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ホーチミン「教会」集団感染から諸々

最近どんどんと緊張感が高まるベトナムでの新型コロナウイルス感染拡大。その大枠的なものはまた書こうかなと思いつつ、今回はホーチミン市での緊張感を一気に高めている「教会での集団感染」について、少し疑問に思ったことをネットや書物で調べつつ、でも疑問も残りつつ、といったまだ生煮えな形ですがまとめてみました(ちなみに表紙写真はホーチミン市の教会ではなく、あくまで「イメージ」です、ご了承ください。)

キリスト教信仰グループでの新型コロナ感染

まずはその発端をおさらいすると、ホーチミン市Gò Vấp区にある「Hội thánh truyền giáo Phục Hưng」と呼ばれるキリスト教信仰グループで、新型コロナ集団感染が起き、29日朝の段階では58人が感染。中にはシェラトンホテルでシェフをやっていた方も接触者であったということで、同ホテルが一時営業停止に追い込まれるなど、大きな反響となっています。

しかも、ここで流行しているのが感染力の強いとされるインド変異種であるという検査結果も出たことから、ホーチミン市では更なる感染拡大へ緊張感が高まります。既に閉じられている不要不急の各種サービス業に加え、飲食業もデリバリーのみの営業となり、更にはタンソンニャット空港からの全ての人の入国を一時停止するという、激しい対策を打つに至っています。

そもそもどんな団体なの?

この「Hội thánh truyền giáo Phục Hưng」という団体の名前ですが、英語では「Revival Ekklesia Mission」と、ベトナム現地英語ネット紙で訳されています。あえて越語名から漢字を当てるならば「復興伝教聖会」となり、断片的な紹介などからは、いわゆる福音派と呼ばれるキリスト教系信仰団体なのかなと想像します。

あまりベトナムでこういった宗教団体が脚光を浴びる(今回の場合不幸な形でですが)ことがないので、新型コロナ感染もさることながら「これは何の団体だろう?」とネット上で調べますが、それ以上はなかなか情報は出てきません。ベトナム南部のプロテスタント系団体の総元締めである「Tổng liên hội Hội thánh Tin lành Việt Nam (miền Nam)」(ベトナム・プロテスタント聖会総連合会)総書記も「この団体は我々の会員教会のどれにも属していない」と、独自に活動をしていた、非公式団体であることを示唆しています。

上述したVN Express英語版では、この団体は1990年代に創立された、特定の宗派に属さない福音派の教会とされています。上記記事によればホーチミン市内には類似の教会組織、生活共同体が145もあり、それぞれが独立して活動しているとあります。それら教会の中には200人を集める規模の活動を行うものもある一方、ベトナム内務省は今回感染が発生したHội thánh truyền giáo Phục Hưngに常時参加している人数は29人と、それ程大きな規模のものではなかったと示唆しています。それでも、市内に145もこういう小さな単位の信仰グループ、教会があるのは驚きです。こういった断片的な情報を総合すると、家の教会と呼ばれる形式で非公式に活動している人たちだったのかなと推測されます。

ベトナムのキリスト教を巡る微妙な関係

「ベトナムは元々フランス植民地であった歴史があるのだから、キリスト教徒も多いんですよね」というのは確かにそうですし、街中には多くの立派な教会がみられます。ただ教会にしても団体にしても目立つのはカトリックであって、プロテスタントは少数派です。2019年実施のベトナム統計総局による人口センサスによれば、カトリック信仰者は586万人、一方プロテスタントは98万人と、後者は潜在的にはもっといるのではという論も多いとはいえ、その差はかなりあります。

(注:ちなみに、このセンサスでは仏教信仰者が460万人、国民8300万人が「無宗教」となっています。ここでいう「信教」はかなり厳格な意味での実践者を指していると想像され、もう少しライトな信仰者は、特に仏教では、もっともっと多くいると思います。)

プロテスタント信仰者には少数民族も多いと言われ、時に国の民族政策にも影響を与えることもあったことから、プロテスタント教会は時に小さな単位で、非公式に活動していることも多いようです。中国などに比べると異なる宗教に寛容なベトナムで、それを強調する活動も以下のように後押しされていますが、でもやはり微妙な関係は残っています。

密な共同体と新型コロナの悪い相性

さて新型コロナ集団感染の話題に戻りますと、実は今回の感染は既に起きて長い時間が経っており、元々の感染者から濃厚接触者(F1)へ、そしてF1がその接触者(F2)へと移す「第二周期」に入っているのではないかという報道もあります。この中でウイルスは既により広いコミュニティーへと広がっていると危惧されています。

韓国やマレーシアでも、宗教施設、宗教活動から新型コロナ集団感染が起きてしまったことは、流行初期からありました。小さい単位で、より人々が密になって活動、共同生活を送っているとしたら尚更でしょう。加えて上述したようなベトナムにおける、非公式と思われるグループで起きた今回の集団感染ですので、政府当局が更に厳しい目を向けるきっかけになるかもしれません。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。