映画「光復」 嫌悪と憧憬がとまらない
□「光復」(2022年12月より順次公開)
「神様のカルテ」や「桜のような僕の恋人」の
深川栄洋監督による自主映画。
若いころの自殺願望。
深川監督にとって映画館は
気持ちを落ち着ける場所だった。
5人のスタッフで自分が求める作品を
追及する”原点回帰”。
出演は「桜の園」の宮澤美保。
彼女は深川監督の妻であり
本作のスタッフも務める。
ほかキャストの8割は
オーディションで集まったロケ地長野の俳優。
□はやく圭子を殺してあげて
耳障りな女性の金切り声。
生活に疲れた家屋。
うす暗い室内で
中年の女性が老母を𠮟りつけている。
圭子は長野の実家で父の介護、
父の死後は認知症の母の介護をしている。
日の差さない家屋。
零し喰らう母。
生気のない圭子の瞳。
さあ、お馴染みの陰湿な日本映画のはじまり。
そう思ったのは大きな間違いだった。
孤独な介護、生活保護の打切り、不穏な地方都市。
この序盤、振り返ってみれば幸福すぎる時間だった。
これから圭子に起きること。
それはおおよそ考えられる
地獄、絶望、悪意のすべて。
そして映画には一片のユーモアも愛嬌もない。
はやく圭子を殺してあげなよと何度も思った。
自殺願望の中学生さえ辟易するような
絶望と悪意の嘔吐。
それが深川監督42歳の自主映画だった。
□獰猛な表現者
映画と映画館が嫌いになるかと思った。
親や友人といった自分の
大切な人には見せたくないと思った。
かつて深川監督の「神様のカルテ」は
嘘くさく感じてダメだった。
「そらのレストラン」は
寝てしまった。
「桜のような僕の恋人」は
ポスターヴィジュアルで敬遠した。
映画業界で深川監督は”成功している”監督である。
大多数の観客を対象とした映画の監督に選ばれている。
そんな監督が
本性を剝き出しにした作品がこれだ。
説明も、明るさも、癒しもない。
これまでの作品は何だったのか。
なにが神様のカルテだ。
製作委員会方式に依らず
己を追求すると映画監督というのは
これほど獰猛な表現者と化すのか。
私は監督の自主映画というストレートの危険球に打席で失禁した。
世界の誰も共感できない悪意を描く。
自分の妻を裸にして、毛まで削いで。
どうしてここまでやれる。
この作品への嫌悪と憧憬がとまらない。
心が痙攣してる。
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