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第4波の中心は南へ:感染の中心となったホーチミン市の現状(7月6日夜現在)

既に第4波と呼ばれる感染拡大が始まって二カ月以上が経つベトナム。まだまだ収束の気配を見せません。これまで第1ー3波は、その強い感染対策で概ね二カ月を待たずして収束させてきたベトナムですが、今回は長期戦を強いられています。周辺東南アジア各国でも緊張が高まり、住んでいる人間としても、心の疲れが溜まる毎日です。

今回は感染が今も拡大しつつあるホーチミン市における感染状況、対策などをまとめてみたいと思います。ちなみに、ホーチミン市での第4波という意味では、当初キリスト教系宗教グループでの感染が注目されました。そちらについては以下のnoteで書きましたのでご参照ください。

(なお筆者はハノイ在住で、ホーチミンのことは同じベトナムとは言えやや「アウェイ」。情報は多くがメディア経由で、かつ肌感覚で市内の雰囲気は感じ難いところ、現地在住の皆さんからのご意見あれば是非お寄せください。)

ホーチミン市・感染拡大の現状

これを書いている7月6日夜の段階では、2日連続で国内感染者が千人を超えるなど、第4波の勢いはとどまるところを知りません。中でもホーチミン市はここ数日は連日500人/日以上、7月6日は710人/日と、後述するように検査数が増えているからとは言え、感染者数は急増しています。第4波前半の感染中心地であったバクザン省を抜いて、現在では第4波での感染者が7385人と、最も多い地域となっています。

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冒頭紹介したnote記事のような、第4波前半での市内での局部的な拡大から、感染範囲は次第に市全体に広がり、現座ではどの感染源が、どのエリアが、というのは言い難いくらい、全市範囲に感染が広がってきています。その中でも最も多いのはBình Tân区です(以下図での感染者数は7月5日現在)。

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ここ数日は日本電産のベトナム子会社から多くの感染者が出ていることも、大きく報道されています。工業団地での感染は、第4波前半の感染の中心地であったバクザン省、バクニン省で注目されましたが、南部も大規模工場は多く、工場労働者は職場も生活環境も密になりがちなので、大きな懸念となっています。

「神速」ワクチン戦略も…

ベトナム政府も手をこまねいているわけではありません。ただ打てる手はそれほど多くないのも事実。他国の例に漏れずベトナムもワクチン戦略にシフトする中、チン首相も「ワクチン接種を神速で頑張れ!」と発破をかけますが、無い袖は振れない、無いワクチンは打てない、と現実も。現在、チン首相も会う外国首脳全てにと思うくらい、「ワクチンに関して協力を、技術移転を」と「ワクチン外交」ならぬ「ワクチンお願い外交」を展開しています。

そんなワクチン接種戦略でも、現在の優先はホーチミン市。当初はワクチン接種のロジも大変で現場が混乱していたようですが、6月末には大分接種が進んできた模様。ただ、既に同市に送られたワクチン自体はかなり接種されているものと思われ、また回り回ってワクチン供給源の問題になってきそうです。

日本政府が提供したアストラゼネカ社製ワクチンも、第1陣、そして第2陣もホーチミンに優先して分配されています。今週末には米国政府支援のモデルナ製ワクチンもベトナムに届くとか。これもホーチミン市へ優先配分されるのでしょうか?

ローリング検査戦術は受験生にも

というわけで、そうは言っても国全体として限りがあるワクチン。なので、基本的な戦略はやはり「検査・追跡・隔離」というこれまでの方法です。中でも検査には相当力が入っており、その対象は感染地域から一般市民へと広く行われています。以下記事では「50万件/日」という相当な数が目標として掲げられています。

もちろん上記ツイートしたように、全てがPCR検査というわけではありません。迅速検査を15~20万人/日実施していき、潜在的な感染者を探し出してはPCR検査にかけるというパターンも多いよう。ともあれ、これだけの規模で行えば、割とする自分の番が回ってくる、といった感覚ではないでしょうか。ツイッター上では、在住日本人の間でも検査を受けたという体験談を出される方を見かけました。また各会社・工場に対して抗原検査などを義務付ける通達なども出ているようです。

またタイミングとして、今はベトナム全国の大イベントである高校卒業試験を前にしています。こういった状況ではありますが、ホーチミン市も試験は予定通り行われるようで、受験生や試験関係者は全員検査だと、これはこれで一大事業です。実際に検査で陽性となってしまう受験生も出て来ているようですが、感染、或いは隔離などの事由で試験を受けられない受験生には第二次日程が予定されているそうです。

ただこれだけ検査数が増え、感染者が増えると、濃厚接触者(F1)を隔離施設に入れるのも限界があります。ホーチミン市保健局は市内幾つかの地域でF1の自宅隔離を行うよう提言しています。物理的に全てのF1を隔離する場所がなくなる中、既に保健省もそのやり方についてガイドラインを出しているので、実施は間もなくでしょう。これも今後の課題になりそうです。

市独自の動きから、中央政府の直轄体制へ;次なる一手はあるのか?

これまでは市で独自の政策も打ち出してきたホーチミン市人民委員会。市内におけるソーシャルディスタンス措置に関しても、国内多くの地域で用いられている「首相指示第15号」「首相指示第16号」(内容についてはリンク先在ベトナム日本国大使館HPをご参照)を直接適用するのではなく、ホーチミン市人民委員会指示第10号というものを適用しています。細かい内容はリンクを張りました在ホーチミン日本国領事館HPをご覧頂きたいのですが、概して言えば「全体に首相指示第15号を適用しつつ、一部地域に首相指示第16号の内容を加えたもの」とĐam副首相自身が要約しています。

しかし、ここに来ていよいよ中央政府が居ても立っても居られないということなのでしょうか、直接感染対策を指導する姿勢を打ち出してきました。チン首相の以下の発言もあって以降、副首相も積極的に、そして直接的にホーチミン市での感染対策に言及するようになってきています。

このいわば「中央直轄指導体制」は、更なる強力な感染対策への序章なのか?第1波の頃からベトナムの感染対策を指揮してきたĐam副首相は早速「ホーチミン市はより強い感染対策が必要だ」と表明しています。今後数日の内にもまた大きな動きがあるかもしれません。

そしてハノイ市でも新たな市中感染が。その中にはホーチミン市からの流入を思わせる事例も。ハノイとホーチミンの往来は多く、両大都市が落ち着かないとベトナム全体の感染対策も収束は見えません。目が離せない緊張感が続きます。



11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。