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あの日どんな風に寄り添えたら、今でもあなたはここに


失恋は思ったよりも苦しかった




彼がこの部屋を出ていってから
一睡もできないまま
遂に3度目の朝を迎えた

灰色だった窓の外は
また朝日が登り始めて
私の腫れた目を照らす

ひどく開けにくくなった目を
冷やそうと冷凍庫を開けると
彼が買ってきてくれた
私の好きなアイスが
置きっぱなしになっていた

そのアイスを手に取ってみると
「今日もお疲れさん!食べてね!」
と付箋が貼られていた

こんな時になって
気づくなんて本当に馬鹿だな…と
また溢れ出しそうになる涙を止めるように
天井を見上げた

彼と私はお互い一人ぼっちという
言葉が似合うような環境にいた

私は音楽を目指すために
高校を卒業して
知り合いが誰もいない東京に上京してきた

彼は家庭環境が複雑で
たった一人で大学に通いながら
働き詰めの生活を送っている人だった

そんな彼と仲良くなり
私達は付き合うことになった

人の前では過去の話も一切することなく
いつも明るい彼だったから
彼の生い立ちを聞いた時
私はとても驚いた

いつも働いてばかりの彼を
時々、疑問に思っていたけれど
彼はずっと自分の生活を守るために
遊びもせず仕事を詰め込んでいた

「頼る人もいなくて、不安だったけど人生何とかなるもんだね〜!」

と自分の苦しかった過去を
笑いながら話す彼に
私は必死に溢れる涙を堪えていた

そんな私を見てからかっていた彼も
つられて涙が溢れ出していく

お互いの泣き顔を見て
笑って泣いてを繰り返したあの日から
私達は喜怒哀楽を
素直に見せ合えるようになっていった


そんな彼との日々を思い出しながら
私はアイスに貼られた付箋を剥がした

気付くのが遅くなってごめんね
と彼の字を見つめながら
心の中で何度も呟いた


彼のことを忘れる準備をした


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ベッドを見れば寝起きの彼を思い出して
棚を見れば2人で買った
お気に入りのサボテンが置いてあって
ベランダを見れば彼と流星群を必死に探した日を思い出す

どこにいても、何を見ても
彼との思い出で溢れかえるこの部屋に
いることが苦しくなった私は
眠れない夜が続き
食欲さえもなくなっていった

ある日、このままじゃいけないと思った私は
彼との思い出の品が目に入らないように
1つずつ段ボールに仕舞うことにした

寝不足の目を擦りながら
冷蔵庫の横に置いてあった
段ボールを取り出して
壁に掛けられたコルクボードを見上げた

彼との思い出が沢山
貼ってあるコルクボードに
ふぅっと大きく深呼吸をしながら
手を伸ばした

並べられた写真を1つ1つ剥がしていく
2人の写真が飾れたコルクボードの
はずだったけれど
剥がされていくのは
彼が撮った私の笑顔ばかりで
2人が映った写真は1枚しか無かった

思い返せば彼と一緒に作っていこう
と買ってきたこのコルクボードも
いつも間にか写真を追加していくのは
彼だけになっていた

彼を失ってから気付く
自分の不甲斐なさに
胸の奥が痛くなる

穴だらけになったコルクボードと
笑顔で映る写真達を
段ボールに詰めていく

「本当にありがとう、ごめんね」
と、もう伝えることのできない言葉を呟いて
段ボールに仕舞い込んだ



さよなら、アパートの一室とあの日の自分


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上京してから4度目の春を迎え
私はこの家を引っ越すことになった

ベランダから暖かい春風が舞い込んで
積み重なった段ボールの間をすり抜けていく

「本当に引っ越せて良かったね〜。これで私達も少しは家が近くなるね!」

手伝いに来てくれた友達が
私よりも引っ越しを喜びながら
荷物を運んでくれていた

少なくなっていく段ボールを
見ながら私も新しく始まる暮らしに
胸を躍らせていた

「ねぇ!待って!!すごい段ボール発見してしまったんだけど!!」

驚いた声をあげた友達の方に駆け寄ると
ガムテープが頑丈に貼られた上に
大きく「✖️」と書かれた段ボールが
置いてあった

「あぁ、これの事か。」

忘れていた彼のことを久しぶりに思い出す

その段ボールは
私が彼との失恋から立ち直るために
思い出の品を捨てようと
詰め込んだものだった

驚かない私を友達は不思議そうに
見つめてきた

「これね、前に付き合ってた人との思い出の品を捨てようと思って詰め込んだの。失恋から立ち直るのにあの時は必死だったよ〜(笑)ずっと放置してたけど、もう要らないから捨てようか。」

そう言う私に友達は
「何だかそう言うの懐かしいよね〜!」
と笑いながら断捨離に付き合ってくれた

2人で段ボールを開けて
どんどん中身を捨てていく

あの時は、この段ボールを開けれる日が
来ないかもしれないと本気で思っていた

一気に空になった段ボールを見て
自分でも少しびっくりしてしまった

絶対に泣いてしまうと
思っていたけれど案外あっさりと
全てが片付いてしまった

失恋は時間が解決してくれる
と言う言葉は本当なんだなと
少し優しい気持ちで彼との思い出に
手を振ることができた

それから空っぽになった部屋を
振り返って、私はお辞儀をした

「本当に沢山の思い出をくれてありがとうございました」

そう心で呟いて新しい家へと車を走らせた




「アパートの一室で」

上京してきてからお世話になった部屋
6畳1間の狭いアパートは私にとって
色んな思い出が詰まった忘れられない場所の一つです。

特に印象に残っていたのが、彼との失恋でした。

初めての一人暮らしで失恋した時は
本当に辛かったな
とあの部屋をふと思い出す時があります。

狭い部屋で一人、失恋を乗り越えようと
頑張っていた時に描いた楽曲です。

きっと皆さんも恋が終わるたびに
心が苦しくなる経験したことがあると思います。

その時を思い出しながら
聴いて下さい。


・各種配信サイトへ

・3rd mini album「いまさら、君に」


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saki(secondrate)

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secondrateというバンドで歌をうたってます。 ここでは歌の元となったエッセイを公開中。 あなたの心に残りますように