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【短編小説】精度100%の天気予報

ぼくは夢を見ていた。
長い夢だと思う。
目が覚めても、動悸が激しく、なんだか体がぐたっりしていた。
でも、どういう夢だったのかぼくはまったく思い出せなかった

去年働いていたバイト先で「天気さん」という先輩がいた。ぼくの中でそう勝手に呼んでいた。天気さんは天気のことしか話さなかった。それ以外の話を振っても、苦笑いするだけで黙っていた。その顔を思い出すとなんだか悲しくなった。
彼の天気予報は世界一正確だった。
「今日はあたたかいね」
「うんでも、明日はすこし冷えるよ」
翌日本当に す こ し 寒かった。いつ雨が降るのか、止むのかも正確であったが、この体感的な情報の正確さには驚いたものだった。
彼が少しと言う場合、100通りの少しのなかで、的確な少しをぼくに伝えることができた。ぼくが想像する「少し」と寸分違わなかった。

「帰るころには風がでてるはずだから、きもちいいよ」
夏の蒸し暑い日だった。学校の制服に着替えて、店を出ると心地好い風がシャツをすり抜けていった。振り向いて天気さんをみると、にっこりと微笑んでいた。
その日は最後のバイトだった。

どこにでも嫌な人間はいる。
天気さんみたいな人もまれにいる。
さよなら みんな


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