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◎幾度も幾度も「ハラ!」と言われ続ける。コーポリアルマイムの話◎


皆様こんにちは、今井夢子です◎

今日はちょいと記憶をさかのぼり、勉強の為に日本からフランスに出てきた2018年夏、初めて受けた長期ワークショップの内容報告をば!

その名もずばり「2週間泊まり込みコーポリアルマイム合宿」!

◎コーポリアルマイムとは??
エチエンヌ・ドゥクルー(Etienne Decroux (仏) 1898-1991)により確立された、「思考する身体の芸術」とも呼ばれるマイム(言葉を使わない演劇)メソッドのひとつ。
マリオネットのように身体を「頭」「首」「胸」「腹」「骨盤」「体重移動」に分け、身体で彫刻を作るかのように各パーツを動かしながら、ノンバーバルなドラマを生み出していく。

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こちらが現代マイムの創始者と呼ばれる、エチエンヌ・ドゥクルーさんです。
ちなみに我々に馴染み深い、壁が迫ってきたり、トランクが空中で止まったり、綱を引っ張ったりする、例のアレは、「パントマイム」というコーポリアルマイムから派生した別のジャンルになるらしく、今回のワークショップで学んだものとは別物です。
(私はコーポリアルマイムの方が詩的なので断然好み)
有名なマルセル・マルソーも、初めはドゥクルーに師事していたとか。

◎WSに参加するまで
フランスに着いて、身体表現を学べる夏のワークショップを調べまくっていたところ、多く目についたのが、「クラウン」「マスクプレイ」そして「マイム」でした。
そういえば私はフィジカルなものが好きだが、マイムはまだやったことがなかった・・・

新しいジャンルを取り込みたい!

というわけで、かなり勢いで参加を決意。
パリから600キロ離れた、南フランスの超!超!超ネイチャーな町へと単身出向いたのでした。

我ながら、勢いだけで出向くにはめちゃくちゃ遠い、電車を乗り継ぎ7時間の旅を経て、たどり着いたのはこんなとこ。

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ネイチャーーーーー!!!
稽古場のお向かいには、こんな広々した河原が!
そして私を迎え入れてくれたコーチがこの方。
トーマス・リーブハート氏です。
この全てを受け入れ肯定しているかのような表情を見ておくれよ。

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私はこの時勉強不足でよく分かっていなかったのだが、彼もまたエチエンヌ・ドゥクルーから直々にマイムを学んだひとり。
そのトーマスから2週間みっちりマイムを学べるという、なかなかリッチなワークショップ企画に、行き当たりばったりに参加してしまったわけです。

今思えば、フランス生活の方針を決めるような、本当に運命的な出会いでした。

トーマスはみっちりお稽古するなかなかストイックなコーチだったので、「お金と時間を使うのならば、搾り取れるだけ学びたい」と常々思っている私にはとても合っていました。
いえーい!

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(なぜハイタッチを求められていたのかは、もはや全く思い出せない)


◎ワークショップ期間中の、一日のスケジュールは・・・

では期間中の1日の流れを記してみましょう。

8:00~ 
参加者の皆と共同生活をするコテージにて、起床。
適当に食べていいよと置かれているパンを齧り、超ネイチャーな町を歩いて5分の稽古場に向かう。

9:00~11:00
クラススタート。最初の2時間はアレクサンダーテクニークのエクササイズをみっちりやる。自分の身体の可動域を無理なく広げていきながら、もっともっと自分の身体が自由に動くことを知る時間。

11:00~13:00
コーポリアルマイムの基礎エクササイズ。体の各部位を分けて動かす練習。「フィギュー」と呼ばれる短い振付の練習。
ダンスのアイソレーションも、身体の各パーツを分けて動かす、という意味では同じなのですが、ここに細かな方向の指定が入るので、すごく難しい!
トーマスは日本に何回かWSに来たことがあるらしく「腹」という言葉だけ知っていて、この2時間の間に、幾度も幾度も幾度も幾度も「ハラ!」と言われ続ける。

13:00~14:30
コテージに戻って皆でランチ。近所のレストランで作ってもらっているらしい炊き出しを、蜂がぶんぶん飛ぶテラスと言う名の、ほぼ森の中のような庭で食べる。
突然皿の中に巨大な松ぼっくりが落ちてくるハプニングなども、多発。
野外劇やっててほんとによかったぜ、と思ってました。

14:30~16:00
午後のクラスでは、「椅子の背にかけたジャケットを持ち上げて着る」という動きをテーマにクリエーション。
このシンプルな動きを細分化し、そこに「方向の変化」と「高さの変化」を付け加えながら、ムーブメントを作っていきます。
さらにはムーブメントの中に、関連性のないテキストを足して、動きと言葉の関係を探る。
ひとりひとりのパフォーマンスを繋げての短いショーを創り、最終日にはオーディエンスの前でプチ発表、という嬉しい時間も。


16:00~17:00
最後にインプロヴィゼーション。モチーフを使って、「感じること」「聴くこと」から生まれるものだけを抽出するような、静かなインプロ。
なにかやらなきゃ!と思ってしまいがちなインプロなのですが、「なにかをやろうとすること」が最もNG。自分の内部の声を聴く、とても繊細な時間。
仲間たちの作為のない表情が美しくて、何度も涙したりしました。

17:00~19:00
クラスは終わって、夕飯前の憩いの時間。
初めの1週間は、言葉がわからないことが悔しくて、毎日河原で泣く。
後半の1週間は、言葉が分からなくても仲良くなれることが分かって、皆でアイス食べにいったりビール飲みに行ったり。
我慢できず寝落ちる日も多々。

19:00~
また蜂がぶんぶん飛ぶテラスで、皆で夕食。
一日中身体を動かしているので、私は赤身肉とか赤身肉とか赤身肉とか食べたいのだけど、食卓に上がるたんぱく質の量が少なすぎて、「たんぱく質くださーい!」と夜空に叫んだりする。

そして死んだように爆睡。

という、甘ったれの私には、かなりストイックな内容でした!


◎学び

アレクサンダーテクニークの時間では、私が常々格闘している反り腰が日に日に改善されていったり、余計な力が抜けていくことで外からの刺激に敏感になり、五感が開いていく感覚を得ることができたりしました。

クリエーションでは、「方向」と「高さ」によってこんなにも、シンプルに動きの可能性の幅が広がるのか!と、今まで理屈で振付を考えがちだった私には、目からうろこでした。
身体が普段アクセスしない方向に動くと、心も普段とは違うところに向かう。
その結果がテキストを語る声によってアウトプットされて、自分でも変化をキャッチすることができる。
一度に何粒もオイシイ発見ができるクリエーションでした!


それから。
コーポリアルマイムは、非常に振付的で、型は細かく正確に決まっているのですが、ダンスではなく、演劇としての表現手法のひとつである、というのがカギだなと思いました。

ひとつの動きの中に、どんなドラマがあるのか。「ためらい」があるのか。

例えばトーマスの動きを見ていると、上げたカカトが床に付く、ただそれだけの動きで、人物が葛藤し選択し行動した結果、心の底から安堵した、ということが伝わる。

そういう瞬間って、とってもとっても演劇的で愛おしい。

「動き」だけでは見えない。それはただの「振付」でしかない。
「精神」だけでは見えない。それはただ「思っているだけ」。
「こう見せたい」では見えない。それは「作為」でしかない。

「動き」と「精神」と「真実」が相互作用して、ドラマが見えてくるのです。

とてもシンプルだが、追及していく必要のあること。
自分の得意な「身体」という側面から、アプローチしていけたのが、とても私に合っていたように思っています。
そんなことを学んだコーポリアルマイム合宿でした。

ちなみにそのあとパリでさらに半年ほど勉強しました。
作業がとにかく地味で地味で地味で地味で、仕上がるものも華やかというよりは内側からじんわり輝く美しさ、という感じなので、即戦力を磨くためには向かないかもしれないけど、こういうことを表現者の基礎稽古として積み上げていく必要があるよなあと、つくづく思うのでした。


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