森田療法

No.7|臨床心理|森田療法の「あるがまま」とマインドフルネス

森田療法をご存知ですか?

森田療法は、森田正馬が1919年に開発した治療法です。森田療法を適用した治療は現在も行われ、不安症などに有効であることが確かめられています。日本人が開発した治療法ということでは、最も著名な治療者と治療法だと言えます。国際学会に参加すると、森田療法のことを海外の研究者から聞かれたり、コメントを求められることが度々ありました。恥ずかしい話なのですが、私が大学院生の時は、認知行動療法を学ぶことで精一杯で、森田療法については全く理解をしていませんでしたので、大した情報提供もコメントもできていませんでした。今は「第3世代認知行動療法」とよばれる治療法群の共通性について研究することが多いのですが、それらの研究をきっかけに、森田療法の素晴らしさを再確認できるようになました。

ところで、森田先生はどのように治療法を開発したのかというと、ご自身の体験がもとになっているいるようです。森田先生はご自身が神経症で苦しんでおり、なかなか治らない状態に「生きようとすることをやめて、薬も飲まない。なるようになる!」と考えて生活した結果、神経症(不安症)が治ったとのことです。一見すると、自暴自棄な考えと行動のように思いますが、この経験が森田療法の原型になっているようです。

森田療法では、自分の症状を過度に気にする性格特性を「ヒポコンドリー性基調」と名付けています。そのような性格の人は、自分の症状(感情・感覚・思考)に過度に集中するので、それらの症状がさらに鋭敏に感じられるようになります。そうなると余計に症状が気になり鋭敏になります。このように悪循環することを「精神交互作用」と呼び、症状メカニズムの中核的な土台としています。

森田療法では、この精神交互作用を断ち切るために、症状を取り払おうとすることにエネルギーを使わない「あるがまま」であることを重視し、やりたいと思うことや必要だと思うことを冷静に実行する「目的本位」な生活をすることを目的としています(自分の気分に左右されて行動することを「気分本位」といいます)。ポイントは、感情や思考をコントロールすることを目的としていない点が特徴です。

マインドフルネスと森田療法

私の専門としている治療技法は「メタ認知療法」という第3世代認知行動療法と呼ばれる治療法の1つです。この第3世代認知行動療法と呼ばれているものの多くには「マインドフルネス」の考え方が共通して見られます。私の記事には、マインドフルネスという概念がたびたび出てきますが、「今ここに集中する」「あるがままに受容する」「客観的な観察的態度」などがマインドフルネス の主要な要素になります。この3要素を森田療法の精神交互作用の観点から見てみると、「あるがまま」と類似する概念で在ることがわかります。

「あるがまま」は「being」と英語では表記できるようです(being そのものは「存在すること(あること)」と訳します)。マインドフルネスでは心の状態を「することモード(Doing mode)」「あることモード(Being mode)」という2つのモードに分けています。「することモード」は何かを達成しよとする心のモードであり、それ自体は悪いことではありませんが、目標が達成できないような困難な状況になると、自分を傷つけるようなモードにもなってしまいます。「どうしたらこの嫌な気分を解消できるんだろう」や「こんなことに何故なったかを考えよう」と「することモード」が活性化してしまいます。そんな時に必要な心の状態は「あることモード」になります。つまり、「評価や判断をしないで、あるがままに受け入れるて、そのままにしておく」ということです。「自分は情けない」や「失敗してしまった」と評価や判断しないで、今の自分の経験として受け入れるだけです。この「あることモード」は森田療法の「あるがまま」と考え方が非常に類似しています。

【本日のポイント】

森田療法の「あるがまま」はマインドフルネスとの共通点があります。マインドフルネスの「することモード」から「あることモード」に変化するプロセスは、森田療法の「気分本位」から「目的本位」に変化するプロセスと類似している。

「あるがまま」と響きが似ていることばに「わがまま」があります。『私が思っていることを思ったまましたい』という気持ちは「あるがまま」でしょうか? 一見すると、そう見えるかもしれません。やりたいと思うことや必要だと思うことを実行する「目的本位」にも通じる考えのようにも見えますが、この気持ちがBeing Mode なのか、それとも Doing mode であるかどうかを考えるとわかりやすいかもしれません。

マインドフルネスや森田療法の観点から human being(人間)という単語を眺めてみると、もう1つの意味が見えてきて、奥深さを感じます。

心理学の知識を楽しくご紹介できるように、コツコツと記事を積み上げられるように継続的にしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。