最終的に「推し、燃ゆ」とは違った意味で完結する。

学校生活は勉強も人間関係もうまくいかない。家庭の人間関係もあまりよくない。しかし、生活は「推し」がの中で充満している。起きてから寝るまで。バイトでお金を稼ぐのも「推し」のCD、ライブ、グッズなどの為。

僕自身、年齢がかけ離れていてこのような人と触れ合う機会は無いが、まんざら理解ができないでもない。

自身思い返せば、20代の特に中盤だろうか。あるアーティスト(ミュージシャン)のファンになり、CDなどの楽曲、ビデオ、レーザーディスク(当時はまだDVDが無かった)を買い集め、毎月ファンクラブの会報を楽しみにし、ライブツアーがあれば出かけて行っていた頃のことが思い起こされた。

この本の主人公のように「推し」の為に生きているということは無かったと思うが、「推し」の言動、思考や思想に傾倒する自分がいて、生きる糧のようになっていたように思う。

この本では哲学的なことはほとんど書かれていない、ただ淡々と世間では上手く生きていけない女性の「推し」が中心としての生活が書かれているのだが、好評を得ているのはその文章ではないだろうか。

チャイムの音に揺り動かされた意識が、まず首の後ろの冷えを認識し、いつの間にかかいている汗を認識した。

頭のなかが黒く、赤く、わけのわからない怒りのような色に染まった。なんで?と口の中にぶつけるみたいに小さく声に出すと、たちどころにそれは、加速し、熱を持つ。

四方を囲むトイレの壁が、あわただしい外の世界からあたしを切り取っている。先ほどの興奮で痙攣するように蠢いていた内臓がひとつずつ凍りついていき、背骨にまでそれが浸透してくると、やめてくれ、と思った。

表現する言葉はとにかく豊かで独特で、他の作品も読んでみたいと思った。

生きる理由が見つからないなどという人が多い現代。「推し活」なる言葉もあり、「推し」を糧に生きることもそれが生きる理由になるならば良いとは思う。

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