助成金依存の団体が順調に成長している例はほとんど存在しない現実~令和 4 年度 NGO 研究会報告書「日本の国際協力 NGO の資金調達リデザイン化と財務内容の強化」から学ぶ~
2023年4月11日にNGO研究会報告書「日本の国際協力 NGO の資金調達リデザイン化と財務内容の強化」が公開されました。この報告書では日本の国際協力NGOの資金調達の現状や課題、これからの方向性について述べられています。
131ページある報告書を読んでみると、本当に丁寧に調査されたデータを元に、分析し、見解が述べられていて、国際協力NGOだけでなく資金調達を課題に持っている幅広いNPOにも役に立つ内容であることがわかりました。
今回は、ファンドレイジングの観点で、私が気になったポイントを中心にまとめていきます。
報告書における国際協力NGOの定義と数
この報告書が扱っている国際協力NGOの定義は以下です。
その上で以下を対象団体として活動実態のある756団体の財務データを扱っています。これだけの幅広い団体の情報からの結果は信頼できるなと思いました。
調査対象とした団体
定款にて「国際協力」を掲げている9,535団体のNPO法人中、年次報告書やホームページなどで活動実態がある団体658団体(約6.9%)
任意団体や一般社団法人などの他法人格でネットワークNGOの加盟団体や国際交流協会等に加盟しており活動実態がある98団体
国際協力NGOは経常利益10億円を境に2極化
この報告書では経常収益10億円以上を「大規模団体」1億円から10億円未満を「中規模団体」、1億円未満を小規模団体と分類しています。経常収益は下図にあるように大規模団体である6団体が全体の約6割の経常利益額を占めており、残りの661団体が残りの4割を占めています。この2極化の傾向は昔から続いています。
さらに4年間の年平均成⻑率(CAGR:Compound Annual Growth Rate:経常収益、経常費⽤、正味財産合計の平均成⻑率を算出したもの)から成長率をみると大規模団体は拡大・維持が83.3%を占めています。
【大規模団体の成長率】
【中規模団体の成長率】
そして、中規模団体においても72.4%が拡大・維持をしていることから、全体的に成長率が高いと感じてしまいますが、報告書では、中規模団体の成長率について深掘りをしています。
中規模団体の成長率について、設立年代で区切って分析をしています。成長を牽引しているのは2000年代設立の団体で、40%が拡大傾向、26.7%が現状維持、33.3%が縮小傾向となっています。特に上位2団体が数年後には10億円を超えて大規模になると予想されています。
【2000年代に設立された中規模団体の成長率】
一方、1990年代設立の団体は拡大傾向33.3%、維持25%、縮小41.7%という結果で、規模は2000年代と異なり3億円以下に集中しているのがわかります。1990年代に設立した団体の規模は縮小ぎみであることがわかります。
【1990年代に設立された中規模団体の成長率】
こうした、現状維持や縮小傾向の団体の課題感はどんなところにあるのでしょうか?
国際協力NGOが抱える課題として2022年12月に114団体にアンケートをとった結果が掲載されています。課題は資金不足と人材不足に集中しているのがわかります。
拡大傾向や維持傾向の団体で多いのは寄付型、縮小傾向で一番多いのは助成金型
今回の報告書で私が一番驚いたのが下図のグラフでした。成長している団体の多くの主な収入源が「寄付」で、縮小している団体の多くの主な財源が「助成金」であることが明確に示されています。
これらのことからわかるのは、資金不足の課題を解決する1つの方法は、団体が成長する過程で寄付に収入源をシフトしていくということです。
また、このグラフの自主事業は受託事業も含まれています。受託事業は取れた年、とれない年で経常収益が乱高下し、中長期的には成長が鈍化する傾向があります。つまり、受託事業と助成金で資金が調達できているうちに寄付の財源にシフトしていかなくては、ジリ貧になるということです。
これは国際協力NGOだけではなく広くNPOにも当てはまることなのではないかなと思います。
どれくらいファンドレイジングに投資したらいいのか?
いくら寄付集めの活動に経費を使っていくらの寄付を集めるか、こうした投資的経費割合を知りたい団体さんは多いです。
日本では、「ファンドレイジングに関わる広報活動費(ニュースレター発行等)」と「募金活動費(ファンドレイジングキャンペーン等)」の経費を分けて計上している団体は少ないで、妥当な%はだせません。海外ではそうした費用を明確に出している団体があり、以下のように紹介されていました。
この7%~26%が団体の規模の妥当なパーセンテージだとすると、経常収益 1,000 万円規模の団体で、70 万 円(7%)~ 260 万円(26%)、経常収益 1 億円規模の団体では、700 万円(7%)~ 2,600 万円(26%)となります。
寄付集めをしたいと思っている団体は、妥当な額はいくらくらいなのか?を知るために、どれくらい人件費やその他の費用を使っているのかを見れるようにしておくと投資対効果が見えてきます。
報告書には2つの団体の投資対効果について事例が紹介されていて、マンスリーサポーター集めに注力している団体は、相対的に投資対効果がよいという結果になっています。
投資対効果と言うと、ファンドレイジングのために出せるお金なんてない!と思われるかもしれませんが、どの団体も最初はありません。広報活動やキャンペーン実施を団体の仕事としてとらえてみんなで役割分担をしたり、ボランティアやプロボノに担ってもらうなど、やれることやった団体とやっていなかった団体の差が今の成長度の差になって表れているのかもしれません。
国際協力NGOの基本的なマーケティング手法はデジタルマーケティングだけではない
これまで国際協力NGOの寄付集めでは、検索したキーワード連動広告、SNS広告、Webサイトやアプリの広告枠表示、SEO対策、アクセス解析、動画マーケティングなどのデジタルマーケティングに投資し、寄付者の増加をはかってきました。
ファンドレイジングと聞くと、こうしたことをイメージする方が多いかもしれません。しかし、これは資金余力がある団体しか取り得ない方法です。成長している団体はデジタルマーケティングだけではなく、様々な手法をミックスして実施しています。
「成長している組織のキーワード」として報告書P16~P27に以下が紹介されていました。こうした地道な取り組み先に寄付者獲得の結果があるのがわかります。
・代表者の顔の見える発信
・アンバサダーマーケティング
・透明化する世界で正直に経営する(コンプライアンスへの対応)
・専門的な企業やコンサルタントとの連携
・インフルエンサーマーケティング
・資金調達のアライアンス化(他団体と連携したファンドレイジング)
・組織カルチャーの言語化
・事業の特徴的なキーワード設定(団体のポジショニングの明示)
・若手や中堅への権限移譲
・非金銭的報酬を重視
・事業と啓発活動(寄付者増加活動)を両輪として位置づける
・対面(オフライン)を戦略的に活用
・組織が一丸となって成長意欲と高い目標を持つ
マンスリーサポーターを増やすために
この報告書では、データを元にした分析だけでなく、様々な実践者からのコラムも含まれていて、ファンドレイジングの知識を得ることができます。
その1つである、2023年1月の時点で100人を超えるマンスリーサポーターがいるNPO法人アラジさんがどのような観点でマンスリーサポーター集めをしてきたのかのコラム(P115~119)がとても参考になりました。マンスリーサポーター集めをしている団体さんは是非読んでもらいたいです。
少し要約や抜粋をして以下紹介します。
マンスリーサポーター100人の壁
マンスリーサポーター募集開始当初は、代表の知人や長く当団体を知っている人、活動地域と縁がある人がほとんどであり、ニッチなサポーター戦略から拡大してきた。
既存サポーターが 100 人を越えると、認知度が拡がり「国際協力」、「アフリカ」、「旅」といったこれまでつながりがなかった人がサポーターになってくれるようになった。
ニッチなサポーター戦略の時は代表が「サポーターになって欲しい」というメッセージが大事だったが、100人を超えてからは、既存寄付者が SNS や友人関係の中で自分と似た境遇や属性にある人たちに対してメッセージをする方が新たなサポーターとの出会いにつながる。
500 円の単価設定は、マンスリーファンディングキャンペーンを実施する度に、約 1 割の方が、毎月の寄付額を増額してくれるため、増口の可能性を考慮して設計した。
寄付キャンペーンの考え方
3 月は周年キャンペーン、5 月は子どもの日に合わせたマンスリーファンディング、12 月は寄付月間と、定期的にキャンペーンを実施している。
寄付キャンペーンを応援してもらえるように、寄付・潜在寄付者とは、日頃からのコミュニケーションとして、代表個人の SNSから日常について投稿して、代表のひととなりを知っていただく機会としている。
寄付キャンペーンの流れは、序盤は告知やSNS での活動や想いの投稿、メルマガ配信をして、中盤には活動報告イベントの実施や講演・メディア露出が増えるように予定を立てる。終盤に応援メッセージの配信、メルマガ配信を実施し、サポーター登録が実施スケジュール序盤と終盤に増えるように設計している。
寄付者の接点として主に SNS を活用しているので、寄付キャンペーン開始前は、毎日 SNS を運用することや、実施前に、ドナーレンジチャートの作成、個別メッセージを送る人のリストアップをする。また、中盤のために、メディアリストや講演会リストを作成している。
SNS、広報の方針
特にSNSの運用の仕方が勉強になります。寄付者が知り合いから、知り合いの知り合いへと拡がるタイミングで、どのように自分たちが見られているかを意識した対応をされていて、他団体でも応用できるノウハウだなと感じます。
ドナーピラミッドの分析と活用
キャンペーンの度に寄付者の分析を詳細にされているのがわかります。サポーターの多くが複数の団体のマンスリーサポーターといった現状も把握されています。そして、増額してくれる割合も測っているので、見込みをたてて活動されているのがわかります。
新規サポーターと既存サポーターの継続について
メルマガ発信、年次報告書の送付などを多くの団体さんも寄付者とのコミュニケーション方法として考えがちです。アラジさんはそこから、サポーターになった時期によって継続率が異なることに気づき、「参加」してもらう場作りを一歩踏み込んでしています。こうした、寄付タイミングによる違いを知り、対応を変えていくこともマンスリーサポーターを増やすためには大切なことが伺い知れます。
ボランティア募集と定着のコツ、チームビルディング
アラジさんのすごいところは、ファンドレイジングのキャンペーンをボランティアの方々が参加するファンドレイジングチームで行っていることです。マンスリーサポーターかつボランティアされる人も多く、そうした方の継続率が高いことがわかります。一方的に増額や継続をお願いするのではなく、増額したい・継続したいと内面的に思わせる参加の場や役割を担ってもらう機会の提供が、マンスリーサポーターを増やすエンジンになっているのです。
さいごに
今回は、2023年4月11日にNGO研究会報告書「日本の国際協力 NGO の資金調達リデザイン化と財務内容の強化」を参考に、国際協力NGOの資金調達の特徴や課題、方向性をみてきました。
大規模団体と中規模団体の2極化、資金調達が重要課題な団体が多い、成長している団体は収入源の寄付の割合が高い、委託事業や助成金頼みが続く団体は中長期的にジリ貧になる。寄付を集めている団体は、ファンドレイジングの投資として経常収益の7%~26%の割合を投資している。寄付集めのマーケティングとしてデジタルマーケティングが主流だが、かけられる費用に依存するので、成長している団体は、それ以外のマーケティング手法を組み合わせている。そして、アラジさんのようにマンスリーサポーターを増やす努力を継続している団体から様々な事例やノウハウ共有がされており、そこから学び団体の行動に落とし込むことはできそう。
活動年が多い団体さんの成長率の鈍化が分析から指摘されていますが、活動歴は長くても、第二創業、第三創業と、新しいスタートや区切りをつけている団体さんも中にはあります。今成長している団体さんから学び、今の寄付者のニーズに合わせた活動にバージョンアップをしている団体さんが、寄付を伸ばし続けているのだと思います。
ファンドレイジングを推進したいと思っている方は是非今回の報告書を読んでみてください。たくさんの学びがあるはずです。
私はNPOの伴走支援をしています。今回の報告書を読んで、我が団体もファンドレイジングをなんとかしたい!と思った方は公式LINEやホームページの問い合わせからご連絡ください。
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