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20.遭難(米川さんの絵本)

悲しい出来事がはじまった。
急がなければ。
知り合いの男性が雪崩に巻き込まれた。

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解説

昨夜泊まった知人が天狗岳に向かったが雪庇(せっぴ)を踏み外して雪崩(なだれ)に巻き込まれた。

雪庇とは、風下側に形成される吹き溜まり。稜線上の風下側に雪が大きく張り出す事。
雪崩とは、斜面に積もった雪が重力の作用により斜面を早い速度で移動する現象。

冬のその日は、夜になると風雪は強くなるばかりだった。
一時間立つか立たないうちに入口の戸を激しく叩かれ、雪の塊のように真っ白になった人が飛び込んできた。
「ひとり、動けなくなっています。助けて下さい」と言うが早いかその場にその人は倒れてしまった。
直ぐにその人の雪を私達は払い落としたが、全身ぐっしょり濡れていた。
着替えさせてよく見ると、今日午前中に元気よく「行って来ます」と言って出発して行った2人連れだった。
救助を求めてきたその人から、およその位置、救助される人の名前、住所を聞く。まだ若い学生のようだ。
「出れる人は直ぐに準備して直ぐ出発だ」動ける者たちで救助に向かった。
外の風は強いし霙だ。なかなか山中を進むことができないなか、一時間も歩いただろうか、やっと先発隊が救助を求める人の居る場所に着いた。
大声で皆が名を叫ぶ。大声を出して暗闇のなかあたりを探してみる。
するとハイマツの中から動く気配がし、先頭の救助メンバーから「いたぞー」の声がした。
「おおいー!大丈夫かー!」
若者は「助けに来てくれてたのですか、有難う」と震え声で言った。
雪と風が強いため若者を着替えをさせることができず、何枚か毛布を着せていると、寒がっていた若者が「暑い暑い」と脱いでしまう。
「お父さん、お母さん、有難う」と言いながら。
「こいつは気が狂いだしたぞー! スグ下すぞー」
救助する私達も必死になるなか、彼は続ける。
「お母さんー、暑いよー」
「お母さんー、ごめんなさい」
私達も必死だ。
「完全におかしい、早く降ろさなけば、急げー」
「早くお母さんに会わせなければ」

しかし、天気はさらに悪化して、救助は進まなかった。
そして彼は
「お母さん、お母さん!」と叫びながら息を引き取った。

追記

saitou:どうして吹雪のなかいっちゃうんですか?
米川正利:急変するから、大丈夫と思っていくのですね、そしてひきかえすんだけれど、それより遅かったということです。
saitou:ヘリコプターは昔も遭難があるととんだのですか?
米川正利:それは捜索というより、事故が起きてから飛んだというタイミングで。
小屋に時間になっても来ないとか、救助を求めて小屋に来たり、山小屋の人達は、依頼があれば探しますし、上から探すというのもありますね。
ただ、その人がもうそこに居るとなったら、救助なのか遺体収容となるか。
救助となればすごく良いわけですが。遺体となるとどうしても私達ではなくなってしまいます。
みんな、危ないぞっていうふうには、急変する時は思わないんです。
事故になる人達は、予想などしない。
なんでこんな天気の悪い時に、なんででという意識はありますね。
なぜいったんだろう、ひきとめればよかった、とか。
なんであんな時にでていったんだろうという思いもあります。
saitou:思い出に残っている救助とかありますか?
米川正利:いっぱいありますね。無線でもきますし、仲間がどこどこにいるけれどと。
だいたい夜なんですよね。そのまま出てかなきゃいけない。酒を飲んでいても気が張って、普通に探しにでていく。
遭難する人達って、知らないで行くから、事故にあう。
切羽詰まってどうにもなくなって、仲間が動けなくなったりしてとか。
八ヶ岳は初心者も登りやすい山なので事故も多いんですよ。
saitou:登山する皆さんへあたっての心構えもせっかくですので掲載したいと思うのですが。
米川正利:わかりました。「忘れえぬ人」のところで「山を楽しむ」として、書いてみますね。

初稿時は具体的な解説はお聞きしませんでした。
しかし上記のような話のなかで、書ける範囲で今回の遭難のお話を教えていただけますか?とお聞きしたところ、たくさん書いてお話いただきました。
お話は次回以降に紹介する「山を楽しむ」、「忘れえぬ人」に続けます。

おはなし絵:Yonekawa Masatoshi
共著:Yonekawa Keiko , Saitou

※この記事は米川さんの絵本proofreadマガジンに掲載中です



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