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Step 1-2:注意について知る|実行ネットワーク

1. 好きなことだと集中できるという状態について

集中力に関するご相談を受けていると、必ずと言っていいほど「好きなことだと集中できるのに、嫌なことは集中できない」という内容をお聞きします。このことは、ADHDであってもなくても、ほぼ全ての人が自覚していることです。「仕事も楽しければ、どれだけでも頑張れるのに・・」と愚痴をこぼしてしまうこともあるかもしれませんが、楽しくない仕事もあることも全ての人が分かっています。それでも、仕事に集中して働ける人は、どんな注意の特徴をもっているのでしょうか。この「やる気」とも思われる集中力の状態は、Step1-1の覚醒ネットワークからも部分的には説明できますが、「実行ネットワーク」という注意の特徴を付け加えることで、より説得力のある説明ができます。たとえば、注意の覚醒が強いだけだと、仕事ではなく別のことに熱心になってしまうことがあったり、他の事に気が逸れやすくなってしまうことも生じるからです。

2. 意図的な注意と自動的な注意

注意の実行ネットワークとは、平たく言えば「コントロール」ができるかどうかということです。たとえば、この文章を読んでいる時に外から爆音が聞こえたら、咄嗟とっさにその方向を見ると思います。その時は「外から聞きなれない大きなことが聞こえてきたな・・・よし!そっちの方に意識を向けてみよう」なんて悠長ゆうちょうな反応はしないと思います。危険に関するような刺激(ここでは爆音)対しては自動的に反応するようなシステムが人間(動物)の脳には備わっています。他にも自動的な反応はあります。たとえば、自分の名前がどこかで呼ばれた時も自然に耳に入ってくると思います。自分の興味や関心があるものについても同様に注意が自動的に反応します。この興味関心というのは、「好き」なものだけではなく、「嫌い」なものも含みます。ですから、虫嫌いな人は、誰よりも早く自動的に虫を見つけてしまいます。このような自動的な注意が一旦活性化すると、なかなか別のことに意識(注意)が移せなくなってしまいます(注意が引きがせない状態は「注意の固着」とも言われます)。また、このような自動的な注意の状態が続いている時は、意識しない状態の注意が持続していることが多くあります(たとえば、悩み事を考えている時など)。

注意の実行ネットワークの「意図的な注意」は、自動的な注意とは反対の働きをしています。つまり、注意を向けるべきものに向けるという意識的な働きであり、自分で注意をコントロールできている状態とも言えます。したがって、好きなものだけではなく、苦手なものにも意図的に注意を向け|続け《・・》たり、向けるべきものに注意を移すことを可能にします。ADHDの人は、この意図的な注意のコントロール感が弱いため、自動的な注意によって作業を続ける状態になりがちです。注意をコントロールできないということは、適切に作業を中断(休憩)できないことにもつながりますので、過集中によって疲労がドッと押し寄せてくる状態にもなってしまいます。では、意図的な注意をどうやったら強くできるかといえば、注意のトレーニングをすれば強くできます!

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3. 意図的な注意を強くする準備とトレーニング

自動的な注意は誰にでも備わっています。反対に、自動的な注意が強すぎると「危険信号」を検出しやすい状態でもあるので、落ち着かないかもしれません。自動的な注意が強過ぎる場合は弱くすることも大切な視点ですが、別の方法もお勧めすることができます。それは、意図的な注意を強めることです。意図的な注意は筋トレのようなもので、毎日少しずつ段階的に鍛えていくことで必ず身になっていきます

まず、第一段階として大切なのは、「自動的な注意の状態に気づく」ということです。冒頭で説明したように、自動的な注意は知らないうちに注意を向け続ける傾向がありますので、「あ!自動的になっていた!!」と気づくことで、自動処理は一旦中断されます。それでも、気になることやモノには再び自動的に注意が向いてしまうかもしれませんが、そんな時こそ、「向けるべきモノ」に注意を向けようとする意識をもつことが大切になります。「そんなこと言われても、急にはできないかも・・と思うと思いますし、私を含め多くの挑戦者が最初は挫折をします。そこで、日常的なトレーニング方法として考案されたのが「マインドフルネス・エクササイズ」です。マインドフルネスのエクササイズは多種多様ですが、注意に関連するエクササイズに共通しているのは、注意が逸れたことに気づく、注意を元に戻すという単純なルールにそって行います。

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このシリーズ「大人のADHDのマインドフルネス」でも、多くのエクササイズを紹介したいと思っていますが、もう少しだけ「注意について知る」にお付き合いください。正確な注意の知識を獲得しているといないとでは、エクササイズの効果は異なりますので、じっくりと理解していただければと思います。

□どんな作業や状況で自動的な注意になりやすいか考えてみましょう。
□自動的な注意の状態に気づけるように心がけましょう。
□自動的な注意に気づくことができた時は、批判的にならないで改善の第一歩だと思いましょう。。
□覚醒が弱いと自動的な注意が働きやすいことを意識しましょう。

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