見出し画像

てへぺろ街道~連載(1)砂漠の水族館~

 砂漠を行くと、ぽつんぽつんと、小さな建物が所々に立っている。砂造りのような簡素な建物。
 ただ小さな窓がぽかんと上の方に空いていて、入口がなかったり、ある建物は窓すらもなかったり。
 人もいたりいなかったり。
 通り過ぎた建物が地平の向こうに見えなくなる頃合に、また次の建物の姿が行く手の地平に見えてくる。

「てへぺろ様。ねえこの方向で合っているの」
「うん。建物の見える方向に進みなさい。この辺一帯が砂漠の集落になっているのじゃが、道を外れると、戻れなくなる。魔物や乞食の巣窟に迷い込むかもしれない。気を付けるようにな」
「はい。……」

 にゃー。「そうそう」と頷くように、猫も鳴いた。
 この猫は砂漠に入る前の町で雇った"ガイド"なのだが(わたしにすり寄って自分を雇えとガイドを申し出てきた)、ずっとわたしの後ろを付いてくるばかりの役立たずのようだ。わたしは仕方なく、先を歩く。何かあった時は、役に立つかもしれないので一応付いてこさせておく。今のとここの猫がやったことは、干し肉と水とを一回ずつ所望したことだけだ。言葉も片言だが、砂漠の猫なら仕方あるまい。


 不思議な、建物の中に水を湛えた、建物自体が大きな水槽というような、あるいは小さな屋外水族館とでもいうような建物があった。
 魚も泳いでいる。机や椅子もある。少し、休んでいってもいいかと思ったが、てへぺろ様が、日が暮れる、と言った。こんな場所なら野宿だっておつなんじゃない? と返したが、てへぺろ様は屋内で休める宿にありつきたいらしかった。

「こういう水族館(?)なら、この先でも見れるよ」
「そうなの?」

 猫のガイドにも聞いてみると、「み みれる……」と片言で言って、「たたぶん」と付け加えた。また水が欲しいと言ってきたが(てへぺろ様に定期的に水分補充しないといけないのでわたしもちょっとがまんしてるんだ)、宿についたらそこの水を飲むといいと言っておいた。


 嵐が来る……
 嵐が来る……

 誰かが呟いている。

 空は、青く晴れて雲が空の高くを飛んでいく。からっと乾いた空気に、ときどき東の方からだろうか、気持ちのいい風が流れて頬をさすっていく。


 嵐が来る
 嵐が来る
 ……


「てへぺろ様。行こう。……」

完成_1280_1049

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?