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ふふふ生活記録 ①

今回は、筆者が「ふふふ」と思ってしまったさまざまな瞬間の記録をお届けします。

4月12日(金)
山手線で座って居眠りをしていた。ふと目が覚めたら新宿だった。車内は仕事を終えた人たちでごった返し、ぎゅうぎゅうの缶詰状態だった。すぐ前の「疲れきってます」という張り紙をつけて立っているOLのお姉さんのことを思って、目を閉じてまた眠ろうとしていたら、電話をかける男の話の中身が気になって、そうもいかなくなった。「すみません、予約の○○ですけど。電車が止まってしまってですねえ」と男。「ええ、動くにも動けないので、別の日に変更とかってできたりしますか?」淡々と言う。「あ、できない。そつかー、分かりました、じゃあ、しょうがないですね。はい、はい、どうもー」この人は一人、電車でショーでもやってるのか?と言いたくなったが、それは堪えて瞼を閉じた。嘘をつくことは誰でもあることだけど。早急にしなきゃいけない電話であるのは分かるけれど。いや、満員電車でそれする?嘘ついてるの、あなたを囲んでるそこの全員は見てるんですが。悪いことをしてないと証明するものはアリバイと言うけど、悪いことをしていると証明するものはなんと言うのだろう?ナシバイ?いや、アリバイのアリは有り無しのアリじゃないだろう。分からないけど。とにかく、私たち、こいつが嘘つきって証明できます!てか、しょうがないですねって返しはなんだよ。彼だけには聞こえることのない車両の中の人たちのツッコミが、私の脳内には響き渡っていた。

4月14日(日)
アルバイトがはじまった。勤務先は、家から自転車で行ける距離のところにある、小さな立ち飲みバーである。初っ端から変わったかんじの男女のお客さんが入ってきた。「はい、これ差し入れ!」ラップに包まれた炊き込みご飯のおにぎりを渡された。彼は実は店のお偉いさんだった。チェーンの別の店舗でうどん屋をやっているらしい。うどん屋なのにおにぎり?心の中で突っ込んだ。隣のお姉さんはそのうどん屋の社員らしい。「16時になったら店戻るわー」と言っていたが、結局16時すぎまでそこにいて、ワイン2杯と瓶ビールを飲んでいった。これが通常スタイルなのか知らないけれど、日本とは思えない働き方だ、と思った。お偉いさんはものの数分で瓶を空にして、「じゃ、今日からよろしくね!楽しんで!」と言って店を去った。楽しんで!と言ってくれるの、いいなあと思った。その後、数々の個性的な常連さんたちと出会うことになるのだが、楽しんで!なんて言われなくとも、楽しくなっちゃう仕事だった。おしゃべりで酒好きな私にはもってこいだった。ちょっとめんどくさめな絡み方をするおじさんたちの取り扱い方はもう少し特訓する必要がありそうだけど。

4月15日(月)
大学にいった。一年ぶりの大学、それに、対面の授業はほぼ初心者なので、なんだか本当に入学したての新一年生のきぶんである。きょうは、シラバスを見た感じ、眠くなりそうだな、でもこれは学んでみたいなと思って、受けるか迷っていた授業の初回だった。内容の堅苦しさのわりに生徒の数がかなり多くてまず驚いた。それにみんなの聞く態度も良くて、また驚いた。うちの学部の大学生ってけっこう意欲があるんだって、入学して三年目にして知った事実だった(この授業を取るくらいだからそういう人が集まっていたのかもしれないけど)。内容的にも時間的にも一番昼寝しちゃいそうな授業なのに、みんな真剣で、うんうんと頷く人たちの頭にうれしくなった。私もいつも以上に話をよく聞いたし、メモをとった。隣に座っていた男の子は最初の方こそ、つまらなそうにスマホをいじったり、時々首を垂らしたりしていたけど、どこかのタイミングから前のめりになって教授の話を聞くようになった。私の姿を見て影響を受けたのだろうか。教室の伝播する空気。いいものだった。

4月16日(火)
火曜日は全休の日なのだけど、就職セミナーとやらが18時からあるというので、それのためだけに大学に行った。家で夜ご飯を食べるとすると16時過ぎには支度を始めなければならないようだったので、それはやめて、セミナー終わりに大学近くの居酒屋を散策して一杯飲んで帰るという方向に固めることにした。大学にこんなに遅い時間までいることはこれまでなかったので赤提灯の店が並ぶような夜の街の顔を見られるのは新鮮だった。ふらり、と入ってみる面白さはそれはそれであるのだろうけどビビりな私は、店の下調べを欠かさない。駅の近くの評価3.5以上の良さげな店に目星をつけていた。そのうちの一人で入りやすそうなカウンターがある店の戸をあけて入った。お客さんはみんなおひとり様で、暗黙の了解といった感じにカウンターにふたつ置きくらいで椅子を開けて座るようになっていた。テレビを見ながらあーだこーだ言ったりできる居酒屋だった。出川哲朗は還暦を迎えたのだと二つ隣のおじさんが教えてくれた。店は創業57年だった。その辺りに住んでいるという友人に声をかけ、一人飲みは中断して、酒を飲みながらさいきんの不安なことについて二人で話したりした。日本酒を何杯か飲み、有り余る鬱憤を吐き出しあって、いい時間を過ごした。さてと、そろそろお会計でも、というところで友人が財布を持っていないことに気づいた。近所に住んでいてくれて助かった。すみません、現代っ子なもので。なんて言い訳をしながら、財布を取りに行った彼女を待った。案外酔っていたみたいで、うまく自分の最寄り駅で降りることができず、同じ電車にもう一度乗ったりしながら家路についた。

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