虐待を受けてきた人には通用しない心理療法があると知って救われた話

27歳で一度目のうつ病を発症した。その時、自分の抱える苦しみが周りの人の抱えるそれとは多少種類が異なるものかもしれないと思った。そこから心理学の独学をはじめた。

河合隼雄さんの本を中心に読み、コンプレックスや無意識といった世界を自分なりに探った。また学びつつ臨床心理士に相談したこともある。他のカウンセラーから心理検査を受けたこともあった。

しかし何も解決しないまま初うつ病から22年目にして二度目のうつ病を発症した。自分の心を癒やす方法はもう見つからないのではないかと半ば諦めかけていた。

あるきっかけで精神科医の高橋和巳氏の著書『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ(筑摩書房)』を読んだ。その本には被虐待者には効果の望めない心理療法があるとの記述があった。

 ここで伝えたいことは、被虐待者(児)には、通常の精神療法やカウンセリングが通用しないということだ。
 なぜなら、この分野のほぼすべての療法は、「普通の」母子関係を理論的な前提として組み立てられているからだ。その療法を彼らに適用すると、回復を手助けするところか、かえって彼らの苦しみを増してしまうことが多い(特に専門家の読者にはこの点をお伝えしたい)。

『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳/筑摩書房
(太字には私が変更しました)

本書では続いて、効果の望めない心理療法が具体的に紹介されていた。私は以前素人ながら自分自身でここに紹介されている心理療法を何度か試してみたことがある。その際、毎回苦しくなった。思考が先に進まず気持ちが混乱してくる。最後には自分を責めはじめる。

どれだけ心理学を独学で学んでみても全く楽になれなかった理由がやっとわかった。私は被虐待者だったのに普通の親子関係が成り立っているのを前提とした心理学ばかりを学んでいたのだった。

高橋医師の本に出会うまでに読んできた心理学の本には虐待について触れているものはほとんどなかった。あったとしても虐待の概要に触れる程度のもので被虐待者のたどる心の回復過程について述べられているものは皆無だったように思う。

母子関係について触れた内容のものもあるにはあった。しかしそれも母子の間には愛着形成が成立しているのを当然としており愛着形成のあり方によって起こる諸問題を扱っているものばかりだった。

心理学を独学してみても何ら問題の解決に至らず限界を感じていた私は高橋医師の著書を読み希望を抱いた。やっと救われるのではないかと。

もっとはやく虐待関係の専門書を手に取るべきだったかもしれない。それができなかったのは、私の母は優しい人、という自分で自分にかけた洗脳が邪魔していたからだ。

またもし虐待に関する本を手にしていたとしても、それが二度目のうつ病発症以前であったら、虐待なんて自分とは無関係だとしてスルーしていた可能性が高い。受け取る側の準備が整っていなければ、どれだけ有用な情報であっても価値あるものにはならないのかもしれない。

既存の心理療法を受けても悩みが解決せず悶々とした日々を送っている人がいたなら、自分は被虐待者であるかもしれないという可能性を疑ってみるのもひとつの手段だとは思う。

ー 終わり ー


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