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家族旅行と心配り 【息子への手紙】

「ねぇあなた、太爾(たいじ)が旅行に行かないと言ってるけど、どうする」と妻が言います。
「何故行かない、と言ってるんだ? 留守番する代わりにお金をくれと言ってるんじゃないのか?」
「友達とカラオケに行く約束をしたとか言ってるわ」

その夜、次男で中学三年生の太爾と話をすることにしました。

「太爾! 何で行かないんだ。」
「ゴルフやりたくない人間を無理に連れて行くことないじゃない。それに友達とカラオケの約束したし」
「カラオケは何時でもできるんだから、先に延ばしてもらえばいいじゃないか。家族旅行は連休にしかできないし、皆で行くから家族旅行なんだぞ。それに行かないようなら、小遣いなんかあげないし、罰金をとるぞ! 罰金を払わないようなら、一年間小遣い無しだ」

罰金のおどしが効いたのか、太爾も二泊三日の家族ゴルフ旅行に行くことになりました。かなり強引なやり方でしたが、実は私には魂胆があったのです。

中学三年ぐらいになると、親父よりも友達の方が大切になるし、お金の計算もできるようになります。もう半分大人なので、自由勝手が始まります。家族旅行に行かない分のお金を自分にもらって何かをしよう、とか考え始めるものです。
かつて、私自身が「結婚式を止めて、その分お金を下さい。その分で新婚旅行するから」と言って、親に叱られた経験があるくらいですから、子供の気持ちはよくわかります。
だから、家族が一つになって動くことの大切さを教えたかったのです。そして、ゴルフという紳士のスポーツを一緒にやることで、厳しいルールと他人への心配りというマナーを教えたかったのです。

ところで、ゴルフを始めて驚きました。三男の向爾(こうじ)は小学三年なので全部ティーアップさせ、むずかしい傾斜からはフェアウェイの易しい所に出して打たせて、空振りなどのないように、楽しいようにさせていました。
初心者や女性、子供の場合には、まずボールが前に飛ぶように、ティーアップさせたり、芝の浮いた所に移してから打たせたりするものなのです。そうしないと、何度も失敗を繰り返して本人が嫌になってしまうし、後から来る組に待たせることになって迷惑をかけてしまうことにもなるからです。これもまた、他人への思いやりでありルールでもあります。

二番ホールで、太爾のボールが左に曲がって土手の木の後ろに止まりました。そこで、私はそのボールを木が邪魔にならない打ち易い所に移したのです。すると、太爾が「お父さん何してるの?」と怒った顔で近づいてくるのです。
「うん、木に当たるとケガをするので左に移したんだよ」と答えながら、こいつはルール違反を嫌がっているんだな、と感じ、一瞬ですが、何か恥ずかしい気になりました。ルールを教えようとして、ルール違反を彼の為にしていたのですから。

その後、ずーっと注意して見ていたら、絶対にボールを動かさないし、打数の計算も、いくら失敗してもゴマかさないで申告しています。去年まではグリーンで走ったり、スパイクで傷つけたり、次の所まで行くのにノタノタしていたのが全て無くなったのです。成長していく姿を確認できて、楽しく、嬉しいゴルフでした。
興が乗って、「太爾、ハーフで55を切ったら賞金だ!」と言ってしまい、三回も賞金を払わされてしまいました。

太爾、またゴルフをやろうぜ! もうすぐ私もシングルの腕前、お前が私を破ったら、何を賞品にしようかな? ま、当分無理だろうけどネ!

( 1992年 5月6日 記 )


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