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世界遺産より一瞬の美を求めて

旅は好きなのですが、世界遺産の楽しみ方がいまひとつ分かりません。
たぶん高校で「世界史」をサボってしまったからでしょうか。

ノートルダム大聖堂ではすごく人が多くて入場を諦め、ペルセポリスでは遺跡よりも、砂漠でたくましく生きるヤモリに感動し追いかけていました。

バングラデッシュからインド・コルカタに入り、鉄道でひたすら西へ向かいましたが、タージ・マハルも華麗にスルーです。

インドの電車は戦いです。

順番抜かしは当たり前。
窓口の小さな穴に競い合うように手を突っ込み、お金を駅員が受けとってくれた人から切符を買えます。

まるで、人気のスポーツ選手にサインをねだるファンのようです。

「Would you (ちょっとすみませんが)・・・」
なんていうお行儀の良さでは、永遠に(本当に永遠に!)買えません。
「おいコラ、順番ぬかすな!Waitや!Wait!」
と関西弁で言ったほうが伝わりますし、解決します。

「気持ちを伝える」ことにかけて、
関西弁は世界に通用するユニバーサルな言語かもしれません。

インド人はお金にも抜け目がありません。
どんな理不尽な理由でも、スキあらば儲けようとします。

タクシーで事前に地図を見せ「知ってる。任せておけ」と言ったにも関わらず、迷いまくった挙句、
「迷ったから追加で200ルピー払え!」
と言い出し、ケンカになったことは1度や2度ではありません。

頼んでもないガイドを勝手に始める人もいます。
「ガイド?いりません」と断るも、
「これはビジネスではない。俺のカルマなんだ。だから、協力してくれ。」
とアクロバティックな説得をしてきます。

これで営業がうまくいくなら、僕も使いたいです。
みなさん、もし僕から仕事のお願いをする場合は強力して下さい。

カルマなので。

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人間の海にもまれ、疲れ果てた僕はジョドプルという小さな街にたどり着きました。
1泊400円の宿屋の娘 ジーヤ & ディーヤ姉妹とラッシーを飲みながら世間話をしていると、どこからともなく音楽が聞こえてきます。

爆音です。
街のどこにいても聞こえる程の大音量です。
東京都北区なら役所に苦情電話が殺到します。苦情が集まり自粛された「除夜の鐘」どころの騒ぎではありません。

姉妹に聞くと、どこかの家で結婚式が行われているらしいのです。夜には小さな打ち上げ花火まであがります。

しばらく3人で音楽を聴いてると、妹のディーヤが音楽にあわせて揺れ始め、ついには立ち上がりステップを踏み始めます。

派手ではないけれど、独特なリズムで揺れ、舞うディーヤ。気怠そうにラッシーを飲んでいた時とは表情もちがいます。

小さな宿屋の屋上で、突然始まった世界で一番小さなダンスショー。そのえも言われぬ美しさに僕はただ見惚れていました。

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ふと、思います。ここに来て良かった、と。
ぼったくられたり、切符争奪戦でヘトヘトになりつつも、わざわざ旅する理由ってこういうことな気がします。

たまたま居合わせた街の結婚式。
音楽で結婚の喜びを街中に伝える、街の習慣。
聞こえてきた音楽に自然に体が動く、少女のからだに染みついた踊り。

タージ・マハルができる前から、この大地に生きる人が連綿と紡いできた「暮らしのリズム」に触れた気がしました。

普段は見えないけれど、ふとした瞬間に立ち現れる、はっとするような美しさ。世界遺産に負けない、ささやかで美しい一瞬を見たくて今日も切符の争奪戦へ向かいます。

これは僕の、カルマなので。

ってか、「カルマ」ってなんなんでしょうか。
この言葉の、意味もなく使ってみたくなる力、すごいですよね。

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