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最近美術展に若い人が多い、という話

一昔前まで(と言っても、コロナ前の2020年くらいまでの話ですが)、美術展のコアな来場者と言えば50代~70代の男女、特に60代のアクティブ・シニアと呼ばれる層が一般的でした。
 ところが去年(2023年)、コロナが5類に移行し、美術展の入場制限が緩和されたあたりから気になっていることが。。。

「美術展に若い人が増えた」。

なぜ?


▶一人でも多くの来場者のために

丹精込めて作った展覧会は一人でも多くの人に見てもらいたい・・・というのはもちろんですが、そもそも展覧会には作品借用や輸送、保険、会場運営、広報宣伝など膨大な経費がかかります。私が経験したルーヴルやエルミタージュ、ワシントン・ナショナル・ギャラリーなど海外から作品を借用する展覧会では経費は2ケタ億がごくフツー。美術展といえどもプロデュースする立場としては、やっぱりビジネス、赤字は出せない・・・というわけで一人でも多くの方に足を運んでいただくために、来場者を分析、ターゲティングして、あれやこれやの宣伝戦略に知恵をしぼるのです。

▶コア・ターゲット戦略

60代のアクティブ・シニアをターゲットとするならば、もはやネットに代わられたと言われる新聞やテレビCMだってまだまだ有効だし、平日の昼間、展覧会の後に優雅にランチでも・・・という(若干ステレオタイプではあるものの)時間的にも金銭的にも余裕のある方々を意識して、館内や近隣のレストランとタイアップ・メニューを展開したり・・・というのはよくある話。

美術展のあとに優雅なランチを・・・

▶プラスアルファのターゲット戦略

その上で、いわゆるブロックバスターと呼ばれる最低でも30万人は期待する展覧会の場合、いかに若い層に足を運んでもらうかが大きな課題。“展覧会アンバサダー”に人気俳優を起用して、音声ガイドは売れっ子声優。オリジナルテーマソングや有名キャラクターとのコラボグッズを会場限定で展開したり。あの手この手で集客に奔走します。(もはやその多くは当たり前になっていますが。。。)

▶美術展に若い人が増えた

これらの宣伝戦略は10年以上前からとられている手法で、今もあまり変わらないのですが、最近とみに感じるのが、美術館に若い人が増えた、ということ。正確な統計を取ったわけではありませんが、肌感覚として若い人、特に20代から30代が増えた、と感じるのです。
 一体なぜ?
 現場からは様々な分析が聞かれます。曰く「コロナが終わってリアルな体験を求めている」、「”美術館に行く私が好き!”シンドローム」、「SNSにアップしたい」・・・などなど。おそらくどれも正解で複合的と思いつつ、最近ちょっとなるほど、と思う意見がありました。

撮影可能な作品の前で・・・

▶「アート思考」世代

ここ数年、年に1度、大学で特別講義をしています。これから社会人になる皆さんに報道や美術展プロデュースの話をするのですが、話題の1つに“アート思考”があります。データを頼りにする“サイエンス思考“に代わって美的感覚を頼りにする考え方です。ニューヨークやロンドンのエリートの間では、MBA講座に通うのと同じかそれ以上に、有名美術館のツアーやセミナーに参加し、美的感覚の源泉となる感性を磨くことが注目されている、とか。
 そしてこの春、話をした生徒の感想に「なぜ美術展に若い人が増えているのか?」の答えのヒントがありました。以下抜粋、引用です。

“絵や展示会の情報を皆無で行ってしまったら、その作品を最大限に楽しめない。だから知識がない人(自分)は、アートが好きな人に失礼だと感じ、行けなかった。今はSNSで(アートが)好きな人が説明の様な投稿をしてくれる為、情報を得られる。だから私は、展示会に行ける様になった。10代が美術に足を運びだした、理由の一つではないかと思った。”

受講生の感想文より

「若い世代は『何を得られるのか』に納得しなければ時間とお金は使わない」、とよく言われます。ネットで情報を集めて、自ら体験したい事柄を取捨選択して納得して初めて行動する。美術展に足を運ぶモチベーションは「美術館に行く私が好き!」だったり、自撮りをSNSにアップすることだったとしても、発信された情報は受け止める側によって様々な形で消化、昇華、拡散され、次の人へのモチベーションになって。。。
 彼らの行動の選択肢の一つに美術展があるように、プロデュースする側も進化しなければ、と思うのです。

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