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君の名前で僕の名前を呼んで

Call Me by Your Name.

3月から自宅勤務で、隙間時間を料理や断捨離などに費やしてきたが、そのほかにも今まで後回しにしていた気になる映画作品を見ることができた。

今日ご紹介する映画『君の名前で僕の名前を呼んで』は性への目覚めと自我。価値観や人生観についてまで考えさせられる秀逸の作品だと思う。

イタリアのある村でバカンスをする両親とともに主人公のエリオ17歳(ティモシー・シャルメ)のひと夏の恋の物語。父は教授で博士課程の論文執筆中のアメリカの青年オリバーがやってきて家族とともに暮らす。

戸惑いながらも徐々にオリバーとエリオは惹かれあい、切ない恋が情熱的に発展した。その関係もオリバーの帰国とともに終わりを告げることを二人は惜しむかのように、残された日々を過ごす。もう二度と会うことはないのではないかと予感させられる二人の別れのシーンは、胸が締め付けられた。

17歳のエリオにとっては、初恋、自分の性に真正面から向き合って、葛藤しながらも、オリバーを愛する気持ちを止められない。それゆえ、オリバーの帰国で受けた、エリオが想像だにしていなかったとてつもない喪失感は、絶望と言っていいだろう。

この映画の素晴らしさは、両親ともども、息子が初恋で経験する自らの性と自我みたいなものへの気づき、喜びや苦痛、喪失感など、人を愛することで初めて知る孤独をありのまま、やさしく受け止めるところだ。そして、この痛みは避けては通れないし、忘れても忘れることはできない。時とともにその悲しみが消えるのを待つしかないのだと諭す。

北イタリアの美しい自然が、映画全体に流れるゆったりとした空気感を醸し出し、多様な価値観を包み込む。そして、なぜかやさしい気持ちになれる。

鑑賞した後に、こちらの作品はかのジェームズ・アイボリーが脚本を担当していることが分かった。ジェームズ・アイボリーは『眺めのいい部屋』『日の名残り』『モーリス』『ハワーズ・エンド』など日本でもおなじみの作品を監督したため、ご存じの方も多いのではないかと思う。イギリスの美しいシーンを背景に、心の機微を丁寧かつ繊細に描いている。この映画『君の名前で僕の名前を呼んで』にもそのジェームズ・アイボリーの真骨頂が脈々と続いている。

映画のラストは冬の休暇で家族がまたイタリアの別荘で過ごす平和な時間。オリバーからの連絡を何よりも心待ちにしていたエリオのもとに一本の電話がかかってきた。そして、オリバーがある女性と結婚することになったと伝えるのだった。電話がかかってきて久しぶりに話すことができた喜びも束の間、エリオを絶望の淵に突き落とすこのシーンは残酷だ。無垢で純真、無防備なまでのむき出しの恋心を完膚なきまでに打ち砕く。エリオは青いまま枯れてしまったかのように打ちひしがれ、そしてそれを静かに受け止める父の深い愛情。

映画を見終わったあと2週間以上になるが、このラストシーンが頭から離れない。

同性愛者だろうとなかろうと、人が人を好きになることに何の壁があるのだろうかと、ここ数年強く思うようになった。

世界には77億人の人がいるのだそうだ。日本は一億三千万人。

こんなにも人にあふれている地球の中で、誰かが誰かを好きになるということは、それ自体すでに私には奇跡だ。それゆえ、その奇跡の二人は祝福されて当然だと思う。

ティモシー・シャルメは17歳の悩める高校生役で本映画に出演しているが、最近彼の大人びた写真を目にすると、美しさが、さらに洗練され、素敵な俳優になっている。彼の益々の活躍を期待してやまない。

ぜひ、このゆったりと流れる時間とともに、戸惑うことなく、息子と向き合う成熟した両親の深い愛情を見てほしい。

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