『もう一度だけ、夢を見てもいいって言って。』

同じ頑張るでも、
漠然としたものにただ時間を費やすのと、
目標に向かって時間を効率的に使うのでは、全く違う。

私の夢は研究者になることだった。
だから大学から修士課程、博士課程に進んだ。
研究のためなら、不慣れな土地でも目的地に着けるし、
見たこともない巨大な駅でも乗り換えが出来た。
研究のためなら、寝食さえ本当に忘れて、何でも出来ると思っていた。
がむしゃらに、言われることを全てこなしていった。
平日は自分の研究に追われ、土日祝日は会議や学会などで移動。

それでも、楽しかった。

好きなことを、好きなだけやれる!
何て素晴らしいんだ!
本気でそう思っていた。

しかし夏、私は倒れ、救急搬送され、緊急入院した。
内科的なことは不明。
精神科の閉鎖病棟に入院し、統合失調症と診断され、障害者となる。

退院した私は、文字の読み書きができなくなっていた。
他人が全て恐怖の対象になっていた。

研究者の道は、諦めるしかなかった。

至らなかったから、至れなかった。

誰かのせいにした時もある。
病気を恨んだこともある。
死にたくなった時もある。
けれど、所詮、私の甘えと、傲慢と、無計画さと、努力のはき違え。
畢竟、私はどうしようもなくバカで愚かだったということ。

それでも、今も研究用の書籍を読み漁っている。
そして、今は小説を書いている。
何年かかけて、文字の読み書きができるようになったのだ。
苦手なことは、まだまだ多いけれど。
統合失調症は一生治らないけれど。

今の夢は小説で仕事が貰えるようになること。
一度読み書きができなくなったから、稚拙なものしか書けない。
唯一の武器だった若さも、もうない。

それでも夢をもう一度持つことが許されるならば、
私は作家になりたい。

だから、お願いだ。
誰か私に、もう一度夢を見ても良いと言って。

                              〈了〉

#かなえたい夢

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